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二十話 崖から突き落とす決意

 閉じた瞼の向こうから浸透していた閃光が鳴りを潜めた。

 若干ぼやけた視界を、目を薄らと開ける事で慣らしていく。まず初めに、目に入ったモノはリオンの良く知る人物だった。

 ベッドの横に有る椅子。ベッドの方向に向いていたそれに座っていたその少女は、どうでも良さそうに視線をリオンに向け、リオンの姿を認識すると目を見開き驚愕の表情を作った。

 数秒程そうしていただろうか。少女に変化が訪れる。少女の見開かれた目から大粒の涙が次々と零れ落ち始めたのだ。


「お、姉ちゃん?」

「そうよ、葉子」

「お姉ちゃん!!」


 後ろで一本に纏めた黒髪を揺らし、椅子を蹴り飛ばしながら立ち上がった少女、葉子はリオンに駆け寄ると抱き着いた。リオンはそれを受け止め、慈しみの念を込めてその小さな背中を撫でる。

 嗚咽を漏らす葉子の体温を感じ、リオンは漸く実感する。まだ、己の大事なモノが失われていなかったのだと。その実感と共に、リオンも静かに泣き始める。

 暫く、二人は泣いた。

 時間にして三十分ほどだろうか。先に立ち直ったリオンが口を開いた。


「……少し、痩せたかしら?」

「ダイエット成功だね。……でも、全然嬉しくなかったよ。私も、お母さんも」

「母さん、は?」

「ベッドで寝てる。……お姉ちゃんが異世界に行ってから、体調が悪化して」

「母さん……っ」


 リオンはベッドへ駆け寄る。

 ベッドには、血の通っていない様に見える顔色の女性が一人寝ていた。美しかっただろう貌は痩せこけ、一見しただでも体調が悪いと解る有様だ。

 駆け寄ったリオンの発てた音に対してか、それともその声に対してか。女性が反応し身体をわずかに動かす。心なしか、先程よりも安らかな表情を浮かべている様に見える。その様子に、リオンは歯軋りをする。歯と歯が強く擦れる音が、部屋に響き渡った。


「……お姉ちゃん」

「私が、居なくなったから……」

「そうだね。でも、それだけじゃない」

「葉子?」


 ベッドの脇で膝を折り跪いていたリオンの方へ葉子の腕が絡められる。肩から鎖骨に掛けて伸ばされた細い腕が、リオンを葉子の方へ引き寄せた。


「前々から思って事なんだ。やっぱり、弱すぎるんだよ。お母さんも、……私も」

「葉子、貴女何を……」

「だって、そうでしょ……っ?」


 葉子の腕に力が籠り強張るのを感じるリオン。耳元で告げられる声は震えていた。悔しさと怒り。それはリオンも良く知る、馴染みの深い感情だった。


「お姉ちゃんは九歳の頃から戦ってきた。お父さんが死んで、お母さんが体調を崩して、使えない私にまで気に掛けながらっ」

「葉子!! そんな言葉は」

「使えないでしょ!! 私、あの時のお姉ちゃんよりも年上なのに、こんな状況なのに、何も、出来てない……」


 葉子が泣く。吐き出される嗚咽と共に腕の震えが増す。


「何よりお姉ちゃんが可哀想だよ。お母さんの為って、私の為って言ってお姉ちゃんの人生が滅茶苦茶になってる」

「滅茶苦茶だなんて……、そんな事……」

「お姉ちゃんが平気だとしても、私は平然としてられない。お姉ちゃんの妹である以上、子供だからって理屈は絶対に使っちゃいけないんだ!!」


 己に言い聞かせるかの様な叫びだった。耳元で発せられたその声が、リオンの心に強い衝撃を与える。

 リオンは家族を助けるのに必死で考えた事も無かった。助けられる側の家族の事を。

 父親が死んでから二年が経過し、自失した意識を取り戻した母が己を見てどんな顔をしていただろか。物心着いた妹が己を見た時、どの様な表情をしていただろうか。

 リオンが覚えているのは、ありがとうと掛けられた言葉だった。リオンにとって、家族を助ける為に必要なモノなどそれ以外に無いのだ。それで充分だったのだ。


 では、逆ならばどうか。


 リオンは妹が家族の為に戦い、己が何もできない情景を思い浮かべる。

 思い浮かべて、口元を押さえた。一瞬過った無力感だけで己に対し吐き気を催すには充分だった。何も出来ない事の辛さをリオンは知らない。しかし想定は出来る。その辛さを、妹に与えてきた。恐らく母も感じていた事だろう。

