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魔道人形の自分探し  作者: 白波 阿伎


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1/5

1.旅路の始まり

 目を開けると見知らぬ天井が目に入る。


 そこで私は寝台にいた。


 周りには誰かがいる気配もなくしんと静まり返っている。


「……」

 

 状況を把握しようとしたが、そもそも自分が誰かすら、モヤがかかった様で思い浮かばない。


 なんとなく誰かといたような、何かがあったような気はするのだが、それが形になる気配はない。


 周りを探るべく起き上がり、家の中を歩き回る。パッと見た感じは特徴のない、木造の家のようだ。

 どうやら一通り生活できるだけの家具はあるが……。強いて言えば埃が積もり、しばらく誰も使っていなかった事が伺える。振り返って見ると自分の足跡がくっきりと残っていた。


「わたしは……ずっと寝ていた?」


 それならばどうやって生きていたのか。いや、そもそも――――。

 ふと違和感を覚え、手を動かしつつ観察し、触れてみる。問題なく動いてはいるのだが、肌の質感にどうも引っかかる。陶器の様につるっとしており、表面は押せばわずかに凹むが柔らかいというほどでもない。なんならその先は金属の様に硬い。


 ――――人形みたい。

 

 抱いた感想はまさにそれだった。

 ただ違和感はあれど、不思議と嫌悪感はない。というか自分が何者かよくわからないのに、なぜ人形っぽいことに違和感を覚えるのか。やはり以前は人間だったのだろうか。なんだかわからない事だらけで、もやもやとした気持ちになってくる。



 

 気持ちを少しでも晴らそうと外へ出ると、木々が視界に広がる。

 

 どうやら森の中にぽっかりと空いた場所にこの家は建っていたようだ。また家の前には大きな水たまりのような池がひっそりと水をたたえていた。

 

 ふと池の縁に立ちのぞき込む。そこには流れるような銀髪と無機質な瞳でこちらを見つめる少女が映っていた。黒と白を基調とした色合いで、どこかのお嬢様かと見紛う様な服。また胸元にはペンダントがあり、その水色の宝石が静かに光を湛えていた。



 ――――思わず首を捻った。何故ならまったく見覚えがないからだ。いやそもそも記憶が無いじゃないか、ということでもない。先ほど自分の手を見て、覚えていない何かを元に違和感やら嫌悪感やらの判断ができた。ただ目の前の姿にはまったくピンとこないのだ。

 一体全体、自分が何者なのか、何故ここにいるのか、まったくもってわからないことを再認識することになってしまった。




 悶々と考え込んでいたその時――――。


「いい加減に諦めてくださ〜い!」


 近くで誰かの叫んでるような声が木霊し、わたしはハッと現実に戻される。どこか助けを求める様なその声に、気付けば声のする方へ走り出していた。






 ********************





 

「しっしっ!あっちへ行きなさい!」


 その日は団の任務でこの森の小型魔物の討伐……のはずだったのに、どういうことか目の前には大きい魔狼がいる。体高こそ私より低いが、立ち上がれば優に私の背を越えるだろう。

 円形盾を構えながらショートソードを振り回して威嚇するものの、唸ってくるばかりで諦める様子はなく、状況は悪いままだ。


「う〜、団長の嘘つき〜!これのどこが見習いでも出来る簡単な仕事なんですか!」


 こうやって騒いでいれば任務に参加している他の団員が来てくれるのではないかと思ったが、作戦範囲が広いためかその気配はない。諦めてくれればいいが、いざかかってこられれば人間と魔物では分が悪い。それが見習いである自分と、中型の魔物ではなおさらだ。


「そもそも貴方の居場所はもっと森の奥でしょ!なんでこんな森の浅いところに出てきているんですか!」

 

 口で悪態をついてはいるものの、これでも訓練は真面目にこなしてきたつもりだ。付け入る隙は無いか、打開できる術はないものかと観察しているものの、相手も折角のご飯を逃すまいと、距離を保ちつつこちらの様子を伺っている。なまじ強引にかかってくれた方がまだ対処のしようがあるが、それすら許してくれないようだ。




 睨み合いを続けて何分が経過しただろう。大した時間は経っていないと思うが、集中力がゴリゴリと削られていくのがわかる。一歩間違えれば容易に命を落とす状況だけに、ただただ焦る。


 


 

 その時だった。


 『ギャウ!?』

 

