想いはもう人魚姫には届かない
短いですし、人魚姫の王子sideはいらないと言う方は、不快に思うと思うので、戻ってください。
この話は誰もハッピーではありません。
結婚の宴で盛り上がり、酒も勧められるままに飲み、疲れて眠ったはずなのに……ふと、目を覚ました。
なんだかとても悲しい夢をみた気がして……。
このまま、再び眠りにつくことだけはしたくなくて、妃の部屋を訪ねようと考えた。
部屋を出る前、あの子の顔が思い出された。
声だ出せないあの子のことを……。
声が出せないことが不憫でもあったし、何も身につけていないことも不憫であった。
何より私が流れついた所にいたことが、近親感を覚えさせた。
そんなこともあってか、あの子を拾い、妹のように可愛がった。
なんとなく、妃の部屋を訪ねる前に、あの子の部屋を覗き、顔を見たいと思った。
もう寝ているだろうし、行動も失礼だが、言いようもない不安が、後から後から込み上げて、行かなければ安心出来ないと思った。
そんな思いから……安心したい一心で向かう先を変えたのだった。
あの子の部屋の前についた。
当たり前だが、部屋から物音は一切しない。
時間のことも考えると、普通なのだが、『音がしない』ただぞれだけのことが不安をよりいっそう強めた。
静かに扉を開ける。
ベッドに寝ているであろう、あの子の寝顔を見て安心するつもりだった。
できると思っていた。
しかし、ベッドに思い描いていたあの子の姿はない。
不安が現実となって襲ってきた気がした。
訳がわからなくて、気付いたら妃の部屋にいた。
「ん、どうしたんですの……殿下?」
「…………あの子が……部屋にいなかった…………。」
「……あの子がですか?……きっと殿下がくる前にお手洗いにでも行ったんですわ。少しタイミングが悪かったんでしょう。明日の朝にはいつも通り元気な姿を見せてくれますわ。だから、安心なさって……今日は眠りましょう。」
「……ああ、そうだな……。」
妃の言葉通り、明日には姿を見ることができると思っていた。
けれど、願いはかなわなかった。
朝になっても、あの子の姿はどこにもなかった。
船上という閉鎖空間の中だというのに……。
海に落ちた可能性も考慮し、周辺を捜索させたが、なにも見つからなかった。
いったいあの子はどこに消えたと言うのだろう……。
あの子のいない日々は、何もかもが、急に色褪せた日々へとなった。
新婚だというのに、妃にたいして、なんの思いもわかない……。
そして、気が付いてしまった。
私は……あの子のことを愛していたということに……。
妹のようだと、家族のようだと思っていた……。
けれど、あの子笑顔が生き甲斐だった、あの子の存在があって、息が出来ていた……。
あの子がいなくては息も出来ない……。
その事実に気が付いてしまった……。
妃との生活に何の不満もない。思いも無い。
何にも無いのだ……。
私の恋情はすべてあの子のものだ。あの子が持っていってしまった。
もう、他の誰にも与えることは叶わない。
結婚という国と国の契約を、今さら間違いだったと破棄することは出来ない。
できたとしても、想いをぶつけるあの子はどこにもいない。
私はこのまま……ずっとこのままだろう。
何にもない結婚、生きる意味も覇気もないまま停滞するのだ。
そして、妃にたいして恋情を持つことができない罪悪感を抱え言うのだ。
「愛しているよ……。」
人魚姫の話を読んでいつも不思議だった王子様の想い、その後を妄想しました。
楽しんでいただけたなら幸いです。