ティタ:全力少女
ウルとメイルと別れてから十数分。
難なくティタは、森を抜けていた。その先にあったのは、小さな集落だった。
「……静かだよ……」
人の姿や声もない集落。そのあまりの静かな光景にティタは不気味さを感じていた。
「あのー、……誰か居ませんかー?」
ティタが呼び掛けるも応答なし。よく見ると、家の窓は閉めきられており、カーテンで覆われていた。
「カー!」
集落の上空では、カラスが大量に飛び回っており、太陽の光を遮っていた。そのうえ応酬する鳴き声。更に不気味さに拍車を掛けている。
「……長居は無用のようね……」
ティタは、その場から逃げるように走り出す。
しかし、カラスの鳴き声は遠くならない。堪らずティタが後ろを振り返ると、カラスの群れが追ってきていた。パニックになってしまうティタだったが、直ぐに冷静さを取り戻すと、再び走り出す。
(何でカラスが追ってくるのよ! 私を取って食おうとしてるとか!?)
(違う! そんなわけないよ。落ち着け私! カラスよカラス……理由がある筈だよ……)
「カー!」
走りながら思考を止めないティタ。そしてひとつの答えに辿り着いた。
「欲しいのは、コレ?」
着けていた髪飾りを放り投げる。すると、カラスの群れが一斉に髪飾りに群がった。ティタが着けていた髪飾りは、太陽に照らされていたことで、カラスにとって光り物に見えていたのだ。
「お母さんからの大事な髪飾りだったのに……。出だしから災難だよ」
肩を落とし、さっきまでとはうってかわり歩いていく。ティタの額にはうっすら汗が滲み出ている。彼女が全力で走ったからだろう。
「ウルとメイル……大丈夫かな……。何でもなければいいんだけど」
背負っていた鞄を降ろして、鞄にもたれ掛かる。
これからどうなってしまうのか……、ティタに不安が一気にのし掛かる。だがその不安は直ぐに消えていった。ティタの視界に希望が見えたからだ。
「馬車だ! あれに乗せてもらえば歩かなくて済むよ」
「すみませーん! 私を乗せてって貰えませんかー?」
水を得た魚のように駆け出す。カラスとはうって変わり、今の彼女には馬車を引いている馬が愛しく映るのだった。