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十九話 戦う理由

「オオォォォッ!!」


 横薙ぎに振るわれたバスタードソードがリザードマンを空中に引き摺り、横に有るコンクリートブロックの壁ごと粉砕した。

 日が沈んだ時刻。

 リオンの葬った魔物の数は既に百を越えていた。堆く積み上げられた魔物共の死体を蹴り飛ばし、リオンは薄暗い住宅街で青い残光を残しながら魔物を狩り続ける。

 しかしその数は一向に減る様子が無い。そして、流石のリオンも息が切れ始めていた。

 だが、リオンは息の切れ始めた己を自覚し首を傾げる。


「ハァ、ハァ、……っく。あ。……どう言う事? 前は、こんなに長くやり合ってられなかったのに」


 疑問とは自身の継戦能力についてだった。

 リオンの携えるバスタードソードの形を持った魔道具、固有名をアイゼンリートというその剣は所有者の様々な能力を段階的に跳ね上げる能力を持つ。しかし、その能力は使えば使う程に、段階を上げれば上げる程に所有者の体力を消耗し大きなダメージを蓄積する、言わば諸刃の剣だ。

 リオンは異世界にて、アイゼンリートを使用して戦う為に己の身体をこれでもかと鍛えていた。その成果は能力の第一段階における最大継戦能力の延長だ。

 リオンはアイゼンリートにおける第一段階の強化を扱う場合、十時間の連続戦闘を可能としていた。だが現状のリオンは第二段階の強化を扱っており、その能力を行使できる時間は第一段階の十分の一、詰りは一時間程度だったのだ。

 その状態で一時間も経過すれば、蓄積された疲労が爆発し身体がストライキを起こし動けなくなる。それが敵前で起きたならば、その後に待つのは死のみである。

 しかしリオンは息切れを起こす程度で済んでいた。そろそろ一時間が経過すると言うのに、休憩すれば息を整えられる程度の疲労しか感じていないのだ。


 ふと浮かび上がった疑問に考え事をするリオン。

 それを隙と見てとったのかゴブリン・アーミーの弓兵隊がクロスボウより矢を放つ。それに対し機敏に反応したリオンは、矢を叩き斬るとそれを放ったゴブリンへ接敵し瞬きの内にその首を撥ねた。

 その激しい動きの中で、首に掛けていたアミュレットの揺れる様子が目に入る。


『――――あ、でもあっちで使えるかどうかは解らないのか』

「……あ、そっか」


 リオンはそのアミュレットを己に授けたライガーの言葉を思い出す。

 そう、そのアミュレットは魔法使いの作り出した魔道具であり、その力は守護だ。アミュレットのぶら下がっている掛け紐を撮み、目線にアミュレットを移動させる。

 注視すると、アミュレットには細かい傷が付いている。それを見て、リオンは己の受けたダメージをこのアミュレットが代わりに引き受けたのだろうと考えた。


「ふっ、ははっ。まるで身代わり地蔵様みたい。……ああ、本当に、最高のプレゼントだわ!!」


 強く言い放つと駆け出し、駆け抜け様に周囲の敵を斬り落として行く。

 魔物の返り血に染まったリオンの貌には笑みが浮かべられていた。ライガーの力が己を守り、己の力となっている。まるで大きな存在に抱擁されているかの様な安心感を覚えたが故の笑みだ。

 この地獄の様な戦場で、己は独りではない。その安心感がリオンをどこまでも強くした。


「不安はいつも付きまとっていた。当然よね、誰かの為に戦うって言っても、戦いの場において自分は独りだったのだから。それでも戦ってきた私にとって、今宵の戦場はとても楽だ。心が軽い。不安が無いとこうまで動けるのか!!」


