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三話 探索者

 S.W.プレイヤー達が異世界へ来てから早三日が経過した。

 その日の中央噴水広場は、初日以来の賑わいが有った。


「周辺調査にご協力下さい、報酬は以下の通りです!!」

「探索の護衛をしてくれる方募集中!! 分け前は弾みますぞぉ!!」


 呼び掛けを行っているのは南区に住む生産者及び商人達だった。

 三日という時間は慎重になっている街のプレイヤー達を外へ駆り立てるのに十分な時間であり、南区の者は食料の確保を最優先目標に設定した探索隊を作ろうと決意したのだ。

 この呼び掛けは西区に住む戦闘を主な生業としてきた者達にとっても渡りに船だった。彼らは己の強靭な肉体を維持する為にも常人より多く栄養を必要とする。

 三日間は最低限の食事で済ませていたが、食料の安堵を確保できない様では碌な訓練も出来ないと、中央噴水広場に大勢が集まった。


「先駆者の帰還だ、門を開けろぉ!!」


 野太い声と共に南区の最奥に有る大きな門が開く。

 先駆者。

 それはプレイヤー達が異世界に到達してから一日も経たない内に外界を探検しようと決めた者達に対する呼称であり、先駆者達の大半は東区に住む者達だった。

 開け放たれた門の向こうより、居並ぶ数十人の先駆者達が見える。

 砂埃から抜け出したその姿は出発前と比較し相当に草臥れていた。

 自前の外套や鎧に付いた大小様々な傷、中には得物を紛失した者もいる。

 だが、欠員は誰一人としていなかった。

 これこそ東区の者がプレイヤー達から語り草にされる所以だ。

 彼等は、何が有ろうと決して死なない。己の命を最優先に考え、生き残る為にあらゆるモノを利用して生還を果たすのだ。

 常人ならば心が折れてしまいそうな状況であろうと、それを鼻で笑い踏破する探索の手練れ。

 それこそが東区に住む者共なのだ。


「傷の深い者の手当てを急げ!!」

「先駆者の凱旋だ、直ぐに酒と食料を用意しろ!!」


 疲労から崩れ落ちる先駆者達を街に居る人々が支え手厚く介抱し出す。

 そんな慌ただしい帰還状況の中で、一人の青年が中央噴水広場へと駆ける。

 手に携えるは神秘的な装丁が施された一冊の本。

 噴水の前で止まると徐にその本を開き呟く。


「――――引用:第84頁から第156頁まで、展開」


 呟かれた言葉と共にステータス画面と同様のウィンドウが虚空へと展開される。

 そのウィンドウに描かれたものは地図であり、各所に打ち込まれた点はその場所を補足する為のポイントだった。


「何だあれ、魔法か?」

「……いや、おそらく魔道具だ」

「魔道具、って事はアイツ、迷宮を踏破した事が有るのか!?」


 踏破。

 その言葉に周囲の視線が一斉に青年へと突き刺さる。

 しかし青年はそれを気にも留めずウィンドウを操作していく。

 迷宮の踏破。

 それはS.W.内において特別な意味を持つ言葉の一つだ。巷に満ち溢れるゲームと同様に、S.W.内にも迷宮という冒険の舞台が用意されていた。

 階層を下る、または登るにつれてその力を増す魔物達や悪辣さを極める罠群に多くのプレイヤー達がその最奥の探索を諦めた。

 だが中には、その踏破困難と言われた迷宮を見事に制覇した者が居た。踏破者は迷宮の最奥に有ると言われている魔法の施された道具、魔道具を用い一つの魔法を手にするのだ。

 この青年の場合、その魔道具は書の形をしていた。


「魔道具『旅の轍』は、所有者及び所有者の仲間が旅の中で見聞きした情報を集積する力を持っている。遠慮なく使え、ここはあの馬鹿みたいに厳しいゲームよりもヤバげだ」


 そう言うと青年は煉瓦敷きの地面へ腰を下ろし、旅の轍に記録された情報の全てを展開した。

 展開されたそれら情報に近付く影が複数、南区の商人や生産者達だ。今回の探索は彼らが方針を決めるモノであり、戦闘者達はその護衛でしか無い為殆ど発言権が無い。

 南区の住民達はそれぞれ何も描かれていない羊皮紙、和紙、平らな竹の板等にその情報を転写していく。


「……多いな」

「ああ、纏めるのにもう一日欲しいかも知れない」


 集積された情報は膨大なモノであり、取捨選択や分別を行う場合日が暮れてしまうだろうと判断し、夜間探索の危険性を鑑みるに探索は延期すべきだと南区の者達は結論を出した。

