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ウル:初めての街

 夜明け、ウルは森を抜けて歩いていた。

 昨夜遭遇した猫も一緒のようだ。猫は、ウルの足元を擦り寄って離れない。


「お前、いつまで俺に付いてくるんだ?」


「にゃ~?」


 自由奔放に、勝手気のままに猫は付いてくる。

 ウルもどうやら嫌ではないらしく、時折しゃがんでは猫を撫でている。


「随分と人懐っこいけど、お前、飼われてないな」


 ウル達の国では、飼っている動物には証として目印となるものを着けなければならない決まりになっている。猫ならば首輪とかだ。だが、この猫には目印となるものは着けられていなかった。


「なぁー、お前さえ良ければ一緒に来るか? 一人旅ってのは退屈でな。どうだ?」


「にゃ~!」


 理解をしたのかは不明だが、猫はウルの足に身体を擦り付ける。咽を鳴らしている姿にウルは知らずに癒されていた。


「そうと決まれば名前だな! さぁーて、どんな名前がいいかなぁ」


「にゃ~」


「白い猫だもんな。どうすっかな」


「にゃー!」


「うおお!?」


 考えに老け込むウルを気に入らなかったのか、猫がウルの頭に飛び乗った。そして、ウルの匂いを確認するかのように髪の毛に顔を埋めている。


「そんなに俺の黒髪が気になんのか? ……て、待てよ……白と黒は真反対の色。反対……そうだ!」


 猫を頭から引き離し抱き上げる。ウルは猫の顔を見ながら宣言する。


「今日から、お前の名前は……ルーだ!」


「にゃ~!」


 ルーと名付けられた猫は、ウルの顔を舐める。

 ウルの名付けた名前が気に入ったのだろうか。


「じゃあ行くか、ルー」


 ウルとルーは再び歩き出した。余談だが、ルーの名前は、ウルを反対にしてルウからのルーである。

 そんなことは隅に置いておこう。ウルの視界に、人の活気が入った。そう、街に着いたのである。


「ようやく街に着いたって。俺の記念すべき最初の街だ!」


 特別豪勢な造りの建物はないものの、それを補って余りある街の活気がそこにあった。その証拠に、着いて間もないウルの腹の虫が鳴った。


「そういや朝からなんも食べてなかったな。喉も渇いたし、何か食べよう」


 ウルは匂いに釣られて店に入っていく。テーブルに着くなりメニューを開いた。


「ご注文は決まりかね」


「牛の甘辛炒め、バターライス、レモンソーダ……あと、ミルクに浸したパンを。支払いはコレで」


 ウルはウェイターに〈送迎書〉を見せた。

 〈送迎書〉を持つ者は、様々な特典を得られる。

 飲食の支払いがタダになるのもそのひとつだ。


「そうか……精進の儀だね。懐かしい、私も昔に行ったもんだ」


「そうなんだ? どうだった? キツかった?」


「やはり心許こころもとなかったよ。私の時は、初日から豪雨に見舞われてね。最悪な出発になってしまったよ。それでも、色んな街で、色んな人と交流することで世界が広く見えていったんだ」


「へぇー! 俺もなんとかなるかな?」


「大丈夫。それに、精進の儀を乗り越えれば、大きく成長できている筈だよ。頑張って!」


「うん。ありがとう!」


 ウェイターの言葉で勇気づけられたウルは、少し心に余裕を持てるようになった。注文から暫くして料理が運ばれてくる。


「あれ? 俺、プリンなんて頼んでないって」


「それは私からのサービス。景気つけに食べて。旅の無事を祈っているよ」


 ウェイターの心遣いにウルは心を射たれた。

 初めて来た街で、親切な人と出会えたことは、ウルにとって心強い事になった。


「にゃ~」


 ルーが、物凄い勢いでパンを平らげていく。

 それを見たウルも負けない食べっぷりを見せていく。


 あっという間に食事を済ますと、ウェイターに別れを告げて街を散策していく。そこで、ルー用の首輪を買って着けてあげる。ルーは嬉しかったのか、ウルの足に身体を擦りつけていた。


「夜は冷えるから、何か上に羽織れるものでも買おう。何なら今日はこの街で宿を取るか」


 ウルは、ゆっくりと街を見て回っていった。

 時間に追われず過ごせるのも旅の醍醐味なのかもしれない。陽はまだ高かった。

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