第35話『星座』
蒼真とセラフィナが進んだ先、洞窟は開けた大空洞に繋がっていた。
天井一面には氷晶が張り付き、その奥で青白い光が瞬いている。
それは夜空の星空を映すかのように、無数の輝点を散りばめていた。
「……まるで星空ですね」
セラフィナが思わず呟く。
やがて、氷壁に刻まれた古い碑文が目に入った。
そこには、欠けた円と点を繋ぐ線の模様――星図のようなものが描かれていた。
しかしいくつかの星が欠落しており、光の位置と合致していない。
「これは……星座の配置だ」
蒼真は息を呑む。
「でも、この世界から見た星図じゃない。……俺のいた世界から見える、冬の夜空の形だ」
セラフィナが目を瞬かせる。
「蒼真さんの……世界の星……? そんなことがありえるんですか?」
蒼真は答えられなかった。
胸の奥に、不気味なざわめきが広がっていた。
(偶然? いや……星の配置なんて、そう簡単に一致するものじゃない。じゃあ、誰かが“地球から見える星座”を知っていて、ここに刻んだ……?)
石壁の碑文を指でなぞる。
その筆致は明らかに人工的で、遥か昔に彫られたものだった。
「……まるで、“俺と同じ世界を見ていた誰か”が、この仕掛けを残したみたいだ」
セラフィナは小さく身震いした。
「そんな存在が……本当に?」
蒼真は氷晶に反射する光の位置を読み取り、指でなぞりながら星を結んでいく。
「オリオン……北斗七星……カシオペア……。なるほど、そういうことか」
彼が最後の星を繋いだ瞬間、氷壁が低く振動し、光の線が奔った。
「すごい……」セラフィナは思わず手を胸に当て、蒼真を見つめた。
「あなたは、本当に“異界の勇者”なんですね」
「ただ、星が好きなだけさ」
(もし本当に……この世界に“地球を知る誰か”がいるのなら……。それは、俺が来た意味とも関係しているはずだ)
蒼真の胸中の不安を知らない彼女は小さく微笑んだ。
「やっぱり、あなたはこの星座のように、この世界を導く存在なのかも知れませんね」
星座を模した氷壁の紋様が強く輝き、やがて静かに光を収めた。
試練は終わり、出口へと続く通路が開けていく。
だが蒼真は、その場を離れられずにいた。
光の余韻が残る壁面に、ふと見覚えのある形を見つけてしまったからだ。
――アルファベットの『S』に似た線が横並びに四つ輝き、すぐに消えた。
それは、偶然そう見えただけなのか、それとも……。
「蒼真?」
セラフィナが心配そうに覗き込む。
「いや……なんでもない。ただ……」
蒼真は言葉を濁す。だが心の奥で、はっきりと疑問が渦を巻いていた。
――どうして、この星に“地球側から見た星座”の情報がある?
誰が、何のために、ここに刻んだ?
セラフィナは氷の壁に指先を触れ、かすかに震える声で言った。
「……まるで、誰かが“星の記憶”を、この世界に残したみたい」
その時だった。
奥の闇から、ひとすじの冷たい風が流れてきた。
耳の奥をかすめるその風は、声にも似て――けれど意味を成さない。
ただ「嘆き」や「叫び」が、時の果てに残響したかのようだった。
蒼真は背筋を凍らせながら、それでも歩き出した。
この先に待つ答えを、まだ知る由もなく――。