 その日は先駆者達が出来る限り収集した魔物の肉や果物などをオークションに掛ける事で終了した。


 そして翌日の早朝、探索隊が組まれる事となる。

 集まった人数に比べて探索へ出られる人数は限られた。理由は当の依頼主が情報を纏める為に徹夜してしまったからだ。

 依頼主は探索したモノの半分を己に譲るという契約の下、纏めた目録を他者へと譲り渡した。渡された者もそれを了承し、そしてチームが編成される。

 依頼主は二十人、そしてそれぞれの下に集う十人の戦闘者が集い十一人のチームが二十、合計二百二十人の探索隊が組まれた。

 旗本となる二十人の依頼主はそれぞれ己のコネクションを利用し情報目録を譲る交渉を行ったが、その情報の膨大さから大多数のモノが慎重論を唱えた為にこの人数へと収まった。


「……ちと少なすぎやしませんかねぇ?」

「いや、これだけ集まってくれたなら僥倖というモノさ。我ら二百二十人が安全なルートを確保できればそれで済む話であり、先駆者達の働きにより既に粗方の予想図が出来ている状態だ。最大の目的は食料の確保だ、それが済めば今回は期間を果たす。幸いながら、荷車持ちも居る事だしな」


 ハイドアーマーを着込み、布で包まれた槍を背負った無精髭の偉丈夫が依頼主の一人に尋ねる。一人の依頼主は何でもないと言う様にその問いへの返答を行う。

 荷車持ち。

 それは荷車を所有する者を指す言葉である。荷車とは文字通り人力で動かす台車の事だ。木製の物から金属製の物まで、物資を輸送するという目的でこれ程重宝するモノはない。

 荷車の所持者達はウィンドウを操作し己の所持品項目から荷車を出し入れし、このシステムが誤作動を起こしていないかを入念にチャックしている。

 プレイヤー達はこの異世界を現実として捉えていたが、それならそれで謎が残る。その謎がこのステータス画面だ。

 現実の世界において、ステータス画面が開ける訳がない。

 己の情報を客観的に表示する事が可能になるとしたら、それは常人には考え付かない魔法か、発達し過ぎた科学に因ってしかなり得ない。

 更に異世界転移から数日という時間が経過した事で周知の事実となったアイテムウィンドウを操作しボックスの中に居れた食物は保存状態が維持されるという特性もその考えに拍車をかける。

 故に、プレイヤー達はこの現象を魔法か科学が関わったモノと断定し、それこそがこの世界の秘密に繋がっているのだと考え始めた。


「……全員、粗方の準備が終わったようだな」

「そのようで。……俺達も行きやしょうか?」

「ああ、行こう」


 二人は門の前で待機する準備の完了した集団の下へ集まる。

 集団は待ち時間を活用し軽めの手合せや己の持つ情報の交換等を行っていた。

 一人の依頼主は己の傘下に入るチームを見つめる。

 ハイドアーマーの男を除いた九人は六人が男、三人が女である。

 それぞれの編成を見てみよう。

 男は鋼鉄製のラウンドシールドを持つディフェンダーが三人、ロングボウを持つシューターが一人、そして両手剣を持つウォリアーが二人といった編成だ。どちらかというと防御に重点を置いた編成と言えよう。

 ディフェンダーの持つ盾以外の武装は短めで取り回しの良さそうな片手槍である。そして全体を見ると緊急時に手に持つなり投げるなりするのであろう長めのナイフが腰のベルトに括られ、肩や胸、主要な関節などに金属製の部分鎧を着ている。最低限の防御力を保持しつつも機動力を失わないようにという考え方が反映されたモノだろう。

