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悪夢

「合えなくって、ごめんね。パパ」


幼い声が小さく響く。

自分はただ呆然と何気なく立ち尽くしていた。

そしてまた次は自分の足から、小さい女の子……と云うよりかは、まだ歩けるようになったばかりの幼稚園児の様な子がひょっこりと顔を出し、一つ笑みを浮かべると独りでに何処か真っ直ぐ走っていった。

 自分は何故か、不思議とその子を追い掛ける。そこで、双子の姉妹がまた、自分の後ろから走って来た。その姉妹のうちの一人が走りながら自分の目をチラリと見てきた。その子は先程の女の子同様に、此方の顔を見て笑顔を浮かべた後に走り出して行った。自分もその子達の後を追おうとしたが、聞き覚えのある声が自分の足を止めた。


「パパ。先行くよっ」


後ろを振り返ると、其処にはいつもの笑顔で魅花が立っていた。『そこで何してるんだ?』と口を開こうとしたが、自分の頭に疑問が浮かぶ。


(魅花が……立ってる……)


車椅子が見当たらない。それどころか杖も無く、何の補助も無く魅花は平然と立っている。

 そんな事を考えていると、魅花はゆっくりと此方に向かって歩き出して来た。よく見ると口を動かしている。何かを伝えようとしているのだろうか? しかし自分の耳には魅花の声が入ってこない。というか聞き取れない。しかし魅花はシッカリと【何か】をずっと話し続けている。

 少しずつ近づいて来ていた魅花だったが、距離が縮まるにつれ、若干だったが魅花から何か聞こえてきた。


「あ…り…を………んだよっ」


この言葉だけしか聞き取れなかったが、多分これっぽい事を話していたんだと思う。そして魅花は言い終わると、またニッコリと目を細めて笑顔を浮かべる。そして、さっき女の子達が走っていった方へとゆっくり歩いていく。ぼんやりと魅花の後ろ姿を眺めていたが、ハッと我に戻る。こうしては居られないと思い、魅花の後を自分は追う。 


何故か魅花は走った。 


「ちょっと、魅花!? 一緒に行かないのか?」


自分が魅花にそう言うと、魅花は走りながら振り返る。


「ご…んねっ」


………ごめんね? 口の動きや顔の表情からして自分はこう聞き取った。いや、それにしては何に対しての謝罪だ? 追い掛けつつも、そんな事を考えていると、魅花の走るペースが徐々に上がってきた。自分も魅花を追おうと必死で魅花に追い付こうと走るが、一向に距離が縮まらない。このままでは引き離される。自分はそう思い、魅花に向かって叫ぶ。


「魅花! 待ってくれ!」


しかし魅花には聞こえなかったのか、そのまま真っ直ぐ走って行き、見えない所まで去っていった。 

 取り残された自分は、何故か後ろを振り向いた。当たり前だが目の前には誰も居ない。その変わりに、声……いや、叫び声が何処からか聞こえて来た。魅花の声では無い。家族でも知人の声でも無かった。しかし、その声は何故か聞き慣れた声だった。


「……あぁ……! 置いていかないで!! ……か……だけ何でひとりぼっちにするの!? 何で!!………ひとりぼっちにしないでよぉ!!!」


前後左右を見渡すも人の気配はしない。しかし声はハッキリと耳の中へと入ってくる。声からすると女性……と云うよりは、どこか幼い女の子の声。

 自分は先程の女の子達か……と思ったが何だか違和感があった。先程の女の子達は笑っていたのに、この子の声は必死に何かを伝えようとしている声。それもただ伝えようとしているのでは無く、今にも事が起きるよ……と予言する様な声なのだ。 

 

 それにもう一つの疑問が頭に浮かんだ。 

 置いていかないで……と言われても、自分は今、只立っていて、動いてもいない。それなのに少女は呼び止める。気になる自分を余所に、女の子はまた話す。


「……く!! 早く!! ……が!! 早く……って!!!」


今度は早く……と、女の子は繰り返し言い始めた。この子は何を伝えようとしているのだろうか。



……リリリリンリンリリリリンリリン……


 目覚まし時計が喧しく部屋中に鳴り響く。 

右手を振りかざして目覚まし時計を止める。静かな部屋だ。横に魅花の姿は無かった。


「……そうか……魅花は病院なんだよな……」


ただの夢だったのだろうか……それにしてはやけに現実味のある夢だった。魅花の姿は表情もクッキリと見える程リアル。それに、額から汗が流れる様に垂れる。 


あの少女達は誰だったのか。

あの魅花の言葉は何だったのか。

あの少女の声の指す内容とは何だったのか。

 

気になる夢、悪夢を見て朝からげっそりとした。

今日は休日だ……今日ぐらいゆっくりしようと思っていた……なのに目覚ましを設定してしまっていたのも馬鹿だったが…… 


「広栄~ 居るならベル頼む」


 居るならベル頼むって……その前にあんたがインターホン押さんかい。ベッドから降り、服を着替えながらドアに向かう。

 その時、ふと何かを思い出しそうになったが、関係無いだろうと思いドアを開ける。そこには背の高い男が立っていた。 

 古谷野ふるやのとおる。高校時代の友達だ。いつも学校にいる間は徹と仲間とで、喋るなり遊ぶなりしていたものだ。背は相変わらず高く、クリクリとした天然のパーマが印象的である。余談だが、それに濃い顎髭も印象的ではある。全くと言って良いほど変わっていなかった。まぁ、1年と半年でそう変わるものでもない。


「おっ、徹か。久しぶりだな!」


「広栄も相変わらずだけどなぁ。ちょっと邪魔しちゃうけど良いか?」


「いいよ。で、何の様? まさか遊ぼうなんて言うんじゃ無いだろうな」


手を振りながら「それは無いわ~」と言う徹。何が無いのか。


「婆ちゃんの家に行った帰りに、たまたま広栄のアパートの近くに車走らせてたから、挨拶ついでに寄ってこうかな~って思ってな。どう? 結婚とかしたのか?」


最後に放った徹の言葉に思わず自分は咽せる。 


「ばっ……率直すぎるだろお前は!! もっとこう、柔らかく平たく言えんのか……まぁ、結婚はしてないが、付き合ってて…今、彼女は……その……妊娠中だな」


驚きを隠せない徹。口が開いたままだ。 

 その後、魅花については色々話したが、どの話も徹は硬直したままだった。無理も無い。小学時代、中学時代、高校時代。何の刺激も無く、自分に恋人が出来ないと悟り、徹と共に生涯未婚の誓いという馬鹿な約束をしたのに……だ。 


「へ、へぇ……広栄がねぇ……まぁ~不思議な事もあるもんだな」


そろそろ徹の話も聞きたい。そう思った矢先、一本の電話が携帯電話から鳴る。 


「もしもし。 ……あ、~病院の……」


「もしもし!! 富士園さんですか!? 佐田上さんの様態が急変しました!! 今すぐ此方の方へ来て頂けますか!?」


魅花の様態が急変? 何の事だと思い、徹に一言を伝え、そのままアパートを後にした。 

 

まさか魅花が………不吉な事は考えない方が良い。自分は車を走らせた。

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