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五話 トラブルシュート完了

 探索者達は荒野を歩いていた。

 見渡す限りの荒野に辟易としながらも、襲い掛かる魔物を打倒しながら進むのだ。


 そんな時、一行の中でも特別な立ち位置にある魔法使いの少年、ライガーは今後の展開に頭を働かせていた。


(魔物が活発化した原因とはなんだろうか。繁殖シーズンなら異常とは言わないだろうし、隕石でも落ちたか? ……いや、それは絶滅原因だろうし、それって活発化とは違うし。何が原因なのだろう)


 考え事に没頭しながらも、ライガーは襲い来る小型の魔物を魔法で仕留めていく。

 呪言を唱えず、その挙動の度に発動する攻撃魔法は自動的に魔物を迎撃し、その急所へと必中と言っても良い程の精度で命中する。

 その様子を見た一行は、その凶悪さに背筋から冷や汗を流した。


「お、おいライガー、終わったぞ」

「……ん? おお、」


 思考の海から浮上したライガーは改めて周りを見回す。

 辺りには小型且つ足の速いタイプの亜竜種がいる。しかしそれらは例外なく死んでいた。

 咽返る程の血の匂いが周囲に広がっており、それを認識したライガーは顔を顰める。


「――――風に嘆願する、血の匂いを吹き飛ばしたまえ」


 呪言が告げられ魔法が発動する。

 一行は血の匂いが薄められた事に若干の安心を感じるが、ライガーは気だるげな表情で辺りを見ていた。


「ライガーさん」

「えっと、トーマスさん、でしたっけ?」


 そんなライガーにトーマスが話しかける。

 トーマスはライガーと交渉を行って以降、紙に何かを記し続けていた。そして今、その書いた紙を取り出しライガーへと手渡した。


「……これは?」

「魔物がどちらから来たかを書いたモノです。それを見ると解る通り、魔物達が来るのは殆ど東からなのです」

「詰り、魔物共が来た方向に異常が有る、そう言いたいんですね?」

「ええ、私はそう考えます」

「成程……」


 トーマスの意見にライガーは顎に手を当て思考を奔らせる。

 現状、ライガーは亜竜種の魔物が活発化した理由に見当がついていない。

 手掛かりがない状態の調査は闇雲なモノでしかなく効率も良くない。

 だからこそ、他者の意見は有り難いモノだった。


「……うん。行ってみようか、東に」

「宜しいので?」

「うん、どのみち手掛かりは無い様なモノでしたので。これからも何か気付いた事が有れば遠慮なく行って頂きたい」

「勿論ですとも。そちらの用事が速く終わる程に私達も助かりますのでね」


 お互いに笑いながら東を目指す事を決める。

 だがその前に、と二人は倒した魔物から今食べる分の肉を取りそれを焼いて皆で食べるのだった。



 一つの夜を挟んだ翌日。

 一行は東の荒野に光を見つけた。

 最初にそれを発見したのはロングボウを得物とする男だった。


「! 光だ、赤い光が見える」

「光? おいテル、どっちだ?」

「このまま真っ直ぐだよ。……あと、テルと呼ぶな。僕はまだ届いちゃいない」

「――――風に嘆願する、我が眼に遠くの景色を映し給え」


 ロングボウの男の言葉を聞いたライガーは遠視の魔法を発動させる。

 ただ真っ直ぐに見つめたその先にそれは有った。

 クレーターなのだろうか、地面に窪みが有りその下から強烈な赤色の光が発せられている。ライガーはその光に魔力を感じ取った。強烈な力だ、脈動する筋肉の様な、早鐘を打つ心臓の様な印象を与えるそれこそが、魔物達を活発化させていたに違いない。


