第29話『残された希望』
夜明けが近づく頃、街はようやく静けさを取り戻していた。
広場には崩れ落ちた瓦礫と、黒い灰となって消えた魔物の残骸が残っている。
蒼真は膝をつき、目の前の巨体を見つめていた。
――晶鋼巨人。
仲間を守るために盾となり、核を砕かれ、今は沈黙している。
砕けた結晶の隙間からは、まだかすかに光が瞬いていた。
「……まだ、消えちゃいない」
蒼真がかすれた声で呟く。
グラントが膝を折り、核のひびを見つめて首を振った。
「このままでは時間の問題じゃ……だが、完全に失われたわけではない。何か復活の手立てが残されているやも知れん」
砕けた核から漏れるかすかな光を見つめながら、リュミエールが静かに口を開く。
「……光が微かに残っています。もしかしたら……」
震える指先で魔導書を開き、古びた羊皮紙をなぞる。
「北の果て、“氷の冠”に眠る《始原晶》。
大陸最古の結晶で、あらゆる魔力の源を宿すと言われています。その正体は謎に包まれており、一説には白龍の心臓とも言われていますが……その結晶を核と融合させれば、砕けた魂を繋ぎ止めることができるかもしれません」
蒼真が顔を上げる。「……復活できるのか?」
リュミエールは慎重に言葉を選びながら頷いた。
「確証はありません。けれど、他に手段は……」
アルシェが腕を組み、険しい表情で吐き捨てる。
「北の果てなんて、魔物どころか自然そのものが敵になる。氷嵐に凍海、吹雪の迷宮……死地に等しい。それでも私は、行きたい。例えそれがほんの少しの可能性だったとしても」
蒼真はすぐに応えた。
「行くさ。当然だろ! あいつは俺たちの仲間だ。……ここで諦めたら、きっと後悔する」
短い沈黙の後、アルシェはふっと笑う。
「ありがとう。あなたについてきて、本当に良かった」
バルドランが豪快に笑い、杯を掲げる仕草をした。
「氷山だろうが火口だろうが構わねぇ! 酒と鉄槌があれば、俺はどこまでも行くぜ!」
グラントも白髭を撫でて頷いた。
「ほほう……始原晶か。失われた結晶が実在するなら、この老骨も興味津々じゃ」
――こうして、彼らは新たな目的地を定めた。
最北の地、氷の冠。
凍てつく大地の向こうで、蒼真たちを待つのは過酷な試練と、もう一人の“勇者”の存在だった。