 止まっていた涙が再び零れ落ちた。

 だが、それを考えてもリオンはどうして良いか解らない。


「……私、ズルい娘だ。お姉ちゃんが私のせいで苦労してるって解ってるのに、自分が何も出来ないって解っているのに、自分が生きる為に、お姉ちゃんから離れない。お姉ちゃんを、自分の為に利用しているっ」

「……多かれ少なかれ、人は他人を利用するものよ? それに、家族じゃない。そんな悲しいこと言わないで?」

「でも、お姉ちゃんはお姉ちゃんなんだよ!? 母親じゃないんだ、父親でもない!! お姉ちゃんがやっている事は本来なら親がやる事だった筈なんだ!! ……私、もうお母さんがどんな人だったか解らない、だっていつも眠っているんだもの。思い出すお父さんの顔も、写真に写っているのと一致しないの」

「っ!?」


 リオンの行ってきた身内へのサポートは完璧と言って良いモノだった。

 妹の周辺環境への気配りから生活資金及び学費の捻出。時間が有れば家事を行い、学校に向かう電車の中で宿題を済ませていた。

 その完璧さを、葉子は己の両親と比較してしまった。

 父親は既に死んでいる。残った思い出が少なすぎてその声すら思い出せない。

 母親は体調が悪く、大体寝ている。たまに起きては微笑みかけるか悲しげな笑みを浮かべるかだ。

 これが親と呼べるのか、そんな考えが常に葉子の脳内で渦巻いていた。


 その状況を悟ってリオンは愕然とした。


 リオン自身は父の豪快さも母の優しさも覚えている。それは幼い頃に温もりの籠った思い出としてリオンに与えられたモノであり、脳から焼き付いて離れない程には大切なモノだった。

 その感覚が、妹にはない。

 葉子にとって、死んだ父も病に伏せる母も大切な存在ではないのだ。

 その事実が、リオンの心を苛む。


「……わた、しは」

「もう、いやなの。無力でいるのも、お姉ちゃんだけに押し付けるのも。だから……」


 葉子はリオンから離れると直立の姿勢でしっかりと立つ。

 そして勢いよく頭を下げた。


「私に、戦い方を教えてください!!」


 それは、リオンが初めて聞いた身内からの頼み事だった。



「それがどういう事か、解っているのよね?」

「っ!?」


 普段身内に使う声音とは違う、戦闘を行う者としての声でリオンが葉子に言う。その声の鋭さに葉子は怯む。が、引きそうになった足をその場に止め、リオンを見返す。

 そこに居たのは葉子に優しい姉ではなく、一頭の獅子を彷彿とさせる恐い女だった。

 葉子は、己の意志を伝える為に口を開く。しかし言葉が出ない。己の内で意志が固まっていても、身体が震えてしまっているのだ。それだけの気迫が、今のリオンから向けられている。


「返事も出来ないの?」

「……で、きるわよ。出来る!!」


 頭を振り、睨む様に強くリオンを見据える葉子。その顔を見て、リオンは一瞬悲しそうな表情を浮かべた。しかし次の瞬間にはそれが気のせいだったと思える程に強い視線を葉子へ向ける。