「どうよ、魔法使いの眼から見て」

「うん、多分あれだと思う。あれじゃなくても、調べておくに越した事はない」

「だろうな。よし、さっそく行こうか」


 一行は光の方へと進行方向を変え、歩む足を速める。

 暫く歩き、一行はその光へと辿り着いた。

 クレーターの中から発せられる光の正体は赤く輝きを放つ巨大な結晶だった。


「なんだ、これ」

「宝石か?」

「それにしても馬鹿でかいぞ」

「高値で売れたりして……」


 その赤い結晶を見て一行は賑やかに話し始める。

 しかし。ライガーとトーマスだけがその結晶を見て苦い表情を作っていた。


「これは、もしや……」

「ああ、魔石だよ。それも指の先程度とかじゃない、一平方メートル以上の大物だっ」


 魔石。

 それは魔道具を作り出す上で欠かせない代物であり、数少ない魔道具の職人達はそれを手に入れたいが為に様々な戦いを行っていた。

 それは、ゲームの中だからこそ小さな問題で済んでいたが、現実でそれが起こればどの様な悲劇が待ち受けるかは想像に難くない。


「……トーマスさん、すごい利益だけど、手に入れる気ある?」

「……遠慮したいところですな。何せ、指先程度の代物でプレイヤーに百対百を行わせてしまうのですから」

「魔道具の希少性が招いた悲劇って感じだよね」

「おまけに魔道具の製作知識を手に入れた者も作った事が無いモノが圧倒的に多く、実戦投入して爆発するという事案が多発し最終的には爆弾の様な扱いになってしまいましたからな」

「酷い話だ。……で、これをどうするかだよね。原因は間違いなくコイツだろうし。あ、ジョウ!! 迂闊に触ってはいけない!!」


 ライガーとトーマスは頭を突き合わせてこれをどうにかせねばと考える。

 ただしその思考の中に街へ運ぶと言う選択肢は排除されていた。


「ライガー、君は魔石を扱う事は出来るか?」

「……知り合いに魔道具を作れる魔法使いが居る。もういくつも作ってるから失敗する危険性は皆無に等しいけど、その人がくるまでコイツを放置するのは不味すぎるよ」

「確かに。……何か、策はないモノですかねぇ」


 二人が悩んでいる間にも、一行はアイテム覧から肉を取り出し焼き肉パーティーを始める。

 悩みながらも、二人は更に取り分けられた焼き肉を食す。

 考え事は、食後も継続された。


 暫く経ち、ライガーは一つの考えを打ち出した。


「……いっそ土へと還してしまおうか」

「埋めるのですか?」

「いや、えっとね。埋めるのは確かにそうなんだが。地中深くにこいつを生めてこの地域全体に活力を与えるんだ。どうにも魔石から発せられる魔力が高濃度且つ局地的に影響を与えている為に、魔石の近くに有る縄張りに居た魔物が活性化したんだと考えられる。だから、それを薄め且つ公平に辺りへと拡散してしまえばバランスが取れると思ったのさ」

「成程。しかし、掘り起こされはしないかね?」

「そこも一応考えてある。多分どうにか出来る。……失敗してもデメリットはないし、取り敢えずやってみよう」


 ライガーはアイテム覧から怪しげな液体の入った瓶を取り出し、その中身を一気に呷ると巨大な魔石の前へ躍り出ると魔法を行使し始める。


「――――土へ嘆願する、我が意を汲み陣を敷き給え」


 土の魔法が発動し、周囲に地上絵の如き巨大な魔法陣を展開する。


「――――再度土へ嘆願する、彼の魔石をその懐へ隠し給え」


 魔法の発動と共に大地が蠕動し、喉を通る食物の様に巨大な魔石を飲み込んでいく。

 探索者の一行はそれを面白半分で見つめている。

 何故なら、普通にS.W.をプレイした場合魔法を見る機会など殆どない。

 故に彼らは貴重な体験をしているのだ。


「――――日頃より我らのそばに寄り添いてその生活を支えてくれる皆様に感謝を。また、毎度の嘆願に快く力を貸して頂いた事にも感謝を。皆様に、其の魔石を献上致します。我ら人には過ぎたる力、どうかお納め下さいませ」


