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『異世界造船』〜勇者なんてやらない。宇宙船作って彼女の待つ地球へ帰ります〜  作者: 新月 望


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第3話『運命の出会い』

 森の小道は不気味な程に静まり返っていた。

 しかし周囲の静けさとは裏腹に蒼真の心中は穏やかではなかった。

「……本当に、俺たちだけでエルフを見つけられるのかな」

 歩きはじめて数時間、エルフどころか生物の気配すら無い。

「心配するな坊主。わしの天才頭脳と、おぬしの根性があればどうにでもなる!」

 グラントは豪快に笑い、蒼真は苦笑した。


 その時だった。


 茂みが揺れ、低いうなり声が響いた。

「……グルルル」

 現れたのは、赤い眼を光らせた巨大な狼。牙は刃物のように鋭く、口からは涎が滴っている。


「なっ……!」

 蒼真の背筋が凍る。


「魔力が暴走しておる。あれは魔物じゃな」

 グラントは杖を構えたが、狼はそれより先に飛びかかってきた。


 蒼真は反射的に両手を突き出す。

「燃えろっ!」

 ぱちん、と小さな火花が走る。しかしそんな火力では狼を怯ませる程度の効果しかない。


「くそっ、これじゃ効かない!」

 後ずさりながら、蒼真は周囲を必死に見渡した。


 目に入ったのは、地面に散らばる木の実。

 ――そうだ、この木の実は油分が多いんだ。研究室で燃やしてみたら大変な目にあった事がある。


「グラント! 時間稼いで!」

「おお? 何か思いついたか!」

 グラントは魔法が間に合わない事を瞬時に判断し、手に持った杖を棍棒のように振り回しながら巨大な狼を威嚇した。


 僅かに生まれた隙に蒼真は木の実と枯れ草を掴み、足元に積む。

「燃えろ……燃えろ!」

 震える声で呟き、火花を焚き付けた。


 枯れ草に火花が移り、油分を多く含む木の実が燃え上がり、炎が立ち上る。


 狼は目を細め、咆哮を上げて僅かに後退した。

「よし、いいぞ坊主! ――風よ、炎を育て荒れ狂え!」

 グラントが杖を振り下ろす。

 突風が炎を巻き上げ、赤々とした火の渦となって狼に襲いかかった。


「グルァアアアア!」


 悲鳴を上げる魔物。

 たちまち毛皮が燃え、黒煙と共に倒れ込んだ。


 しかし炎はなおも燃え広がり、周囲の草木を燃やしていく。

「やば……!」

「慌てるな。水よ、大地へ降り注げ!」


 グラントの声に応じて、天から冷たい水がどっと降り注ぎ、火の勢いは一瞬で鎮まった。

 蒼真は呆然とその光景を見つめたまま、震える声を漏らす。


「すげぇ……これが、本物の魔法……」


 グラントは大笑いした。

「いやいや坊主、すごいのはおぬしの火種よ! あれがなければこの大魔法も決まらんかった!」


 蒼真は胸の奥に熱いものを感じた。

 自分の力はまだ小さい。でも無駄じゃない。

「……俺、やれるかもしれない」

そう呟いたその瞳には、確かな希望の光が宿っていた。


 ⸻


 蒼真とグラントは、数日かけて深い森へと分け入っていた。

 目的はただひとつ。

 宇宙船の実験に必要な「マナの扱い手」――エルフの協力者を見つけるためだ。


「……本当に、いるのか?」

 蒼真が呟く。


「いるとも。だが、そう簡単に見つけられる相手じゃない」

 グラントは鼻を鳴らした。

「奴らは人間を信じちゃいない。むしろ、見つかったら攻撃されると覚悟しておけ」


 蒼真は唾を飲み込んだ。

 グラントから聞いた情報によれば、かつてエルフは人間といざこざがあったらしい。

 その結果、エルフは人里に姿を見せる事はなくなり、今や彼らは伝説めいた存在になっている。


 だがそれでも、蒼真は諦められなかった。

 マナという途方もないエネルギーを扱えるのは、エルフしかいないのだから。


 ーーその夜。

 焚き火の明かりの外から、かすかな視線を感じた。


「……誰かいる」


 蒼真が身を起こした瞬間、闇の中から矢が放たれた。

 ギリギリで横に跳び、矢が焚き火の傍に突き刺さる。


「動くな!」


 鋭い声が響いた。

 そこに立っていたのは、長い銀髪を揺らす少女だった。

 真っ白な肌に尖った耳、その容貌はまさしく――エルフ。


 弓を構える彼女の瞳は、冷たい憎悪で蒼真を射抜いていた。


「人間が……この森に何の用だ」


 グラントが小声で囁く。

「蒼真、余計なことを言うな。エルフは疑い深い」


 だが、矢の先が自分に向けられている今、蒼真の頭に浮かんだのは、

 地球に残してきた彼女の笑顔だった。


(地球に帰るためには、この出会いを無駄にできない)


 蒼真はゆっくりと両手を挙げ、震える声で言った。


「俺は……敵じゃない。俺は――地球に帰りたいんだ」


 少女の眉がわずかに動いた。

「……チキュウ?」


 グラントが舌打ちした。

「おい蒼真、余計なことを――」


 しかしその瞬間、森の奥から低いうなり声が響いた。

 魔物だ。

 闇を割って現れたのは、先程と同じ姿の巨大な狼。赤い目を光らせ、牙を剥いてこちらに飛びかかってくる。


「くっ……!」


 蒼真は反射的に手を突き出した。先程採取しておいた木の実と枯れ葉を宙に投げ、そこに火花を散らす。不安定な火花が膨れ上がり狼の毛皮をかすめる程度の火力で炸裂する。


 だが、次の瞬間。

 背後から冷たい風が吹き抜け、火は一気に膨れ上がった。


「――燃えろ!」


グラントの風魔法が炎を増幅させ、狼を包み込む。

 狼は悲鳴を上げ、炎にのたうち回った。


「駄目だ、このままじゃ森に燃え移る!」


 蒼真が叫ぶと同時に、グラントがもう一度詠唱する。

 轟音と共に水流が生まれ、火を呑み込んだ。


 蒼真は肩で息をしながら、矢を(つが)えたまま立つ少女を見やった。


 エルフの少女は――ほんのわずかに表情を揺らし、彼らを見ていた。

 人間が自ら森を守るように戦った、その姿を。


「……名前を、教えろ」


 冷たくも確かに興味を帯びた声が、焚き火の向こうから響いた。

 それが、蒼真とエルフの少女との出会いだった。

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