 突然、視界の横から女の子が横一文字で飛んできて、魔狼を蹴り飛ばしたのだ。女の子は割と小柄だったが、魔狼はすごい勢いで木々の間を転がっていく。思わず口をあんぐりさせながら女の子に視点を戻すと、その子は立ち上がり足早にこちらに向かってきていた。



 



 ********************

 




 

 「大丈夫?怪我は?」


 目の前の女性に声をかける。恰好と雰囲気からして従士だろうか。若いようだが、わたしよりは頭1つ分背が高い。肩よりは長い茶色の髪を、動きやすい様に後ろで結っている。


 「は、はい、怪我はありません」

 「状況を教えて」


 この女性が単独でいること、魔狼に相対するには不十分な装備であること、何よりいまわたしの近くで何が起きているのか知りたかった。


 「は、はいっ!いまは団の任務中で、広範囲に散開し小型の魔物討伐中です。ですが不意に魔狼と遭遇してしまい苦慮していたところです!」

 「なるほど……」

 

 わたしの圧が強すぎたのか、ガチガチになって敬語を使い始めてしまった。いや、もとの性格だろうか?

 というかこういったやり取りが、なんとなくしっくり来る。もしかしたら昔のわたしは、この様なことをしていたのだろうか。



 

 彼女と会話していると、先ほど蹴り飛ばした魔狼が唸りながらにじり寄ってきていた。まぁ弱そうな女子二人だ、諦めるはずもない。いろいろと考えたい所だが、まずはこの状況をどうにかしないといけないようだ。


 「……剣を」

 「え、は?」

 「剣を。従士の貴方ではこの状況を打破できない。違う?」

 「……その通りですが、あなたの様なご令嬢に重荷を負わせるわけには」


 そう言うと彼女が前に出てわたしを庇おうとする。なるほど、至極まっとうな答えだ。わたしの服装を見れば大体がそう答えるだろう。ただこの状況下でも流されずに騎士として(見習いだが)の責務をこなそうとする姿に感心する。


 「大丈夫、わたしを信じて。さっき蹴り飛ばしたのは見てた、でしょ?」

 「それは……そうですが」

 「あの程度なら大丈夫、確信に近い。大丈夫」


 彼女に対してか、はたまた謎の自信を見せる自分に対してか、説き伏せるように大丈夫と繰り返す。

 不思議と本当にやれる気がするのだ。というか、ああいう手合いは戦ったことがあると、そして絶対に負けないであろうという気持ちしかない。先ほどの蹴り飛ばした際に出せた力と速さがあるならなおのことだ。




 「……わかりました。絶対に無理はしないでください」

 「ありがとう。少し下がっていて」


 剣を受け取りながら巻き込まれないよう距離を空けることを促す。受け取った剣はよく手入れされているものの、逸品というわけではなく鋳造ものだろう。恐らくは魔狼を切り裂けるほどではない。そう判断したわたしは数歩前に歩き出し、剣を両手で持ち右下段後ろへと構える。




 「さぁどうぞ。見ての通り、がら空き」


 くい、と顎でしゃくり、あえて首を前面に出す構えを取り、魔狼を煽る。

 その挑発に乗ったのかわからないが、唸っていた魔狼が飛び掛かってくる!

 

 迷いのない魔物らしい動きではあったが、集中しているためかとてもゆっくり見える。狙い通りわたしの首へ、そして剣のない左側からだ。


 引きつけに引きつけたその瞬間、左半身を引き、その力を生かしながら剣を最速で振り上げ、魔狼の顎をかち上げる。

 

 鈍い音を立てながら綺麗に顎へと入った一撃で、このまま魔狼はゆっくりと縦になりそのまま後ろへ倒れるだろう。だがその好機を見逃さない。確実に止めを刺すべく、強引に体を回転させ、そのまま渾身の突きを心臓めがけて放つ!



 



 絶命した魔狼をよそに、振り返って声をかける。


「まぁ、こんなものかな。思ったよりずっと上手く動けた」

「……すご」


 そこにはまた口をあんぐりさせた従士が立ち尽くしていた。



 

「とりあえず落ち着いたから、色々聞きたい」

「あ、はい!っと、まだ名乗っていませんでしたね。私はシルヴァニア王国緑風騎士団所属、従士のマーガレット・フォスターです!……お名前をお伺いしても?」


 改めて見ると、騎士団所属にしては優しい顔つきで、少し垂れた目が余計にそういう印象を抱かせる。


「名前……わからない。何も覚えてない」


「えっ!?大変じゃないですか!……あれ、でもさっきすごい動きしてましたよね?というかパっと見て私のことを従士って見抜いてたから、てっきり騎士団に関係する方なのかと思ったのですが」