 女はショートボウとロングダガーを持つシューターが二人、そして両手剣持ちのウォリアーが一人といった編成だ。速さを重視した編成なのだろう、装いはレザーメイルとチェーンメイルを併用した軽装だ。


「ジョウ、彼らが君の集めた人材かい?」

「へい、何れも中々の腕前ですぜ。見る目の厳しいトーマスの旦那でもそれなりの評価が出来ると思いやす」

「……そこまで厳しいかね? 私の評価は」

「そりゃもう、旦那に雇われた奴が心を折られて一から戦術を学び直す程には」

「ほう? 再学習とは中々の向上心だ。付き合いの短い奴の顔は覚えられないのだがソイツには興味が湧いた。是非今度の宴会に呼ぶとしよう」

「あー、ソイツ下戸なんで手加減してくださいよ?」

「ゲコ? 蛙が好きなのか?」

「……旦那は時々話が通じなくなりやすね」

「冗談だよ。なら度数の弱く甘みのあるタイプのモノを振る舞うさ。無論、君にもな」

「有り難いこって」


 軽口を叩きながら二人はチームと合流しフォーメーションの確認と探索の方針を話し合う。

 そして、異世界に来た彼らにとって二度目の探索が幕を開けた。



 門を出て、まず探索者達の目に入ったのは広大な荒野だ。

 生命の気配が希薄であり、過酷な自然環境とそれに適応した強い生命が容赦なく牙を剥くフィールド。

 その世界を目にし、探索者達は知らず息を飲み込んだ。

 纏められた情報によれば、荒野というフィールドは亜竜種のモンスター共が跋扈する場所だと考えられる。

 群れにこそ遭遇しなかったが個々の持つ生命としての強さは強大であり、一度見えたなら苦戦は必須だろう。

 故に何よりも力を入れるべきは警戒だった。


「シューターは常に周囲へと目を配れ、ディフェンダーはシューターの周辺で待機。ウォリアーは臨機応変に対応出来る様に構えておけ」


 ジョウの指示によりチームは即座にフォーメーションを整える。

 それを見て取ると、トーマスは大きく発声し方針を口にした。


「今回、私達の目標は街の南側だ。荒野を南へと抜けた先に穀物の苗を見かけたと言う情報が有った。それも恐らく人の手が加わっていると思われるモノが、だ。この事から私達は荒野、穀物の領域を抜けこの地に居ると思われる農耕民とコンタクトを取る。そして、出来る事ならば交渉し穀物を分けてもらう。以上だ。では行こうか」


