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不安

 魅花のいる病室の扉を開けると、そこには先生と看護士。ベッドの上には顔を真っ赤にした魅花が苦しそうに身体を捩らせ、もがいていた。先生は魅花にシッカリして下さい!! などと魅花を励ましている。


「魅花! どうした!!」


自分は先生と看護士さんを除けて魅花の右手を掴みながらそう言った。 魅花の右手は相当熱かった。そして手汗がびっしょり。何かあったんですか!? と先生に言うが、先生は首を傾げながら言う。


「分からん……但し普通の熱や風邪では無いのは確かだろう」


「そんな事は分かってるんだよ!!! 何か手立ては無いのか!? 病気になってる人を治すのが先生じゃないのか!? 魅花のお腹の中には赤ちゃんが居るんだぞ!!」


怒声を上げる自分。その声は病室に響いた。看護士はよして下さいと言わんばかりに自分の胸に手を押し付ける。すると魅花の右手が自分の手を握る。


「大丈夫だよ……パパ……赤ちゃんも……大丈夫……」


私は大丈夫だよ……って……その額から出る大量の汗は何なんだ……その真っ赤な頬は何なんだ……魅花は、逆に自分を励ましている感じがした。自分が取り乱しているのだろうか。一度自分は心を落ち着かせる。


「本当に、大丈夫なんだな……魅花?」


そういうと魅花は小さく首を縦に振る。静かな病室。自分含め、先生・看護士と魅花を見守る。数分もすると魅花の右手の汗が引いてきた。気が付けば魅花は眠っていた。こんな朝にも関わらず、スヤスヤと。


病室に漂っていた重い空気が柔ぐ。 


「魅花は大丈夫なんですか?」


自分は先生に尋ねると、安静にしておきましょう……と先生は言った。勿論、自分は魅花を置いて病室を立ち去るのはゴメンだったが、今の魅花を見る限り身体には異変は見られないし、魅花本人も大丈夫だとは言っていた。 

 自分は病室を後にした。

車を走らせ、アパートと戻ると、徹は玄関の前で携帯を見ながら立っていた。


「徹……まだ居たのか?」


そういうと、徹は広栄! と叫び、携帯をズボンのポケットに直した。

どうやら自分がアパートを出た後から今まで、ずっと玄関先で待っていたそうだ。何も此処で待たなくても……とりあえず部屋の中に二人で入る。


「魅花が、いきなり熱出しちゃったみたいでな……幸い大した異常は無いみたいだ」


良かったじゃねぇかよ! と、徹が嬉しそうに言う。

しかし、まだ心の奥では喜べ無い。あの発熱の指す原因とは何なのか。気掛かりなのはそれだけでは無い……お腹の赤ちゃんだ。あの時、外から見て異常は無かったモノの、赤ちゃんに何かあったのなら、それこそ一大事だ。しかし、今こんな事考えてはいるが……駄目だ。不安になっては駄目だ。 

もっとポジティブに考えなければ。


「……栄? 聞いてるか?」


「あ、あぁ? ゴメン……考えてた……」


 シッカリしろ。広栄。魅花に何も起きやしない。赤ちゃんに何も危害は無い。 今変な事考えたって無駄だ。自分は自分にそう言い聞かせ、徹と昼御飯を食べる。

その後、夕方過ぎまで話合った。お互いの今や魅花について等。そろそろ御開きにしようという所で、徹が忘れてた。と言って、バッグから取り出したのは写真立てだった。 


「部屋の良く見る所にでも置いておけば良い。昔、俺の婆ちゃんも病気だった時、タンスの上に置いてると、いつも一緒に居てる感じがしてな」


 そういって徹は自分に写真立てを渡す。 

 木製で写真一枚がスッキリと収まる小さいタイプ。ありがとうな。と一言徹に言い、徹を玄関まで見送る。徹が玄関を出るとき、「写真立てに入る写真は分かってるだろうな? 勿論広栄と魅花さんのキスシーンだぞ?」と、徹。玄関のドアは勢い良く閉めた。何よりお隣さんに聞かれるのが恥ずかしかった。因みに、後から聞いた話だが、あの写真立ては本来徹とその父親のツーショットの写真を立てるそうだったらしい。なんでも田舎に来た記念だったそうな。でも肝心の天気が雨で、生憎写真を撮るのはまた来年にしたそうだ。その余った物を自分にくれたらしい。有り難い話だが、ちょっぴり同情した。

 兎に角、写真立ての写真は魅花とのキ……ではなく魅花が退院して赤ちゃんと魅花。そして自分の集合写真にしようと思った。

 写真立てをタンスの上に置き、一息付こうとテレビを付け、台所に行き、お湯を沸かし、今日の夜御飯であるカップラーメンを漁る。外に干しておいた服を畳み、タンスに仕舞う。お湯が沸いた。豚骨の良い匂い。カップラーメンをテレビの前のテーブルへ運び、一人テレビを見ながらラーメンを啜る。 


魅花は大丈夫だろうか。


その想いだけが心の底に溜まっている。

何だか心のモヤモヤが晴れない。部屋の支度が終わったら、もう一度病院に足を運ぼう。早々とスープを飲み干し、部屋を片付け、服を着替える。そして自分はまた病院に向かう。心のモヤモヤを抱えながら、自分はアパートを後にした。  

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