3.探し人は
天幕の中でわたし、マーガレット、団長の話し合いは続く。
団長は「次に、だ」と話を切り出す。
「そのペンダントの宝石は”天穹の涙”って言ってな。結構な珍品だ。他じゃ見ないような空色だから、恐らく間違いないだろう。なんでも魔力が宿るとかどうとか聞いたことがあるが……」
団長が皺の数を増やしながらうぅむ、と唸りながら「詳しいことはわからんな」と言う。
「んでそのペンダントの裏に文字が彫ってあるようだが、まぁ普通に考えて古代魔道人形をどうこう出来るやつ本人か、関係者以外ないだろ。古代の遺物は移動に関して厳しい法律が各国にあるからな」
「そうなの?」
いまいちピンとこず、首をかしげながら言うとマーガレットが答える。
「技術的には全然使いこなせないんですけど、使いこなせたらとても危険な可能性があるってことで懸念されてるみたいですよ。大体の場合は死罪だとか」
「そういうこった。そんな代物だから必然的に関係者は少なくなるだろう、ってな」
ふむ、ペンダントに彫られた内容はわたし宛てっぽいし、そうなるのかな。
「まぁそもそも古代魔道人形をどうこう出来た奴がいるってだけで、本来ならとんでもない事だ。マーガレットが俺だけに事情を明かしたのは正解だったな」
「……いやぁ、なんか大事の予感がしません?」
「うーん、たぶん」
どうやらわたしは結構な代物だったらしい。そんなのが移動してるって、大丈夫なのだろうか。
「考えようによっちゃ、探し人を絞り込む良い条件ではある。それだけの凄い奴がいるなら、この件は隠していても別件で有名になるだろ。要は天才どもにそれとなく当たっていけば、探し人に会える可能性は高いんじゃねえか?」
団長の言葉を反芻するように考えて、ふと一つの疑問が浮かんだ。
「さっき、遺跡の深い所に古代魔道人形はいるって言ったよね?」
「ああ、それがどうした?」
「じゃあわたしを連れ出した人は、深い遺跡に潜れる人か、強い協力者がいたってこと?」
わたしの言葉を聞いて、団長とマーガレットはハッとした顔になる。
「いや、盲点だったな」
「なるほど、それだけでもまた条件が絞られそうですね……。団長、古代魔道人形が出現するような遺跡って、どれくらいの腕があれば潜れるんですか?」
「そうだな……」と団長が間を置き、
「俺はもちろん何度も潜ったことがある。前提としてだが……大陸中を巡った上で、冒険者時代の俺は負けるやつなんかいないと思っていた。もちろん仲間と組んでたが、強さって点じゃ絶対の自信があった」
そう言いながら団長は遠い目をしながら、昔を思い出すように語り始める。
「他人からの評価になるが、ここ数十年で登り詰めたとされたやつらは、”瞬きの魔槍ウルエイル”、”無敗の剣姫エーシル”、”絶剣将軍デュール”、あとは”不落の巨槌ガレリアス”こと、俺だ」
なんというか、こう……むず痒くなるような感じがする。そこらへんでそんな呼ばれ方をしていたら正直、恥ずかしい。ドヤっとしている団長に水を差せるわけもなく、口をもごもごしてしまった。
というか団長……ガレリアスって言うんだ。自己紹介のタイミングを逃してずっと聞けてなくて、今知った。
そんな事を考えていると、隣でマーガレットが拳を握り締め目を輝かせていた。
「くうぅ~、格好いい!流石です叔父様!」
「ふふ、そうだろうそうだろう。マーガレットは良くわかってるな。あと呼び方は団長だ」
興奮のあまり素が出ていたマーガレットが、ハッと口をふさぐ仕草をしている。
「マーガレット……なんというかこう、英雄とかそういうのが好きなんだね」
「そうなんです!団長はもちろん尊敬していますが、同じ女性として騎士を目指す者としてエーシルさんは外せませんよ!!彼女の清廉潔白な騎士道精神あふれる逸話はですね!!!」
ぐいぐい来るマーガレットに、思わず手を突っ張ってしまう。
「わ、わかったから。エーシルはすごいよね」
「あーーっ!!ルミナさん流そうとして適当に言ってますね!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ始めたマーガレットの頭上に、コツンと拳が当てられる。
