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『異世界造船』〜勇者なんてやらない。宇宙船作って彼女の待つ地球へ帰ります〜  作者: 新月 望


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第30話『もう一人の勇者』

 氷の冠と呼ばれる最北の山脈。その吹雪のただ中に、巨大な影が翼を広げていた。

 白銀の鱗に覆われたその龍――氷冠の白龍が、吹雪と共に咆哮を轟かせる。

 その吐息は世界を凍りつかせ、牙は大地を裂いた。


「来るぞッ!」

 ロイの声に、仲間たちが散開する。


 先陣に立ったのは、屈強な盾を構える戦士 ガレス。

 彼は竜の凍てつくブレスに真正面から立ち向かった。

「俺が抑える! 今だ、ロイ!」


 轟音と共に氷結の奔流が押し寄せ、ガレスの全身を飲み込む。

 盾が悲鳴を上げ、凍り付く腕が鈍い音を立てて砕けた。

 次の瞬間、彼の身体は白く輝く氷像と化し――粉々に砕け散った。


「……ガレス……ッ!」

 セラフィナの悲鳴が吹雪に溶けていく。

 だがロイは叫んだ。

「彼は道を開いた! 無駄にはしない!」


 その隙を逃さず、ディランが鋭い剣閃を走らせる。

「はぁああッ!」

 刃が鱗を裂き、血飛沫が吹雪の中に散った。

「これで……報いは受けさせる!」

 彼の声は怒りに震えていたが、その瞳には冷徹な決意が宿っていた。


「いい顔してるじゃない」

 ミラが嘲笑を浮かべる。

 杖に炎を収束させ、龍の翼へ向けて解き放つ。

「もっと苦しみなさいよ! その絶望の顔が見たいの!」

 轟く炎が氷の羽根を焼き裂き、龍の咆哮が響き渡った。


 だが次の瞬間、白龍の尾が唸りを上げ、後方にいた弓使い ライラを直撃した。

「ぐっ……ああああッ!」

 吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられたライラの身体は血に染まる。

 それでも彼女は最後の力で弓を引き絞った。

「これで……少しは……あなたの力に……!」

 矢が竜の片目を穿ち、光を失わせる。


 そして彼女は静かに崩れ落ちた。


「ライラぁぁああッ!」

 セラフィナが駆け寄り、必死に癒しの光を注ぐ。

「お願い、まだ助かるはず、目を開けて……!」

 震える声と涙。だが温もりはもう戻らない。

「どうして……どうして……!」


 ミラが冷ややかに言い放つ。

「いい囮になったわね」

 その残酷な一言が、セラフィナの胸を深く抉った。


 白龍は怒り狂い、空から氷塊を雨のように降らせる。

 ディランがロイを庇って剣を振るい、氷を砕きながら叫んだ。

「ロイ! 今しかない!」


 ロイは血に濡れた剣を握り締めた。

 胸の奥で、ガレスとライラの叫びがこだまする。

 ――犠牲を無駄にするな。勇者であれ。


「お前たちの犠牲は、必ず勝利に繋げるッ!」

 ロイの全身から光が迸る。

 彼の剣が白龍の心臓めがけて突き立ち、最後の一撃が深々と突き刺さった。


 咆哮と共に白龍が崩れ落ちる。

 吹雪が止み、静寂の中にただ勇者の息遣いが残った。


 残されたのは、勇者ロイと三人の仲間。

 ガレスとライラの亡骸は、氷雪の大地に物言わず倒れ伏した。



 ーー白龍が崩れ落ちたあと、氷冠の峰には深い静寂が訪れていた。

 吹雪は収まり、青白い月明かりが砕け散った氷の結晶を照らしている。

 その光景は神々しさすら纏っていたが、そこに横たわる二つの亡骸はあまりに無惨だった。


 ガレスは砕けた盾と共に凍りつき、破片となって散らばり、ライラは弓を握ったまま血に染まっている。

 その姿は、最後の最後まで、仲間のために戦い抜いた二人の様子を物語っていた。


 ロイは剣を突き立て、荒い息をはきながら二人を見下ろす。

「……すまない。俺が……もっと早く仕留めていれば……」

 拳を握り締め、唇を噛み切る。血が雪に落ち、赤く滲んだ。


「ロイ、泣いているの?」

 ミラが白い吐息を吐きながら冷笑を浮かべる。

 その瞳には一片の哀惜もない。ただ愉悦に近い光が宿っていた。

「彼らのおかげで勝てたんでしょう? なら十分よ。犠牲は利用するもの――それが戦いでしょ」


「……っ」

 セラフィナがミラを睨む。

「どうして……どうしてそんなことが言えるの……! 彼らは仲間だったのに!」

 涙をこぼしながら、彼女はライラの冷たい手を必死に握り続ける。

「私は……癒せなかった。目の前で、仲間を……」


「セラ、やめろ」

 ディランの低い声が吹雪のように冷たく響く。

 彼は血に濡れた剣を静かに拭い、死者に背を向けた。

「死んだ者は戻らない。悲しみに縋るのは弱者のすることだ。……俺たちは進まなきゃならない」


「でも……!」

 セラフィナの嗚咽は止まらなかった。


 そんな三人のやり取りを聞きながら、ロイは深く目を閉じた。

 心の奥で、ガレスとライラの笑顔が浮かんでは消える。

 ――仲間を導くのは勇者。

 その言葉の重みが、氷の大地よりも冷たく胸にのしかかる。


「……俺は、彼らの犠牲を決して無駄にはしない」

 ロイの声は震えていたが、その瞳は鋭い光を宿していた。

「俺たちの手で、世界を救うんだ。……それが勇者の使命だ」


 彼は倒れ伏す白龍の胸から、淡く輝く結晶を引き抜いた。

 始源晶――氷の大地の心臓とも呼ばれる、純白の水晶核。

 それはまるで、命の代償を吸い上げるかのように、冷たい輝きを放っていた。


 その光に照らされながら、仲間たちの表情はそれぞれに違った。

 ディランは無言の決意を宿し、剣を携える。

 セラフィナは涙を拭えず、なおも死者に祈りを捧げる。

 ミラは狂気じみた微笑みを深め、白い結晶に恍惚の視線を注ぐ。


 そしてロイは、その全てを背負うように結晶を握り締めた。

「俺は……必ずやり遂げる」


 ――氷雪の大地の上、犠牲と狂気と決意が交錯する中で、勇者ロイは始源晶を手にした。

 その瞬間から、彼らの行く道は二度と後戻りできぬものとなっていた。

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