第7話『新たな目的地』
エルフの里を発った後、蒼真たちはグラントの研究所へ戻り、早速アルシェのマナを使った実験に取りかかった。
グラントが組み上げた魔力溶炉――魔法と科学を融合させた動力炉に、アルシェが力を注ぐ。
「大気のマナを……流すわよ」
蒼真は息を飲んだ。彼女の周囲の空気が震え、森で見た以上の輝きが収束していく。空間そのものが色付き、力の奔流が周囲を包む。
やがて、魔力溶炉が青白く光り始め――
ドンッ!
轟音とともに爆発。壁が吹き飛び、装置は黒焦げに。
蒼真たちは咳き込みながら瓦礫から這い出た。
「こ、これは……」
グラントが呆然と破片を見つめる。
「やはり……アルシェが扱うマナは膨大すぎる。既存の溶炉では到底耐えられん」
アルシェは唇を噛み、視線を落とした。
「……私のせいね」
蒼真は慌てて首を振る。
「違う! アルシェの力があるからこそ、希望が見えたんだ。君の力無しではそもそも宇宙船は動かない!」
グラントはゆっくりと頷いた。
「次に必要なのは、“器”じゃ。あの力を受け止められるだけの鋼鉄と技術……それを持つのは、鍛冶と工芸の民――ドワーフしかいない」
「ドワーフ……」
アルシェが静かに呟いた。
「どうかした?」
「いえ、何でもない。あなたの目的には強固な器が必要なのよね。問題ないわ」
少しの間を空け、蒼真は拳を握る。
「じゃあ、次の目的地はドワーフの里だね!」
蒼真の言葉に二人も頷く。
爆発で吹き飛んだ屋根の隙間から、夜空が見えた。
星々が瞬き、まるで次なる冒険の道を示しているようだった。
⸻
アルシェに導かれ、蒼真たちは深い森を抜け、険しい山道へと差しかかっていた。
森とは違い、山道には小川が流れ、時折色鮮やかな高山植物が咲いている。吹き抜ける風はひんやりと心地よいが、地球育ちの蒼真には厳しい道中であった。
「……ふぅ、こうして歩くだけでも修行になるな」
額の汗を拭う蒼真。
「あなた、息が上がりすぎよ」
アルシェは軽やかに岩場を跳ねるように進む。その姿は人間離れしていて、同じ道を歩いているとは思えなかった。
「仕方ないだろ、人間なんだから……」
「わしも人間だぞ?」
グラントは涼しい顔で杖を突き、重い荷物まで背負っている。それでいて疲れの色ひとつ見せない。
「俺の生まれ育った星の人間は運動不足の奴が大半だったんだよ」
「まったく、先が思いやられるわね」
一向は休憩を取ることになり、アルシェが近くの薬草を摘み始めた。
「これは滋養強壮に効く。これは火傷に。……あなたたち、森や山の歩き方を知らなすぎるわ」
「はは、確かに都会っ子だからな」蒼真が笑うと、アルシェは一瞬だけ頬を緩め、すぐにそっぽを向いた。
火を起こし、蒼真が手際よく料理を始める。
「ほう、なかなか手慣れておるな」
「いや、キャンプ料理くらいは慣れてるんだよ。好きだったからさ」
刻んだ薬草をスープに入れると、香りが立ちのぼり、疲れた体にじんわり染み渡るようだった。
「……悪くない味ね」
アルシェは小さく呟き、少しだけおかわりをした。
⸻
食後、グラントが取り出したのは新作の魔導具。
「魔力を圧縮して光に変換する装置だ。夜道を照らすのに便利だぞ」
「おお、懐中電灯みたいなもんか!」蒼真が身を乗り出す。
「試してみよう」
グラントが起動させた瞬間――。
――ボンッ!
「うわっ!? 眩しっ!」
装置は爆発し、蒼真の顔が煤で真っ黒になる。
「ふふっ……」アルシェが口元を押さえて笑いを堪えきれない。
「おや、失敗か。だが理論は正しい。改良すれば実用化できる」
グラントは涼しい顔で記録をつけていた。
そんな小さな騒動が、緊張感の続いた旅に彩りを加えていく。
三人の笑い声は、山々にこだまして消えていった。