「よくわからないけど、なんとなく動きを覚えてた。というかさっき目が覚めたばっかり」

「えぇ~、そんなことってあるんですか……?どうしましょう……」


 マーガレットは顎に手を当てて、しかめ面でうーんと唸りだした。


「あ、あと」


 考え込んでしまった彼女を見て大事なことを伝えてなかった。


「わたし、人間じゃないかも」

「……えぇ~!?ど、どういうことですか!?」

「具体的には体が硬い、あと多分だけど重い。持ってみて」


 わたしは両腕を広げ、「ん」と催促する。ちなみに硬いのは自分の手を触った感触、重いと思ったのは蹴った魔狼が吹っ飛んでったからだ。

 そんなわたしに対し、マーガレットが恐る恐るわたしの脇に手を添え、持ち上げようとすると……。


「ぐっ、お、おもっ!それにひんやりしてる!なんかやわ硬い!」


 よほど重たかったのか歯を食いしばった顔をしたり、感触に不思議な感想を述べ驚いた顔をしていた。この子、表情がころころ変わって面白い。


「ほらね。自分がなんなのか、それすらわからない」

「うーん。人型で動くものって、直ぐに思いつくのは魔道人形(ゴーレム)くらいですけど……。こんなに人間っぽく見えるゴーレムなんて見たことないですよ」

魔道人形(ゴーレム)……」

「というか話が出来る時点で、魔道人形(ゴーレム)っぽさがまったくないです。そもそも会話できるなんて聞いたこともありません」


 また「うーん」と唸るマーガレットをよそに、なんとなくしっくり来ている自分がいた。ただ、しっくり来る理由まではわからないのだが。


 「服装からすると良い所のお嬢さんって感じですよねぇ。うーん、それに何かあったりしないです?」


 彼女に指をさされ、ふとペンダントに目が向かう。


「空みたいに綺麗な色……宝石に詳しいわけじゃないですけど、少なくとも私は見たことがないですねぇ……。」


 マーガレットがうっとりとしながら宝石を見つめる。確かに目を引くような水色をしており、吸い込まれそうな、とはこういうことだろうか。

 その宝石をつまみくるりと裏返すと、何やら文字が彫ってあるのが見える。


「なんか彫ってある」

「おぉ~、まさか読みが当たるとは!え~と……『ルミナへ、善き旅路を』……ですって」

「っていうことは?」

「貴方のお名前はルミナさん、ということで良いのではないでしょうか?」

「ルミナ……うん、良い名前」

「ふふっ、私もそう思います」


 胸の奥が暖かくなるような、そんなメッセージが添えてあった。その事実だけで、自分は望まれていた存在なのかもしれないと、嬉しい気持ちがこみあげてくる。


「それにしても、”善き旅路”ですか。旅っていうと文字通りの意味もありますが……。今の状況を見るに再出発する、みたいな意味ですかね?。」

「それはやっぱり、前は別の”何か”だった、ってことかな」

「ん~、こればっかりは彫った人に聞くしかないんじゃないでしょうか……。もちろん、ルミナさんが何かを思い出す、って可能性もありますけど」


 そうは言われたものの、記憶らしい記憶が甦る気配はない。目が覚めてから、なんとなくそうだった気がする、というあたりで精いっぱいだ。


「あとはルミナさんの体の秘密ですよねぇ。正体はさっぱりですけど、なんかすごい存在な気がしますよ!」

「やっぱり普通じゃない?」

「というかそんな見た目が良くて強いんだったら、ちょっと憧れちゃいますよ……こんな事言ってるのを聞かれたら、お父さんお母さんに怒られそうですけど」


 てへっと言っている彼女を尻目に――――わたしはある決意をする。




「マーガレット。わたしはこれを彫ってくれた人を探したい。その人にわたしは誰なのか、聞いてみたい。なんでこんな体なのか。なんの為に”今のわたし”として目が覚めたのか、知りたい」

「ルミナさん…………」


 へにょり、と眉を下げた彼女だったが、少し逡巡したのち意を決した様な顔をする。



 

「わかりました!私も全力でお手伝いさせていただきますよ!何より、命の恩人を放っておくわけにはいきません!」

「マーガレット…………うん、ありがとう」





 こうして、わたしの自分探しの旅が始まるのだった――――――。

この作品の旅路が善きものになるよう、これからゆるゆると書いていきますのでよろしくお願いいたします。


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