 跳び掛かる魔犬は、リオンの残した残光を喰らうと同時にその頭部が跳ね飛ばされる。

 内心の爽快さを示すように、アイゼンリートの放つ青い光が澄み渡っていく。その力強さに魔物どもが怯み後退した。


「調子が良い。夜の間に、お前等全員を切り刻めそうだ……」


 静かに言い放つと、リオンはその場に残光を残し魔物を斬り飛ばした。



「……はぁ、はぁ。流石に、堪えるわね」


 深夜。雲一つない空に満月が浮かんでいる。

 微かな月明かりに照らされるリオンは青い光を纏っていない。アイゼンリートの輝きも弱く、微かに明滅するだけだ。

 屍の山に腰を下ろし、リオンが一息着く。


「……翌々考えると、私は母さん達の居場所解らないのよね」


 落ち着いた頭が現状を整理し始める。

 家には書置きや連絡などは無く、その所在に関する情報は無い。そもそも、一ヶ月という時間が経っているのだ。その生活スタイルが変わっていても不思議ではない。

 母は飲んだくれているのかもしれない、妹は不良になって夜の街を練り歩いているのかもしれない。そういった想像が脳内をチラつく。その場合、母と妹は既に死んでいる可能性が高い。


「…………」


 静かに、リオンの頬を涙が伝った。

 死が明確になっていないとはいえ、その生存は余りにも絶望的だ。その事実がリオンの心に悲しみの影を落としていた。

 数分程、リオンは静かに泣いた。

 そして涙を拭うと屍の山を踏み付けて立ち上がる。


「……一先ず、出来る事から始めましょう」


 手を翳しウィンドウを開く。

 開かれたウィンドウはstatus、item、communityの文字が正三角形の頂点に配置された形を取っており、リオンはその内のcommunityを指で押す。

 すると新たなウィンドウが立ち上がった。今度はmailとchatの単語が表示される。リオンはchatのボタンを押し込む。そして数種類あるモノから帰還組緊急と掛かれたモノを選び開いた。すると文章が高速で更新されている。


《マ・コト:何だよこれ!?》

《ぐれねーど:知るか!!》

《レモン:どしたん?》

《ちゃんどら:帰還したら世界がぶっ壊れていたのさ。犯人は多分三日月》

《陸に打ち上げられたマグロ:魔物が侵攻してきたんだ!! 奴ら、人を食い荒らしてやがるっ!!》

《シュン:え、……釣りじゃないの?》

《陸に打ち上げられたマグロ:釣りだったらどれだけ良かったか!!》

「……相変わらず面倒ね。って言うか知ってる名前が、……まあ良いわ、もっと下へ」


 雑多な情報を無視し、己の欲しい情報を探すために指でウィンドウをスクロールしていく。

 暫く画面を転がしていると、リオンの指が止まった。


「……この辺りかしら」

《並木:家がぶっ壊された。親父の安否が解らねぇ!!》

《ドーザー:俺の所も母ちゃんがいない!!》


 その個所には家族の安否確認が出来ない事が書いてあった。数が多く、帰還したモノは全員身内が発見できないと見える。

 似たような文章が数十ほど続き、そして目的の文章に辿り着く。


「見つけた……っ!!」

《遠眼鏡:安否確認なら、プレイヤーの身内は全員無事だ》

《ぐれねーど:なんだと!?》

《マ・コト:本当か!?》

《桜の下に埋まってる奴:ソースは?》

《ドーザー:嘘なら**!!》

《――――汚い言葉は使わないでくれ、お兄さんとの約束だ――――》

《シュン:あ、何かこのメッセージ久々に見たな》

《ユウ:これ、三日月が言ってるなら憤死できる自信があるー》

《桜の下に埋まってる奴:で、ソースは?》

《遠眼鏡:帰還した時の場所で、運営っぽい人が居ただろ? まあ、三日月の仲間だろうけど。この事態になってから、俺は一目散にその人の所を目指したんだ。それで聞いたら、プレイヤーの身内は全員保護しているって話だ。その人曰く、三日月の指示らしい》

《シュン:保護した身内を人質にとって何かさせるのは確定かな……》

《第六貫:つか、アンタはそんな状況で逃げたのかよ? 周りの人は?》

《遠眼鏡:周りに襲われてる人が居たけど、無視した。知り合いを優先した。……というか、人の鎌っていられる程の物量じゃない。台所の悪魔も真っ青な数だったんだぞ?》

《豆の木を振り回す男、jack!!:うぉっ、久々に寒気が……》

「……目標は決まったわね」


 リオンは屍の山から飛び降りると一条の下へ走り出した。



「一条ォォ!!」

「ん? 遅かったじゃないか。リオゲラッ!?」


 ビルのいつもの部屋、その扉を蹴り開いたリオンは振り返り言葉を掛けようとした一条を殴り飛ばした。一条の頬に真っ直ぐ、速く、重い拳が到達し、一条は回転し錐揉みしながら吹き飛ばされた。

