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振り返る思い出

 とある田舎。 


 村から少し離れた場所に、ポツンとその古い家は建っていた。 

 周りは木々に囲まれ、四六時中、虫や野鳥が忙しく鳴いている。田んぼが辺り一面見渡す限りに広がるこの騒がしくも明るい風景。そんな辺境の地、舗装もされていない道は、車のタイヤで出来たであろう跡がスーッと向こうの方まで見え、そのタイヤ跡を囲む様にゴツゴツとした砂利も一緒になって延びている。そんな道を辿って行くと、途中で道が途切れる。そこを右手に進むと坂になっている小さい道がある。その坂を上れば左手にその家が建っている。


 今日も家の仏壇にある鈴の音が静かに部屋に響き渡る。 

 朝の夏の太陽の明るい日差しが障子を通して部屋に入り込み、その光が畳を反射し、部屋を明るく照らしてくれている。部屋には線香の煙が静かに立ち上り、近くの山からだろうか、多くの蝉が今日も必死に鳴いている。外では、表にある木の枝でスズメは群れ、じゃれ合いながら小さく鳴いている。因みに、鳴いているのは外の動物や昆虫ばかりでは無い。自分の傍で寝ている娘も、深く呼吸をしながらスゥスゥと(いびき)を掻いて寝ている。

 

 この子の名前は富士園(ふじぞの) (あかり)

 歳は5歳で、とても明るく、活発的。それでもって無邪気な性格だ。胸元まで伸ばした薄い茶色混じりの長いストレートの黒髪に、小さい身体。いつも一日何があったやら、明日は何々して遊ぶんだ! 等と、無条件でニコニコと笑顔を振りまく光だが、そんな光でも短所は沢山ある。

 食べ物に対しては好き嫌いが多い。好きな食べ物は小さな身体には割に合わない程の肉好き。例を挙げれば厚めのステーキ等がその中に入る。焼き肉店などに行けば、もう光は止まる様子を見せない。そして光は野菜も好きだ。ピーマンやグリーンピース等を好き好んで食べてくれるのが自分にとって何より嬉しい。

 しかし、光の短所である嫌いな食べ物……地味な食べ物が駄目なのだ。ゴマやネギ。はたまたキクラゲなど、ひとたび料理に入っているのを確認すると、イチイチ除けるか端に寄せる。あとは、果物がちょっぴり苦手なくらい。本人曰く、リンゴやブドウは大丈夫らしいが、メロンやグレープフルーツなどが駄目だそうだ。

 そして、光のもう一つの短所である人見知り。ひとたび村を下り、買い物をしようものなら、必死に自分のズボンの後ろにあるポケットに指……というより小さい光の手をそのままポケットに入れてくる。それも自分の足にピッタリとしがみつき、自分がいつも肩に掛けているバッグで顔を隠すのだ。まるで人と会うのが怖いのか、と思わせる様な行動は、極度の人見知りのせいなのだ。

 

 産まれてこの方、光は初対面の方や、同年代の子。 

 先程にも言った通り、ただ道で擦れ違う人を見ただけでもしがみついてくる。自分も積極的にこの子の人見知りを直そうと努力するのだが、なかなか上手くいかない。しかし、何故か【年下の子】にだけは心を開ける様子だ。

 仕事終わり。保育園での迎えで自分が顔を覗かせると、やはり幼なじみの子に対しては無口なのだが、1つ下の子や2つ下の子が遊んで欲しいと強請るシチュエーション等では家に居る時同様、明るく接しているのを見かけた事があった。

 

 言い忘れていたが、光は保育園では年長さんだ。

 来年は保育園を卒業し、念願の小学一年生になる。やはり、小学生にもなると人見知りという短所は克服して欲しいモノなのだが……それに、1年生だと年下の子が居ない為、小学校での授業中の姿・態度や、5年生や6年生などの高学年の子達にどう上手く接していくのかが、自分にとって今一番の悩みだ。勿論、自分も日々努力はしているが……

 

 そんな親バカみじた事を自分は考えながら、ふと光の顔を見る。 

 時に自分は明るい天使の様なこの子の顔を見て、あの頃の思い出を思い出す。 

 

非道く落ち込んでいたあの頃を……


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