「こら、はしゃぐなみっともない。お前はこの話題になると相変わらずだな」
「う、ごめんなさい……」
こうやってみると仲のいい叔父と姪なのだろう。
「話が逸れたが、遺跡深くに行くだけなら各国の二番手、三番手でも行けるだろう。まぁそいつらだと実力差があるから人数は必要になるな。先ほど挙げた奴らのような腕があれば、ごく少人数でも目的地に行けるだろう」
「ってことは、大分限られそうですねぇ。やっぱりこっちも有名人を探していくのが手っ取り早いんでしょうか」
「そうだな。ただ俺を含めそいつらの全盛期はもう2,30年も前だ。だがルミナの嬢ちゃんは魔狼を瞬殺できる程度には剣も達者なんだろう?流派や癖なんかは国や地域である程度の特色は出る。そっちの線でも、探す価値はあるかもしれんな」
団長がこちらを正面に捉え、聞いてくる。
「実際のところはどうなんだ?記憶がないと聞いたが、剣は覚えているのか?」
「うーん……正直なんとなく、程度。多分まだまだ振り足りない。振っていけば何かわかるかも」
「ふむ、そちらも並行して試してもらう必要があるな」
よし、と団長が話を区切る。
「とりあえず今日はここまでだ。俺は魔狼が出た件もあるし、追加指示をせねばならん。この天幕はお前達がそのまま使え。マーガレットはルミナの嬢ちゃんの護衛だ。外はレイチェルに任せる。お前が必要だと思った物品は要人用と言って物資係から押さえておけ。追加の話は明日だ。いいな?」
ぱっぱと要点をまとめ、マーガレットに指示を出す。
「申し訳ありません団長。随分とお時間をいただいてしまいました」
「構わん。追加指示と言ったが、どのみち現段階だとレイチェルに出した指示以上のことは大して出来ん。普段は群れている魔狼が単独だったんだ。恐らくはぐれに偶然遭遇したってところだろう」
「それが事実なら中々に運が悪いですね私……」
「はっはっは!それくらいは若いうちに経験しとくもんだ!それにルミナの嬢ちゃんに助けてもらって怪我なく帰れたんだ、問題ないだろう」
むぅ、と不貞腐れるマーガレットを尻目に、団長はこちらへ向く。
「ルミナ、改めて礼を言おう。こいつは歳が離れてる分、可愛い姪っ子でな。団員の手前あまり甘やかせられんが、兎も角無事で良かったと思っている」
「大丈夫です、人を守るのが剣を振る者の務めですから」
自然とそんな言葉が出ていた。団長はすこしきょとん、として豪快に笑い始める。
「そうか、そうだな!お前さんは随分と騎士の様だな。いずれ杯か剣を交わしてみたいもんだ」
「……だいぶ極端」
「まぁそう言うな、それくらいの気持ちってことだ。ではまた明日な」
そう言いながらずんずんと天幕を出ていく姿を見送る。
団長が出ていったのを確認し、マーガレットが振り向く。
「ルミナさん。私はここで過ごせるよう寝具や替えの服なんかを持ってきます。ついでに上司とも話をしてきますので、ゆっくりしてお待ちください」
そう告げるとマーガレットも足早に出ていく。
「さて、どうしようかな……」
一人取り残され、特にやる事も出来る事もないわたしは、ゆっくり話の整理をすることにした。
とりあえずの目標は古代魔道人形に詳しい魔道学者を探すこと、それかその様な人物と繋がりのある強者を探すことだ。
マーガレットの話ではここらへんには町や村があるとのことだった。ただ林業や採集が中心の様な言い方をしていたから、恐らく学者がいるような大きな都市とは違うのだろう。そうなるともっと大きな都市を目指して移動する事になる。
仮に遠い所へ移動しなければいけない場合、右も左もわからないわたしは案内人が必要かもしれない。街の風習なんてものもわからなければ、そもそも国の法律すら知らない。マーガレットに頼めれば良いが、騎士を目指す従士としてそれが可能かどうかは怪しいところだ。
ふと、天幕の中に立てかけてあった木剣をなんとなく握り、素振りをしてみる。剣が空気を切り裂く鋭い音が天幕内に響く。この先、魔物や悪漢に狙われた時のために身を守る術が要る。そのためにはこうやって剣の感覚を養っておかなければ。