 その際聞き苦しい声を上げるが、リオンは反応を示さず倒れ込んだ一条の胸倉を掴み上げる。


「さぁ言え、母さん達はどこだ?」

「安全な場所にて保護してますですはい」

「そこへ連れて行け」

「解ってますよ、まったく、殴る事はないでしょう?」

「悪かったわね、私はキレやすいのよ。……特に、現状の貴方達に対してはね?」

「……はぁ」


 胸倉を離すリオン。解放された一条は己の意志で立ち殴られた頬を撫で溜息を吐いた。


「解りました、今から案内致します」

「賢明ね」

「はぁ……」


 再び溜息を吐き、一条は暗い部屋の壁に設置されたボタンを押し込んだ。

 その後、何かの機械音が響き部屋の床に巨大な魔法陣が浮かび上がる。それは白色の光を放ち暗い部屋を下から照らし上げる。


「……蛍光灯の場所、間違ってるわよ?」

「蛍光灯じゃありません!!」


 奇妙な影の付き方をした顔でリオンが言い、その言葉に対し一条が敏感に反応した。


「魔法だろうが蛍光灯だろうがどうでも良いのよ。さっさとしなさい、殴られたいの?」

「わ、私が機嫌を損ねたら、案内しなくなるという考えは?」

「そうね。……案内したくなるようにしてあげるわ」

「ど、どのように?」

「……聞きたい?」


 リオンの言葉に踵を返し、一条は口を開いた。


「――――開門せよ。我、同じ志を抱く者なり」


 放たれる呪言と共に、放たれる光がその強さを増す。一条はそれを指で差し、リオンへ説明を始める。


「見覚えがあると思われますが、一応簡単な説明を。この魔法陣は私達の本拠地に繋がっており、この陣の中に足を踏み入れるだけで転送が行われます」

「本当に簡単な説明ね」

「……うぅ、リオンさんが冷たい」

「自業自得よ」

「これでも私は、組織の誰よりも真っ先に貴方の家族を保護したのですよ?」

「そういうのは普通胸の内に秘めておくモノでしょう? でも、まぁ……」


 リオンは徐に一条へ接近するとその自分よりも高い頭に手を乗せ、下に力を掛ける。上から押し込まれる様な力の働きに前方へ体勢を崩す一条。その眼前にはリオンの貌が有った。


「その点については良くやったわ。褒めて上げる」

「うっ……」


 贈られた言葉に一条は赤面し涙目になる。

 計画の全段階から、それこそ幼いころからリオンと関わってきた一条は、次第にリオンを身内だと思う様になっていた。戦いに身を置く状況に不憫さを感じ、誰にも見せず泣いた夜すらあった程にその感情は強い。

 本格的に計画が始動するに当たり、一条はリオンに蛇蝎の如く嫌われ、殺される事すら想定していた。

 故に、まだ触れ合えている事に心を動かされているのだ。


「ふっ、くぅぅぅっ!!」

「ったく、良い大人が泣いてんじゃないわよ」

「で、ですけどねぇ……」

「まったく。……さ、行きましょ? どうせまだまだ問題は山済みなのだろうし」


 発光する魔法陣を見て片目を瞑り、リオンは厄介そうに溜息を吐いた。



 魔法陣に足を踏み入れたリオンは視界が元に戻ると同時に周りを見回す。場所はどこかの体育館を思わせる様相だ。

 そこには現代的な衣服を身に纏った人々が、その衣服に違和感を与える武骨な武器を持っていた。それらの武器を見て、リオンは大体の事情を理解する。要するに、この場に居る者達は己と同じ境遇なのだと。


「……一条さん。私、母さん達に会わせてって頼んだ筈なんだけど?」

「済みません、少々お待ちください。同志三日月が現状のい説明を致しますので。皆様、家族に会っている最中の人もまだ会っていない人もこの場に集合しているのです」


 言われて視線を巡らせれば、確かに集まった人々の表情は芳しいモノではない。普段ならば知るかと吐き捨てていたリオンだが、状況が状況だけに情報の取得を優先する。

 近場の壁に背を預け、腕を組むとリオンはその場を観察する事にした。


『やあ皆、元気だったかね?』

「三日月っ、テメェ!!」

「何が目的だ!?」


 虚空に突如としてウィンドウが表示され、三日月の姿が映し出される。そこへ、集まった人々が口々に思いつく限りの罵詈雑言を放つ。言語を可視化する事が可能ならば、三日月は夥しい文字の渦で見れない事だろう。