「良いわ。そうね、……明日、明日の早朝五時に起きなさい。私が稽古を付けて上げる」

「それって……!?」

「二度も同じことを言うつもりはないわ」


 葉子の頬を歓喜の涙が伝う。

 己の訴えを姉が聞き届けてくれた事と、己が姉の助けになれる将来へ通ずる道が開けた事で希望が生まれたためだ。

 しかしリオンは、歓喜の涙を静かに流す葉子に対し熱の籠らない視線を向けている。


「……ありが、とうっ」

「気にしなくて良いわ。……それじゃあね」

「……え?」


 部屋の床に設置された魔法陣にリオンは足を進める。

 その様子を見て、葉子は疑問の声を漏らした。


「どこ、行くの?」

「決まってるでしょ、現状を確認する為に一条さんの所に行くの。話を聞いてこれからの行動方針を決めなくちゃ……」

「いつ、ここに帰ってくるの?」

「…………」


 魔法陣の方へ進めていた脚を止めて沈黙するリオン。

 暫し間を置き、口を開いた。


「ここには、戻らない」

「……なんで? 私が、我がまま言ったから……っ?」

「そうじゃない。私は貴女に戦い方を教えると決めたの。それには、家族と言う感覚は枷にしかならない。そんな温い状態で現状を生き残れるなんて思えないもの。だから、情を捨てる事にするわ。貴女に向けるソレも。私自身に向けるソレも……」

「そんな……っ」

「じゃあね。早く寝なさい、身体に障るわ」

「待って!!」


 葉子に掛ける最後の心配を言葉にして、リオンは魔法陣の向こうへ消えた。

 伸ばした手は、虚しく空を切った。


 葉子は泣く、どうしてこうなってしまったのかと。姉が好きだった。顔の解らない父や、よく解らない母よりも、強く優しいその姿に憧れていた。だからこそ、葉子は姉に何かをしてやりたかった。だからこそ、姉の為に行動したいと願うのだ。その思いは親孝行に近い感情の動きだった。

 その意志を告げた途端に、姉は眼の前から消えてしまった。

 ただ共に歩みたい。その強い背中を支えてやれる存在になりたい。その思いが、姉を遠ざけてしまった。

 一ヶ月という空白の期間を経て、漸く再開した大好きな姉はその日の内に決別してしまった。また明日会える、そういった楽観的な考えは今の葉子にはない。姉は言ったのだ、情を捨てると。翌日の早朝に葉子と対峙するのは姉の顔を捨てたリオンだ。


 葉子はリオンの考えを理解できなかった。

 何故リオンは共に歩もうと言ってくれないのか。何故リオンは離れてしまったのか。

 リオンの世界の見方と葉子の世界の見方は一致しない。戦い守る者であるリオンと戦わず守られる者である葉子ではその価値観が余りにも違い過ぎるのだ。


 その夜、暫くの間、葉子は静かに泣いていた。


 

「……う、ぅうっぁああぁあぁぁぁっ」


 誰も居ない体育館らしき場所。

 照明が落とされ暗い闇が帳を降ろすその空間でリオンは嗚咽を漏らした。

 突き放したのは己自身の判断だ。だが、たとえそれでもリオンは悲しみを覚えずにはいられない。リオンは、何よりも母と妹を愛していたのだから。

 愛するからこそ、妹を戦わせたくなかった。リオンは己の渡ってきた世界を、己の見据えた世界を軽い地獄と形容する。

 女ばかりとなった家族に迫る下種共、命を代価に大金を払う斡旋者、そして襲い来る苦痛との対峙。

 それは子供であったリオンの精神をどこまでも追い詰めた。それでも挫けなかったリオンだからこそ、その地獄へ肉親を投げ入れる事を躊躇うのだ。

 しかし、葉子は恐らく止まらないだろう。そうリオンは考える。

 焦燥感を抱く人間は、冷静な状態ではいられない。今回の一件で、リオンはその事を痛感した。そして葉子は一目見て解る程の焦燥を抱えていた。故にリオンは、葉子の言った母がどんな人だったか解らないという言葉に強いショックを受けながらも、戦闘を行う者としての判断を下す事が出来た。


 地獄の渡り方を教えるには、地獄を見せるのが手っ取り早い。


 リオンは経験則からそう判断を下す。

 事実、リオンは地獄を見て体験する事によって学んだ。その過程で深い傷を負った事も何度かある。その痛みが、その経験が妹の助けに繋がる。そう考え、リオンは流れ出る涙を止めた。

