表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

2.洗髪

「お前さ」



コウタは僕の事を『陸』とは呼ばない


もっとも、怖い時のパパみたいに『陸ちゃん』とか『陸くん』と呼んできたら、僕は恐怖で動けなくなるかも知れないが


彼は、僕を『兄』と思って居ない

血も繋がって居ない

僕と違って、コウタ達は今のママの子供だ

パパから暴力を振るわれる事も無い


当然の事なのかも知れなかった



「お前さ、汚いとか自分で思わないの?」


僕は、風呂に入る権利を与えられて居ない

お店で髪を切った事も無い

いつも、ぼさぼさの長い髪を肩より下まで垂らして居る


コウタの言葉の意図が解らなかった

コウタみたいに綺麗に、学校にも通って、明るく生きたいと思わないでは無い

しかし、僕は───


「いまパパもママも居ないしさ、良いから来いよ」


パパに似た顔が、僕の手首を掴む

腕を強く引かれて、内心では僕は泣きそうになりながら恐慌を起こして居た



連れて行かれたのは、風呂場だった


着ている物を脱ぐように言われる

コウタも僕に指示を出しながら、いそいそと自分の服を脱ぎ始めて居た


もう腕を引っ張られるのは怖くて嫌なので、自発的に風呂場に入る

続いて入って来たコウタが、僕にシャワーをかけ始めた


「痛い!」


───痛い痛い痛い痛い痛い痛い


柔らかな湯が躰を濡らして居るはずなのの、全身に針を刺されたような痛みが在った

日頃は一声も発しない僕が叫んだのが意外らしく、コウタは驚いて「ごめん」と小さく謝った


「傷口だらけだから、水がかかると痛いんだな」


言葉ではそう言うけど、根本的には僕を人間と思って居ないのか、コウタは泡立った石鹸のついたスポンジで、僕を(こす)り始めてきた


声も出せない程の痛みの中で、涙がぼろぼろと流れる

ようやくコウタは、僕が痛がって居る事に気が付いたのか「痛いなら言ってよ!」と言いながら、スポンジを慌てて床に投げ捨てる


そのスポンジの表面が、血と汚れでべたべたになって居る事に気付き、僕もコウタも怖くなって息を飲んだ


シャワーの音だけが淡々と、部屋に響き続けて居た




それでも最終的には、痛くない手洗いでコウタは僕を洗ってくれた


役目を終えたシャワーが、水を吐き出すのを止める

「ドライヤーは自分でしろよ」とコウタが言い掛けた時、アパートのドアが乱暴に開けられる音がした



「じゃ」


「じゃあ……後は自分でね」


まだコウタは自分を洗って居なかったが、僕を置いて浴室から離れていく



玄関の方から、パパが「陸ちゃん」と穏やかに呼ぶ声が聞こえた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