『静かにし給え。今から説明をしようじゃないか』


 その言葉に、人々は一応の沈黙を作る。

 リオンもその内の一人であり、鋭い視線で三日月を睨みながら腕を組んだ。


『まずは、そうだな。世界の崩壊について話そうか』

「お前の仕業じゃないのか!?」

『説明の邪魔だ、口を閉じてい給え』

「むぐっ。……」


 三日月に言われ、一応の納得を見せたその男は三日月を睨みながら口を閉じる。それを見て取ると、三日月は再び口を開いた。


『原因は異世界からの侵略だ。ああ、君たちが転移した異世界とはまた別の世界だ。彼の地は私達が召喚された土地であり、そして逃げ帰ってきた土地でもある。君達にはこれから私達の指示に従って戦ってもらう。なぁに、そこまで無茶な依頼はしない。少しばかり、命を懸けるだけだ』

「こ、のぉ……っ」

「ふざけんな!!」


 三日月の言葉に再び罵詈雑言の渦が湧き上がる。集団の大半が目を吊り上げ言葉を荒げる様子を、既に三日月に慣れ始めたリオンや一部冷静な人々が見つめていた。

 大声や叫びとは印象よりも体力の消費が激しい行動であり、体力が尽きたのか自然と罵倒の声は鳴りを潜めていく。

 そのタイミングで眼鏡を掛けた青年が指で、己の眼鏡を押し上げつつ尋ねる。


「それで、報酬は? 依頼と言うからには有るのでしょう?」

『勿論だ。君達は環境を得られる』

「……どんな?」

『君達の親しい人が不自由無く暮らせる環境だ』

≪ッ!?≫

「……やっぱり、か」


 三日月の言葉に騒然とする周囲に目もくれず、眼鏡の位置を調整しながら青年、遠眼鏡は呟いた。


「貴方のお仲間が言っていましたからね。俺達の身内は無事だ、と」

『それだけで推測できるものかね? 私達が君達を騙している可能性すらある』

「現に俺と数人は身内が保護されている事実を確認しており、その線から恐らく本当の事だろうと考えました。そして、この混乱した状況下でそれだけの人々を保護し養う理由が思いつかなかった」

『確かに、君達の関連者と言う理由で助かっているからね、彼等は。でなければ、他の人々と同様にj見捨てていたさ。良かったね、君達があのゲームをプレイしていて。異世界へ転移されて』

「…………」


 三日月の言葉への反応は様々だ。

 人質と聞き、顔を青褪めさせる者。見捨てたという言葉に感情を昂ぶらせる者。冷静に状況を噛み砕き飲み下そうとする者。

 その中で、リオンが組んでいた腕を解き前へと躍り出る。


「……なんだ、要するにいつも通りって事でしょう?」

『と、言うと?』


 歪んだ笑みを浮かべて見つめる三日月に対し、不敵な笑みで返しながらリオンが言う。


「掛け金は自身の命。報酬は身内の命。こんなの、異世界に行く前と変わらないじゃない。……世界が崩壊する前と、何も変わってたりなんかしないじゃない。いつだって、私達は己の身を削り誰かの為に生きてきた。今回の件は、その問題が表面化しただけに過ぎない。……違う?」


 振り返り尋ねるリオン。

 その良く通る声とこの状況を何でもないと言いたげな発言内容に周囲の人々は飲まれて行く。力強く立ち、様々な謀略を渦巻かせる三日月に対し、正面から言葉を交わし合い対等であると見せつけている。


「それに、恐らく現状では私を切り離す事は出来ない。この場にいる人々全員に少ないながら共感を持っている私の機嫌を損ねる様な事はしないわよね? 狡賢い貴方の事だもの」