 リオンがその世界を歩いて来れたのは、運による要素も大きい。誰しもが、リオンの様に突然放り出された地獄に適応できる訳ではない。

 故に教える。位置から百まで、リオンの体験してきた地獄を解説付きで。

 己が行おうと考えている悪魔染みた所業の数々に、怖気が奔った。震える身体を抱えながら、それでも躓いたりはしない。


「……落ち着いて、きた。考えま、しょう。まず、何をするべきか」


 リオンはアイテムウィンドウを開き、雑多に表示されたアイテムの欄を武器のみの表示に変える。先頭に表示されたアイテムはリオンの愛剣であるアイゼンリートだ。その左横から順にリオンの所持する武装が表示されていく。

 アイゼンリートのすぐ横には刃渡り六十センチ程の片手剣が表示されている。リオンは表示されている片手剣の映像を押し込みそれを取り出す。柄を握り、二回ほど振るとそれを仕舞う。


「まずは、これかしらね。後、長柄も欲しいかしら……」


 ウィンドウを除きながらあれでもないこれでもないと呟くリオンの表情には、既に先程の悲しみは無かった。



 早朝。

 泣き疲れて眠ってしまった葉子は、慌てて時間を確認する。

 壁に掛けられた時計の針は四時に差し掛かる所だった。それを見て胸を撫で下ろすと、着替えを用意し部屋に備えてあるシャワールームへ入る。

 頭から降り注ぐお湯は心地良いモノだ。しかし、それを楽しむ余裕は今の葉子になかった。髪を伝い、下へ流れ落ちるお湯を見ながら、これからについて思いを馳せる。

 今日から、葉子は己の姉であるリオンに戦闘の指導を受ける事になった。指導を頼み込む時のやり取りで、姉が家族として己を見ないといった発言をした事に対し胸を締め付けられる思いになる葉子。

 しかし、シャワーを浴びている間に別の考え方を行うようになる。姉は、己が未熟だから突き放したのではないか、といった考え方だ。

 葉子がリオンの行ってきた仕事の内容を聞かされたのは世界が崩壊する丁度一週間前、リオンの身内を保護する為に一条が訪れた時だ。その時、実験の記録映像やゲーム内及び異世界において戦ってきたリオンの姿を見せてもらった。

 それを目にした葉子は、最初映像に映っているのがリオンだと気付かなかった。それ程までにリオンの戦闘時の表情と家族に対して浮かべる優しい感情は異なっていたのだ。そしてその圧倒的な活躍の数々を見る内に、葉子のリオンに対する尊敬は肥大化していく。

 そして、そのリオンと己を比較した際、己の矮小さに嫌気がさしたのだ。


 惰弱な己が頼るだけならまだしも同じところに立ちたいなどと願ったから怒ったのではないか。


 葉子はそう考えた。そして己がリオンと同程度にまで成長するとまでは言わずとも、そのサポートを行えるだけの技量を身に付ければまた以前の様に笑いかけてくれるのではないかと考える。

 そう考えると、葉子は落ち込んでいる場合じゃないと思えてしまう。努力を重ね姉との絆を取り戻すのだ。その目標が葉子の中に定まった。

 シャワーの水栓を締め流れるお湯を止める。

 備え付けてあるシャンプーやボディソープ等を使い己の身体を洗いながら、少しだけ軽くなった頭で考える。

 悩み停滞している場合ではない。今の世界は崩壊の激流に飲まれているのだ。早期に適応しなければ後々困る事は目に見えている。その為にも、気合を入れるべきだろう。

 水の滴る前髪を片手で掻き揚げ、確保された視界を己の手に移す。子供の、小さな手が映る。己の小さな手は、この荒波に対応しきれない。故に学ぶのだ。

 決意を硬くする様に、葉子は己の手を握りしめた。



「……十分前か、早いわね。関心よ」


 早朝、日が昇り始める時刻。

 体育館の様な場所の壁に背を預け腕を組んでいたリオンは、魔法陣が作動する様子を認識し待ち人の訪れを予想し呟く。その装いは昨日着ていた制服ではなく、異世界にて纏っていた黒色にレザーアーマーだった。