 ライガーの思いついた事とは超自然的存在へその魔石を委ねる、言わば押し付けだった。

 現状、魔石は人間の争う原因となり易いモノである。

 例えその価値を知らずとも、誰かがそれを欲するならば誰かの欲するモノを欲すると言う人間もいるのだ。故にライガーは、魔石を人の手の届かない所へ追いやる事を決めた。

 魔法陣が発行する。

 魔石と同じ赤色の輝きを辺りに撒き散らしながら陣に魔力を奔らせ、辺り一面が赤色の輝きで埋まった。

 その一瞬の後、一行が眼を開けると、その周辺には神殿が経っていた。

 立派な造りだ古代ギリシャの様式に似た荘厳なる神殿に一行は眼を奪われる。


 神殿の周りを発光する球体が飛び交っている。

 強い魔力を秘め赤色に輝くそれらは、魔石の影響を受けたモノだと一目で解るモノだった。


「……ふぅ、成功かな?」

「ライガー、これは?」

「ん、魔石をこの地に住まう方々に捧げた。人の言葉で言うならば精霊ってのが最も近い概念かな。そして飛び交っている光球は生まれたての精霊。ほら、鮭の稚児って透けてるでしょ? それと同じように成長に用意された魔石の魔力が消化しきれていないのさ」

「これらは、人に害を為さないのですか?」

「人が悪意を持たない限りは無害だと思うよ? むしろ敬う事で恩恵を受けられるかもしれない」


 一行は突如姿を現した神殿にただ眼を奪われていた。


「さて、約束だからね。麦の民の住む村へ案内するよ」


 ライガーはそう言うと、荷物を纏めて戦闘を歩き出した。

 その後ろを慌てて一行が追う。

 トーマスはライガーがこれで解決だと言った理由が判然としない為、この解決宣言に戸惑う。

 が、精霊という人間じゃない神秘的存在を目視したが為にそれらがこの魔石を守護するのだろうと当たりを付けてどうにか納得した。

 事実その通りだった。

 この地に住まう精霊は、献上された魔石の力によりその位階を三段飛ばしで駆け上がっていた。

 浮遊霊クラスの力しか持たなかった精霊が軒並み強力な魔法を使える様になっている為、守りはほぼ万全と言える。

 それを解っていたからこそライガーは先を急ごうと提案したのだった。



 一行は襲い掛かる亜竜種の魔物共を倒しながら麦の民が住む地へと足を進める。

 到着には魔石の神殿より二日程度の時間を有した。


「さて、ここが君達の目的地だ。この道程に沿って歩けば、麦の民の村へ辿り着く。道中には魔物とかの危険はないから安心して良いよ。これで案内は終わり、後は君達が自由に交渉を行ってくれ」