『……ふふっ、今夜の君は実に魅力的だ。いつも冷静に会話してくれると助かるのだけどね?』

「ホント、今夜の貴方は賢いわ。モニターを挟んでいなければ、私は間違いなく貴方を殴り潰しているのに……」


 獰猛に笑うリオンと怪しげに笑う三日月。

 多くの人々がただ雰囲気に飲まれる中、冷静にその様子を観察する者はリオンと三日月が知り合いである可能性を見抜く。

 遠眼鏡と名乗る青年もその一人だ。


「……随分と親しげじゃないですか、三日月さん」

『そうとも、彼女が幼い頃からの付き合いだからな。廃人になる危険性すら無視して家族を養う為に実験に協力してくれていた、我々にとっては功労者だ』

「な、に……?」


 その言葉に周りの視線がリオンへと集中する。大半の視線には、三日月の仲間かという敵意染みた感情が乗せられていた。

 面倒くさいと片目を瞑って溜息を吐いたリオンに詰め寄る影が一つ。


「……おい、河童女。あの時俺を止めたのも計画の一つだったのかよ?」

「あら、貴方は……」


 詰め寄ったのは、異世界にて迷宮へ帰還の手掛かりを求めて夜駆けを行った青年だった。


「答えろ!!」

「そんなわけないでしょ。むしろ、私はあの時貴方達の無謀な探索行為を推奨する様な思考を持っていたのよ? ライガーと取っ組み合いしなければ、私の意見は変わっていなかったし。大体、私が三日月の仲間ならなんで貴方達みたいに行動しないといけないのよ? 私が奴らの仲間だったら真っ先に身内を安全な所に移動させて後は我関せずを決め込んでいたわよ」

「信用できるか!!」

「信用? そんなモノ、必要ないわ。だって、貴方は私にとって邪魔にしかならないもの」

「テメエ!!」


 憤った青年が拳を振りかざす。強く、硬く握りしめられた拳がリオンの頬を目掛けて進み、それが到達することなく青年は側頭部を蹴り飛ばされていた。


「弱い。だから邪魔なのよ。前にライガーも言っていたけど、それじゃ死ぬわよ? 他の連中も、混乱して憤るだけで……、もっと他に考える事が有るでしょうが。人質に取られた時点で、私達は三日月の機嫌を伺わなければいけない事は目に見えているでしょうが。ホント、無駄ばかりね」

「…………」


 リオンの見た目は背の低い高校生といったモノであり、その明らかに己よりも低い年齢の者にこうまで言われ周囲の人々は多かれ少なかれ憤りを覚えた。


「煩わしい事この上ない。だからほら、気に入らないなら得物なり何なり出しなさいよ? その矛先を向けた瞬間に貴方達の首を跳ね飛ばして上げる」


 アイゼンリートを取り出し、リオンが構える。

 殺気すらにじみ出るその雰囲気に、周りの者は確信した、この女は本気だと。本気で、此方が動けば殺しに来ると。


「私はね、ライガーみたいに甘くないの。私の最大目標は身内の安全。それ以外に邪魔になる要素は容赦なく斬り潰す。場合によっては、私自身を傷付ける事すら厭わない」


 多くの者が息を飲んだ。

 憤る者は怯み、冷静な者はその手で輝く魔道具の輝きを認識し、年配の者は己の娘や息子と同年代の子供が剣を振りかざす様を痛ましく思い、そしてその場の勢いが鎮静化された。

 それを見計らう様に、手を叩く音が聞こえる。

 モニター越しに三日月が二つ手を打った音だった。


『そこまでにして貰おうか。リオン君、彼等は私達の計画において非常に重要だ。優先度が君ほどではないとしても、失くして良い要素ではない。非常に困る、出来れば引いて頂きたい』

「……三日月、いつか貴方の首を斬り飛ばす」

『事が終わったなら存分に』


 三日月の言葉を聞き、渋々と言った様子でリオンはアイゼンリートをしまう。

 それによって場の緊張した空気が幾分か和らいだ。


『では、皆お待ちかねのご対面と行こうじゃないか。現状において、君達の関係者はそれぞれ隔離した状態にしてある。このご時世だ、混乱してやらかさない為の措置だと思ってくれ。それではそれぞれの部屋へ転送しよう。順番に、先程リオン君が出て来た魔法陣に入り給え』


 三日月の指示を聞き、人々は魔法陣へと足を踏み入れていく。

 その様子を見て、リオンはこの転送用魔法陣の便利さについて考え出すのだった。


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