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恋の始まり

 病院に走って着くと、救急車が病院の入り口の前で留まっていた。 

 後の窓の中を覗くと誰も居なく、運転手が一人、車を発進させようとしていた。


「まだ時間は経ってないみたいだな………」


 入り口から病院へ入るとカウンターの前の椅子に座っている高齢者の方、マスクを付けている小さい男の子とその保護者だろうか? が、チラッと自分の方へと目線を自分に向けた。


 それもそのはず。

 身体中、というかスーツは汗だくで息は切れ、ネクタイはズレている。 

しかし今はそんな事気にしてられない。 

そして自分はすぐさま受付カウンターに向かった。


「あの……あの……佐田上……さんって……いらっしゃいますか……?」


途切れ途切れの言葉だったが、言葉を伝えると、受付の人が困った様な口調で言う。


「え、え~っと……佐田上さん……で、宜しいんですね?」


「はい……はい、そうです……」


 そういうと受付の人は通りかかった若い看護婦さんに問い質した。

 その間、自分はカウンターに膝に手を付き、頭を下ろし、呼吸を調えていた。周りが心配そうに、大丈夫ですか? と聞いてきてくれるのだが、息が切れていた為、ハンドサインで大丈夫です。と、自分は伝えた。

 

「あの~ 先程此処に救急車で運ばれてきた佐田上 魅花さんという患者さんなら、三階の305号室に……」


 説明を始めた若い看護婦さん。まだ喋っていた看護婦さんには悪いが、ありがとう……とだけ言い残し、また走って階段を登って行った。三階に着き、上を見渡すと、305と書いてある病室を見つけるや否や、入っていった。そこには佐田上さんがベッドで横になっていた。すると佐田上さんが驚いた様な口調で言う。


「あ、富士園さん! どうして此処に!?」


「朝、喫茶店に行ったらマスターが……佐田上さん病院に運ばれたって言ったか

ら……それより大丈夫かよその足は……」


「いえ……大した事は無いですけど……でも、下半身不随……一生歩けなくなるかもって、それがちょっと残念かな……」


 そう言うと佐田上さんは、多少引きつってはいるが、笑顔で此方を見つめる綺麗な目が自分の方へ向いていた。


「一生歩けなくなるって……じゃあ一生車椅子か!? なんにも大丈夫じゃ無いだろう!?』


 怒鳴る様な心配している様な。 

 ごっちゃになった感情のまま自分は佐田上さんに言葉をぶつけるが、それでも笑顔で此方を見つめたまま自分の目を見て佐田上さんは言う。

 

「いえ、いいよいいよ。こんな小さい身体を動かすのなんて車椅子があれば十分ですよ! あ、そういえば富士園さん! 会社!!」


「電話一本入れておいたから大丈夫だ。それより、どうするんだよ? この先……」


そう言うと、思わぬ言葉が佐田上さんの口から飛び出した。


「………私、ずっと考えていたの。幸せな家庭が欲しいなぁ~って。沢山の子供でテーブルを囲んで夕御飯を食べるの。そして家族皆で水族館に行って、イルカショーを見て、水が掛かっちゃった子供がワンワン泣いていて、それをハンカチで拭いてあげて……泣いたり笑ったり………そして出来たらの話なんだけど、そのあと山へ登って、町の夜景を観たい………あぁ……こんな夢のような話、どんなに幸せだろうか……でも、こうして私が車椅子生活になってなっちゃって、とんだお荷物ですよね……それに、こんな上手くなんてはいかないでしょうけど、せめて夜景だけは一生に一度、この目で観てみたい」


 温かい手がベッドの上を這うように、此方へ徐々に動いていた。それを上から止める様に、佐田上さんの手を覆い被せる。 


そして自分は佐田上さんに言う。


「その幸せな物語のお父さんって?」


「喫茶店でコーヒーとサンドイッチをいつも変わらず毎日頼む人で、ネクタイがズレていて、今、私の手を覆ってくれている人」


そして一つ佐田上さんが言う。


「じゃあ、私からも質問ね。私の幸せな物語のお母さんって、どんな人かな?」


「背が小さくて、何だかちょっとシャイで、いつも目が輝いていて、それに大きくて幸せそうな夢も持っていて、今、自分の手を覆われている人」


「それって私の事かしら?」


すかさず自分は口を開く。


「佐田上さ……魅花さん。君の事だ。それと今までずっと黙っててごめん。自分は……君、の事が……」


この時、いつも言えなかった喉元のつかえがまるで無かった。




「「好きだ!!!!」」



「……え?」


「聞こえなかった? 私はあなたの事が……誰よりも好きだよ!!」


そして、その時ばかりは盛大に泣いた。

 

男だろうが関係ない。素直に嬉しかったんだから…


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