 トーマス率いる探索チームが、門を出たその他のチームよりも早く動き出す。

 目指すは南。

 道程は遠い。

 それでも彼等は足を止めない。

 戦士達は冒険こそを望み、商人は長きを見据え食料を確保する必要があると確信しているからだ。


 暫く、時間にして五時間程度、一行は歩き続けた。

 荒野は一向に途切れる事無く、一行はここで休憩を取る事にした。

 アイテムウィンドウを表示し各々が飲料を取り出し飲み始める。

 ここまで戦闘と言える問題は起こらなかった。

 しかし、それでも一行の疲労は着実に蓄積されている。

 乾いた地面へ腰を下ろし見つめる空は、先程まで一行が見ていた赤褐色の地面とは異なり清々しい青色だった。


「ッ!? 遠方に亜竜種、来ます!!」


 そんな一時に限って災厄は訪れる。

 見張りをしていたシューターの女が遠方に立ち上る土煙を目にし、注視する事でそれが亜竜種の魔物であると判明した。

 亜竜種。

 恐竜の様な形態を持つ爬虫類種の総称であり、それらはプレイヤー達にとって最初の恐怖に他ならなかった。

 現実と見まがう程の仮想世界においてTレックスの如き亜竜種は攻撃を受ける以前に、その見た目が既に精神へ攻撃を行っているのだ。


 その土煙を見て取ったのか、シューターの男が立ち上がりその得物を構えた。

 この局面におけるシューターの役割とは先制及び必殺だ。

 対象の眼なり足なりを鏃にて穿つ事が出来たならば、亜竜種と言えどその攻略難易度は遥かに低いモノとなる。

 しかし失敗すれば味方に被害が及ぶ可能性が多きく、その為最もプレッシャーの掛かる立ち位置と言えるだろう。

 男の獲物であるロングボウに矢が番えられる。

 引き絞られ軋む音は接近する亜竜種に対する死刑宣告に等しい。

 既に男の中で的中の像は見えていた。

 どの角度で放てばどこに刺さるか、それを長年の経験から割出し押手を上へと上げる。


 それを見て取ったディフェンダーが、その手のラウンドシールドを構えシューターの男の前方へと躍り出た。

 そしてその手に握る槍の矛先を亜竜種へ向ける。

 この局面におけるディフェンダーの役割とは気休めだ。

 ラウンドシールドを構えた所で全長十メートルの巨体が突撃してくるのだから防ぎきれる訳がない。

 それでも万が一とは言わないが対象を負傷させシューターに接近させない可能性も有る行為だ。

 攻撃の要であるシューターに憂い少なく矢を放ってもらう為の配慮。

 それこそがディフェンダーの役割だった。


 ウォリアーはシューターの斜め前方へと歩を進め己の得物を構える。

 この局面におけるウォリアーの役割とは第二陣だ。

 シューターの射撃が功を為さず、ディフェンダーに攻撃が及んだ場合に動く役割である。


 各自戦闘の姿勢を整え、シューターの男が矢を放った。

 高速で放たれた矢は回転し大気を裂きながら対象へ飛来する。

 瞬く間に矢と亜竜種の魔物の距離は無くなり、その鋭すぎる鏃が魔物の右目を射抜いた。


「ガァァァァァァ!?」


 眼球を損傷した激痛により魔物は転げ、そしてのた打ち回る。

 無論魔物の移動速度は無くなり、一向に迫っていた突進する大質量という脅威がなくなった。

 だが油断は禁物だ。

 敵は亜竜種。

 その生命力は並の生物とでは比較に成らない程強靭なモノだ。


 故に次の行動は即座に行われた。ディフェンダー三人をトーマスの傍へ待機させ、それ以外の全員が亜竜種の魔物へと突撃したのだ。

 目的は魔物の反撃を許さない事に尽きる。


「シューターは効果距離に入ったら問答無用で矢を放て!! ウォリアーは回り込むように走るぞ!!」

≪応!!≫


 ジョウの号令を聞き、各々が無駄なく動き出す。

 ウォリアー達はシューター達の射撃を妨げない様回り込むように走り、シューター達は十分な間合いを確保すると各々弓を構える。

 最初に攻撃を仕掛けるのは魔物の眼球を射抜いたシューターだ。

 ロングボウの長大な射程距離を十全に活用し誰よりも速く攻撃を仕掛ける。矢を番え、引き絞り、そして放つ。地面と水平に放たれた矢は、暴れる魔物ののもう一つの眼球を射抜いた。