 リオンの予想通り、発光する魔法陣の内から妹の葉子が姿を表した。装いは上下共に濃い赤色のジャージであり、動きやすい格好を心がけたのが解る出で立ちだった。


「お早う、お姉ちゃん……」

「お早う葉子。けど、お姉ちゃんは止めた方が良いかもね」

「……何で?」

「これから貴方は、私を憎む事になるだろうから。家族としての私を大事にしたいのなら、私の事はリオンと呼びなさい」

「りおん? それって、ゲームで使ってた?」

「そうよ」

「……もう、鈴って名乗る気はないって事?」

「場合によってはね。この状況よ、日常で使っていた鈴としての貌よりも、リオンとしての貌の方が役に立つ」


 リオンの言う貌とは主に思考基準の使い分けを指す。

 鈴を使う時は主に生活や周辺環境について考える事が多く、リオンを使う時は思考の大半を戦闘へ傾けている。

 その使い分けは、リオンが日常に戻る為の防衛機構に近かった。殺伐とした思考や血生臭い感覚を持ち込まないように、それらをリオンに拭い付ける必要が有ったのだ。

 リオンは、現状において鈴である事に価値を感じられない。家族としての触れ合いを極力避けると決めた時、どうせならば思考基準も切り替えた方が良いと判断した。結果として、異世界において鈴とリオンの間を揺れ動いていた基準がリオンの方に偏ってしまっている。

 その事を薄らと感じたのか、葉子は寂しげな表情を浮かべた。しかし、リオンは昨夜とは打って変わり気に掛ける様な様子を微塵も見せない。


「時間を有効に使いましょう。取り敢えず、貴女に武器を渡しておくわ」


 リオンはアイテムウィンドウを操作し、武器とそれを下げる為のホルスターを渡す。葉子は受け取ったそれらを繁々と見詰めた。

 それは刃渡り六十センチほどの片手剣だった。鞘から抜き、その刀身を見る。冷たい鉄の色が、突き立てれば容赦なく対象を傷付けるだろうという印象を葉子に強く覚える。

 葉子は身震いしながらもホルスターを装着し、その片手剣を鞘ごと腰に設置した。


「それは脇差みたいなモノよ。もう一つ、近接用の武器を与えるわ。戦いの時は、むしろこっちを使う事になるでしょうね」


 リオンは次の武器を取り出しそれを葉子に渡す。葉子は再び渡された武器を観察した。

 それは刃渡り九十センチ程度の刀身を持つ剣に刀身と同じサイズの柄を取り付けたような武器だった。槍、もしくは鉾とでも形容すべき出で立ちの武器だ。


「それを用いて行う基本的な攻撃は突きよ。対人戦では相手の脚部、特に脛を狙いなさい。その際、相手に反撃を喰らわない様に気負付ける事も重要よ」

「……たい、じん?」

「人間が敵になる場合も有るって事よ。ニュースでも良く見るでしょ? 自然災害でライフラインが途絶した地域で暴動が起きるって。この規模の災害よ? 人が獣に堕ちるには充分過ぎる」

「そんな……」


 リオンの言葉に葉子は大きなショックを受ける。

 魔物が街を襲ったという話は既に聞いていたが、そこから人間が人間を襲う事態へと発展すると言う考えが葉子には無かったのだ。

 ショックを受け俯く葉子を見て、リオンはそれを内心で温いと罵る。事此処に居たり、リオンは肉親に向ける情を完全に封じる事に成功していた。


「それは基本的に手で持ち運びなさい。背中に背負うと有事の際に隙が出来るから。……そんな所かしらね。さ、行くわよ?」

「あ、うん……」


 豹変した姉の背中を貰った長柄を抱え追い、葉子は魔法陣へと向かう。二人が設置された魔法陣の上に立つと、眩い閃光が辺りに散らばった。


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