そう思いながら、構えをゆっくりと、そして流れるように変えていく。頭の中で相対する相手を考えながら、小柄から大柄、果ては巨大まで。人間から魔物、動物と想像を切り替える。またそれに合わせ、時に受け流し、踏み込み、連撃の型をとっていく。
自然と、どう構えて動けば良いのか、体が解っているようで、不思議な感覚だ。その不思議な感覚を、体に染み込ませる様に鍛錬を続けていった。
こうしていると、記憶が無いという割には体が自然と動くし、会った人とも会話は出来ている。時には明らかに昔の自分が影響していると思われる言葉が、勝手に口から出ることもあった。
いずれわたしの事を知っている誰かに会えれば、この謎は解けるのだろうか……。
そんなことを考えると、天幕の外から誰かが近づく気配がし、すぐにマーガレットがいくつか荷物を抱えて戻ってくる。
「ルミナさん、お待たせしました」
「おかえりマーガレット」
マーガレットの視線がふと、わたしの手元にある木剣へと注がれる。
「あ~、素振りをされてたんですね。邪魔しちゃいました?」
「いや、大丈夫。少しでも感覚を取り戻そうと思って」
そう言いながらマーガレットが持ってきた毛皮や布を分担して持つ。中には綿の入った物もある。
「ん、これとか結構良いものじゃない?」
「一応ルミナさんは要人扱いですからねぇ。下手な物を提供したら物資係が大目玉を食らっちゃいますよ」
どうやら役得というやつらしい。……ふと考えたが、わたしは眠る必要があるのだろうか?
とりあえず持ってきた物を敷いて腰を下ろす。
「あといくつか食べられる物も持ってきましたよ。なんと上位騎士用の、豪華なふわふわ白パンです!………持ってきてる途中で気付いたんですけど、ルミナさんって食事、されるんです?」
「うーん、なんとなくだけど食べたい、気がする」
試しにパンを一つまみ、口に放り込んでみる。うーーん、なんとなく味?を感じるけど、いまいちしっくりこない。そう思いながら他の食べ物を見てみると、ふと食指が動くものを見つけた。
「これ食べてみたい」
「えぇ!?この干し肉ですか……?あまりお勧めしませんよ?味も塩っ辛いですし」
そう言われたものの、興味の赴くままに干し肉の欠片を口へと放り込む。先ほどのパンとは違う風味で、味の良し悪しはわからないがなんとなく口に合うようだ。
「うん、こっちのほうが良い」
「はぁ~…魔鼠の肉って癖があって好まない人の方が多いんですけどねぇ。魔力があるとかで、魔法を使う人は仕方なく食事に入れたりするらしいですけど」
どうやら今の肉は魔鼠らしい。割とそこらへんにいる、小型の魔物だったはずだ。
「あれがこんなお肉になるんだ」
「ん、魔鼠はわかるんですか?魔狼の時もそうでしたけど、剣だけでなく魔物の知識もありますよねぇ」
「そう言われれば、そうかも」
なるほど確かに、と思いながらパクパクと干し肉を食べていく。なぜか他の食べ物より美味しそうに見える。いや、美味しいかと言われるとよくわからないのだけれど。
「なんか体に染み渡るような感覚がある」
「染み渡る、ですか。……もしかして魔力を吸収してるんですかね?」
「言われてみればそうかも。なんて言ったって古代魔道人形って言うくらいだし」
「詳しい人がいれば細かい事がわかりそうなんですけどねぇ。とりあえず今度から、魔力の多いとされる食べ物を集めるようにしておきましょうか」
そう言われ「お願い」と返す。マーガレットも横で白パンを掴み、「ルミナさんが要らないなら貰っちゃっていいですよね!」と、言い訳をしつつそれを頬張り始める。
「う~ん、黒パンと比べると雲泥の差ですねぇ~。役得役得!」
小動物のように食べ物を頬張る姿を見ると、彼女は随分と健啖家なようだ。対照的にわたしはちまちまと干し肉を食べている。
ふと魔鼠の干し肉を見つめながら考える。
魔力がわたしの栄養になるなら、あの魔狼を置いて行ったのは惜しい事をしたのかもしれない。なんだったら魔力がある、と言っていたあの牙も食べようと思えば食べれるんだろうか。
…………どう考えても引かれそうなので、機会があったらこっそり試そう。




