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新しい日々

 そこからというもの、自分はみるみると変わっていった。 

 今まで現実に出来なかった仕事の課題も着々とこなし、仕事での評価は、まさに字の如く鰻登りだった。 

 時々、仕事が早く終わった日は、魅花の居る病院へ仕事の帰りに寄っていく。魅花はいつも折り鶴を折っている。それは縦横10センチの色とりどりの折り紙で作る小さい折り鶴だった。日に日にその数は増していき、10個。数10個。数100個と増えていく。それを自分は100個単位で紐に取り付け、病室のベッドの傍に掛けてやっていた。夜にランプを付けるが、その光が鶴に当たり、透き通った折り鶴が何とも綺麗だった。魅花もそれを見て喜んでいた。 

 

 そして病室にある折り鶴が沢山飾られてきたある日、退院日が決まった。 

自分と魅花は手を取り合い、良かった良かった……と、2人して喜びを分かち合った。 


 そして退院の日。 

 先生に御礼の言葉を贈り病院を後にした後、自分のアパートへ魅花を車椅子の後ろにあるハンドルを押して案内する。そのアパートは魅花の知らない間に自分がコツコツとお金を貯め、小さいながらも立派なアパートを借りたのだ。 

 アパートの大家さんも良い人で、アツアツのカップルという事実を知るやいなや、「今日も嫁さんは元気かぃ?」なんてからかっては来るが、面倒見が良くて、夕食の余ったおかず等は自分が料理を作れないし、魅花は足が悪く台所に立てないと知っていて、夜になるとそうめんの残りだの、カレーの残りだの、ロールしていないロールキャベツの残り等。本当にいつも残っているから……と思えない様な量で自分と魅花の分を下さる。正直、とても有り難かった。

 

 2人で同居していく事になった自分と魅花。

 楽しい事や笑い合った事は数えきれなく山ほどあった訳だが、その分、大変な事だってその数倍もあった。家事は殆どが自分の役だ。掃除・洗濯・身の回りの事は出来るだけ自分が担当していた。 


足が悪い車椅子の魅花に苦労を掛けさせたく無いからだ。 


 しかし料理は魅花が自ら進んで分担する決まりになった。 

 魅花曰く、「子供達に只でさえ家事の出来ない私なのに、料理も出来ないなんて恥ずかしい」と言っていた。そこは魅花が言っているんだから……と、料理だけは任せるようにした。

 

 ようやく生活がリズムに乗ってきたある日の夜。

 仕事が終わり、アパートに帰ると良い匂いが玄関から立ちこめていた。期待を胸にドアを開けると車椅子に乗った魅花が笑顔という女神の微笑みで玄関先の前で待っていた。 


「ご飯作って待ってたよ。お帰り」


「ただいま。ご飯作るの大変だったろう。ありがとう……魅花」


 靴を脱ぎ、手と顔を洗い、魅花の乗った車椅子をリビングへと押す。 

 リビングに進むにつれ、カレーの匂いが強くなる。リビングの扉を開けると、テーブルには美味しそうなカレーが見えた。白い皿に盛られた野菜も色とりどりだった。レタスにトマト。コーンも沢山あった。どう見ても健康そうな夕御飯だった。

 というのも、前日までは出来合いの弁当、惣菜。或いはカップラーメン等。あまり良いモノを食べていなかったが、今日は仕事が早く終わったので魅花に連絡を入れておいたのだ。

 魅花を乗せた車椅子をテーブルまで押し、「少し待ってて」と一言残してスーツを洗濯機に放り込み、手を洗い、魅花が待つテーブルへと向かい、イスに座る。


「お待たせ、魅花。じゃぁ手を併せて……」


「「いただきます」」


カレーにガッツく自分に、魅花は静かに笑う。ゆっくり食べてよ。と言いながら、魅花は此方を向いていたが、自分はカレーに夢中だった。無理も無い。魅花のカレーはそれ程美味しいのだ。魅花はカレーに沢山、肉を入れる……それも数種類。バラの豚肉。ブロックの牛肉。挽き肉。そして鳥モモ肉。ボリューミー過ぎてニンジンやジャガイモといった野菜や米が見えない程に。


「魅花のカレー。美味しいな」


「ありがとう………パパ」


カレーを掬い上げたままのスプーンが止まった。 


「……パ……え? 今、何て言った?」


「パーパ。パパよっ。分かった?」


 パパという単語に、自分はどれほど待っただろうか。 

 念願の魅花の夢が叶う存在。まだ名前も何も決めてはいなかったが、自分はその報告を聞けただけでも嬉しかった。


「自分が……パパ……って事は、魅花は……ママか!?」


嬉しそうに魅花は、カレーをパクつきながら言い返す。


「そうよ。私も今日からママ。あぁ……お腹にいる赤ちゃんが産まれたら、早くママ……って、言って欲しいなぁ」


「そうだなぁ。赤ちゃんか。魅花の夢も、もう直ぐ叶うな」


「うん。夜景……水族館……楽しみだねっ」


 いつもは冷静な魅花も、この時ばかりは若干ハシャいでいた。 

 テーブルから身を乗り出し、まるで無邪気な小さい子供の様だった。

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