 それにより魔物の暴れ方が増すも、敵の視力を完全に奪ったという情報はそれを機にさせなくなる程に味方へ勇気を運ぶ。

 続いて攻撃を行ったのはシューターの女二人だ。ショートボウはロングボウよりも射程が短く、そして威力も低くなる。

 しかしそれを補う程の能力を備えており、その有用さは状況や用途によってロングボウを凌ぐ。

 シューターの女達はシューターの男よりも魔物に近付き、そして文字通り矢継ぎ早に弓へ矢を番え放った。

 男がロングボウにて一矢を放つ間に女達は二矢を放つ。

 女達の放つ矢は身体を起こそうとする魔物へ新たな痛みを与えその動きを封じる。

 シューターの男が狙撃ならば女達は射撃、或いは連射と言った所か。

 継続される射撃、時折交じる狙撃が効果的に魔物の動きを封じていた。


 そして、その動きを止めた魔物へと接敵するウォリアー達。それを見て取り、シューター達は漸く攻撃を止める。が弓は下ろさない。

 両手剣持ちのウォリアー三人が、それぞれ魔物の脚の腱へ断頭台の如き一閃を振るった。

 鋭い鋼鉄の塊は肉を抉り骨を削る。

 ここまで来れば、如何に強靭な生命力を持つ亜竜種と言えど牙を抜かれた猛獣同然だ。

 そしてジョウが止めの一撃を放つ。

 鋭い矛先の槍が魔物の心臓へ吸い込まれる様に突き刺さった。

 魔物は二度三度と痙攣し、そして絶命した。


「……俺達の勝ちだ、この異世界で初めての勝利だッ!!」


 ジョウの言葉に皆が笑みを浮かべる。

 初の実戦において速攻と言って良い程速く魔物を倒した経験が、戦闘に参加したチームのメンバーに確かな自信を付けたのだ。


「そして、肉だ!! 俺達の飯だッ!!」

≪オオォォォォォォッ!!≫


 その雄叫びは、心なしか先程の勝利宣言時のモノより大きい。

 それも当然の事と言えよう。

 ここ数日、プレイヤー達は先の見えない節約生活に伴う空腹に悩まされていたのだから。

 そこに降って湧いたのが大質量を備える大型の魔物だ。全長十メートルを全てに肉に換算したのなら、それはどれ程の量となるのだろうか。

 考え、戦士達は涎を垂らし、トーマスは売り物としての価値と報酬の分配率、そしてどれだけ食べられるかを計算し始めた。

 だが、それらも途中で止めなければいけなくなった。


 再び、遠くに砂煙が見えたからだ。

 そして、その場にいる全員が砂煙を発生させている原因を認識し背筋を震え上がらせた。


「……おい、あれっ」

「おいおい、大型の亜竜種が三体かよ!?」


 遠方にて疾走する三体の大型亜竜種。

 先程討伐した亜竜種の魔物と同等の質量を持つ魔物が、先程の突進よりも尚速く走り寄るのだ。

 その様に一行は違和感を覚えるモノの、速く行動を起こさねばと武器を構える。

 シューターの男が逸早くロングボウを構え、先制の狙撃を行おうとした正にその時、一行はその声を聞き取った。


――――氷柱、綴り。


 大気を震わせたのは呟く様に吐き出された呪言。

 それを耳で捉えるでもなく、脳に伝わるでもなく、身体全体が感じ取っていた。


 次の瞬間、疾走する魔物の前方にそれは姿を現した。

 それは、巨大な氷柱だった。

 氷柱の槍が、その矛先を魔物へと向けて待ち受けているのだ。

 憐れなる魔物達はそれに眼を見開き停止を試みるも敵わず、自ら氷柱の槍へと突貫した。

 後に残るのは、串刺しとなった魔物の残骸だけだ。


 その後方より、蹄の音が鳴り響く。

 一行は更なる戦慄を覚えた。

 あの危険極まる巨大生物を瞬時に葬った存在が、馬に跨りやって来るのだ。

 それが一行の味方をする保証はどこにもない。

 故の恐怖。

 強張る身体で武器を構える一行は蹄の音を頼りに視線を移動する。

 魔物達が巻き上げたその砂煙の向こう、走り寄る影が一つあった。

 影は己の仕留めた獲物を旋回しているのだろう、近付いていた蹄の音が一行と一定の距離を保ちながら鳴り響いている。

 一行はただ警戒し見つめる事しか出来ない。

 現状では相手が敵か味方かも判明しない、その能力がどの程度なのかも測れないのだ。

 下手に動けば殺されるのは己かも知れない。


「うし、大量だ。それにしても、こっち来てからなんか調子良いなー」


 影の発したで言葉は耳に届かないが、その顔の輪郭から邪悪さを感じない故に一行は警戒心のレベルを下げる。

 しかし油断はならない。先程亜竜種を倒した一撃が自分たちにも向かってくる事が無いとは言い切れないのだ。


「……どうする、トーマス」

「此方に来る気配はない、な。一先ず、この魔物を解体してアイテムボックスに入れよう。肉は生ものだからな、腐らせる訳にもいかない。そして肉を格納したらあれを仕留めた者とコンタクトを取る。……急ぐぞ」

「応」


 ジョウが聞き、トーマスが静かに返答する。

 その後一行はテキパキと肉を解体し始めるのだった。


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