「おう、道中ありがとな!!」

「ホント、旅の途中でシャワーが浴びれるとは思わなかったわ」

「サンキュー魔法使い!!」

「帰りに会いましたら護衛をお頼みしても?」

「状況によるかな?」

「心得ました。それでは、これで」


 一行と魔法使いは別れる。


 農道を歩く探索者の一行、その背中が見えなくなるまでライガーは見つめ続けた。


「……さ、仕事の続きだ。――――土に嘆願する、我が意を汲み陣を敷き給え」


 呪言が告げられ魔法が発動する。

 巨大な魔石をその地へ捧げた時よりも小規模な陣が敷かれ、荒野と農地の境界線を縁取る様に赤い光が奔った。


「――――魔石を用い呪言を唱える。――――土へ嘆願する、捧げし魔石を用いこの地へ災厄を退ける結界を敷き給え」


 境界線の輝く線は一層赤く輝き消える。

 それを見て、ライガーは満足げに頷くのだった。


「……うし、魔石を要にした結界が張れた。これで麦の民に有害なモノは立ち入れなくなった」


 ライガーは巨大な魔石の有ったあの場所で事が終わった様に言ったが実際はそうではないと考えていた。

 麦の民にとって、最大限望むべき結果は亜竜種の活発化した原因などではなくその身の安堵だ。

 例え亜竜種の脅威をどうにかしたとして、その他の脅威が現れないとは限らない。

 故にライガーは魔石の欠片を用いて結界を張った。

 この結界は大地の力を借り、魔石の力を織り交ぜた強固なものである。

 その効果は、この地に住む麦の民の害となる者を境界線の外側へ弾き飛ばすというモノだ。

 これにより、ライガーは麦の民が望むモノを最高の形で送った事に成る。


「じゃ、レイモンド氏に報告だ」


 呟きながら、ライガーは夕飯の事を考える。

 パンを食べようか、それとも干し肉を食べようか、或いは両方頂こうか。

 そんな事を考えながら農道を歩くのだった。



「……と、この様に原因と思われる魔石へ対処を行い、更に農地と荒野の境へ結界を敷きました。これにて数年間の安全は確保されたと見て良いでしょう」

「何から何までありがとうございます。今夜もこちらで食事を用意させていただきました、どうぞご堪能くださいませ」


 報告を終え、今日はレイモンド氏の屋敷へと泊めてもらえる事になった。

 話を終えた僕は、まだ昼間だと言うのに夕飯への期待で胸いっぱいだ。


「そう言えば、先程こちらへ到着した冒険者の方々が何やら市場に向かいましたな」

「早速か。まあ、状況を考えれば当然だろうか」

「お知り合いでしたかな?」

「ええ、この村へ用事があるらしいので案内をしました」


 そんな会話をしながら階段を降りる。

 階段を下りると直ぐに玄関口だ。


「では、日が暮れる前にお戻りください」

「解りました、では」


 レイモンド氏と別れ、僕は市場へと足を運ぶ。

 目的はパンやその他の食材だ。

 先日の恐竜討伐祭りで肉は大量である。

 一通りひき肉だったりロースだったり、生だったり良く火が通っていたりするそれらを売りさばいて纏まった金を手に入れるというのも良い。

 しかし亜竜種の肉が大量すぎて少し困りモノだ。

 過去、迷宮を踏破した際に手に入れた魔道具が無ければ大半を置き去りにしていた事だろう。


 村の市場は村長であるレイモンド氏の屋敷からそこまで離れていなかった。

 商店街とでも言おうか。

 軒先を連ねる店はパンや小麦粉など様々な商品を取り扱っている。


 ふと遠くに眼をやれば小規模ながら人だかりが出来ていた。

 僕は、興味本位からその人だかりへと接近する。


「……と、このような値段でどうでしょうか?」

「ふむふむ、竜肉は栄養価が高いですからの。しかもここまで大量に。近年は竜種を討伐出来る者など荒野の民の中でも一部の者だけでしたので。いやはや、早くも涎が湧いてきましたわい」


 人だかりの中央ではトーマスさんと村の商人と思われる人が話をしていた。おそらく商談だろう。


「では、本日お渡しするこちらの肉と同程度の穀物類をお願いできますか?」

「勿論ですとも。我が店で負担しきれない分は周りが補填しますよ。何せ、早々食べられるモノではありませんしね」


 見れば、周囲にはどうお零れに預かろうかと考えている商人達が眼を輝かせていた。

 この村における肉はそれなりの価値を持つようだ。

 やがて取引が終わり、トーマスさんは額の汗を清々しげに拭った。


「お疲れ様です」

「おやライガー君、君も市場に?」

「ええ、パンとか買おうかなと。あと肉売ったり」

「竜肉ですかな。どれ程お持ちで?」

「大型亜竜種がだいたい五匹分」

「……魔法の力をお使いで?」

「魔道具だよ」

「その魔道具譲っていただけませんかね?」

「やだ」

「でしょうな」


 トーマスさんは凄く物欲しそうな目でこちらを見てくる。

 大型亜竜種五体分、それだけの質量を格納できるとすれば、それだけ商売が有利になる事は間違いない。内心喉から手が出るほど欲しいのではないだろうか。

 しかしこちらも手放す気はない。だって便利だもの。


「そうだ、私達は三日後に食料を積載し街へ戻るのですが、ライガー君も一緒に如何かね?」

「とか言いつつ緊急時には僕を馬車馬の如く働かせる気でしょ?」

「はっはっはっ」

「笑って誤魔化さない。まあ良いけどね? 代金は街までの案内ってことでまけといてあげるよ」

「それは助かりますなぁ。では、宜しくお願い致します」

「任された、確かにね」


 こうして僕は街へ向かう事となった。


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