表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界造船』〜勇者なんてやらない。宇宙船作って彼女の待つ地球へ帰ります〜  作者: 新月 望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/53

第28話『知と力、絶望と光』

「まずは異界の男、貴様の力を見せてみろ」


 仮面の男はそう言って腰の鞘から細身の剣を抜く。その刀身は魔力を纏い、禍々しい紫炎に包まれていた。


 蒼真は真正面に剣を構えた。

 相手の気配は人間に酷似しているのに、その太刀筋は常軌を逸していた。


 刀身同士がぶつかり合う。

 

 武器の性能は蒼真に分があるはずだが、圧倒的な技量の差で押される。蒼真の剣筋を読むように、わずかに軌道を外され、いとも簡単に反撃を差し込まれる。


「くっ……!」

 蒼真の肩を斜めに裂く一閃。反撃すら許されない精密さだった。


「剣を学ぶ魔族は少なくない。しかし私は、人間という種そのものを研究してきた。お前らの太刀筋など、手に取るように分かる」

 魔族は冷たく囁き、再び剣を振る。


 援護に回ったアルシェが、間髪入れず矢を番える。

「これ以上、近づけさせない……!」

 弦が鳴り、鋭い矢が闇を裂いた。


 だが次の瞬間。

 魔族の掌から放たれた魔力の矢が、空中で正確にアルシェの矢を撃ち落とす。

 乾いた破裂音が連続し、彼女の放った矢が一つ残らず掻き消された。


「な……っ!」

 アルシェの瞳が大きく揺れる。


「射線の角度、放つ腕の力……矢の軌道を計算すれば、無に帰すのは容易い」

 魔族の視線は、蟻を見下ろす者のそれだった。


 リュミエールは歯を食いしばり、魔導書を広げる。

「――いいえ! 解析すれば、必ず勝機は見えるはず!」

 幾何学模様が空を走り、敵を包み込む。


 だが、現れた解析結果は――

「……っ! 弱点属性が、無い……! 弱点部位すら、どこにも……!」

 ページに浮かぶのは“空白”の羅列。

 理解できない現実に、彼女の声が震えた。


「確かに、我々魔族の魔核には固有の特性があり、それぞれに耐性や弱点が存在する。しかし、よく考えてみろ、人間の小娘よ。我々魔族の寿命は悠久の時を刻む。その間に我々が何の鍛錬もしないはずがなかろう?」


 魔族は無造作に一歩踏み出し、リュミエールの背筋に氷のような恐怖を走らせた。


 圧倒的な存在感を放つ仮面の男に、クリスタルゴーレムが立ちはだかる。

 蒼白の結晶が雷鳴のように震え、凄まじい勢いで腕が振り下ろされる。


 だが――魔族は片手でそれを受け止めた。

 圧倒的な膂力で。


 轟音とともに石畳が割れ、衝撃波が吹き荒れる。

 ゴーレムが全力で押し込むも、魔族は一歩も退かず、むしろ結晶の腕をねじ伏せていく。


「……ありえない……ゴーレムの一撃を、押し返してる……!?」

 蒼真が戦慄する。


 次の瞬間、魔族の膝が跳ね上がり、ゴーレムの腹部を粉砕した。

 結晶が飛び散り、核に深い亀裂が走る。


 アルシェの悲鳴。

「ゴーレム……っ!」


 守るように立ち塞がり続けた巨体は、最後の力で蒼真たちを庇うと、光を失って崩れ落ちた。

 結晶片が瓦礫に散らばり、夜に冷たく煌めく。


「これが……伝説の守護者の力か」

 魔族の声には、哀れみと嘲りが入り混じっていた。


 ――勝てない。

 誰もがそう思ったその刹那。


「おいおい、てめぇら、勝手に終わらせてんじゃねえ!」

 豪快な声とともに、鉄槌が闇を裂いた。

 バルドランが地鳴りのような咆哮と共に突進し、魔族の剣を受け止める。


「まだ戦いは続いてんだろうが!」


 雷光が空を走る。

 グラントの杖から放たれた稲妻が、魔族の足を一瞬絡め取った。

「侮るなよ、魔族め……古き叡智はまだ燃えておるわ!」


 絶望の空気を、二人の登場が切り裂いた。


 そして――仲間の力を受けた蒼真の剣が、光に包まれていく。

 フィリアが白銀の刃を形作り、全ての心を繋ぐように輝いた。


 砕けた結晶片が雨のように降り注ぐ中、蒼真は倒れたクリスタルゴーレムを振り返った。

 胸に深く亀裂の入った核が、かすかに光を明滅させている。

 仲間を支え続けた巨人が二度と立ち上がれないと分かる光景が、胸を締めつけた。


「……頼む、ここで終わらせるわけにはいかない」

 蒼真の手の中で、フィリアから確かな脈動を感じる。

 仲間たちの心に応えるように。


 魔族は一歩踏み出す。

 血のように赤い瞳が、蒼真を射抜く。

「剣が震えているな。お前の心と同じだ」

 低く響く声に、全身の血が凍る。


「次はてめぇが震える番だ!」

 バルドランの鉄槌が男の真横を狙う。


 刹那、魔族が剣で受け止めるが、重い一撃に足元が僅かに沈む。

「ハッ、どうだ!」

 歯を食いしばりながらも、バルドランは笑って見せる。


 さらに、グラントが腰の袋を漁り、魔力の煙を撒き散らした。

「ちっとばかし実験に付き合ってもらうぞい。買ったばかりのとっておきじゃ!」


 地面に叩きつけられた試験管から、急激に紫煙が広がり、魔族の動きが一瞬止まる。

 空気そのものが粘りつくように重くなり、剣の振りも一拍遅れた。


「ぐ……これは、魔法ではなく……薬の類いか……!」

 魔族の目が初めてわずかに揺らぐ。


 そこへ、リュミエールの声が飛んだ。

「魔力を蒼真さん一人に集めます! アルシェさん、援護を!」


「了解っ!」

 アルシェが矢を次々と射る。

 魔族はそれを弾き返すが、矢の一本一本が時間を削ぎ落とす杭となった。


 リュミエールは魔導書を掲げ、輝く陣を重ね合わせる。

魔力共鳴陣マギア・コンコルダ……蒼真さんに力を!」


 光の環が広がり、蒼真と仲間たちを繋ぐ。

 その瞬間、フィリアが大きく脈動し、白銀の輝きを帯びていった。


「……来るか」

 魔族は一歩踏み出そうとする。


 だが、再びグラントが叫ぶ。

「忘れるな! まだワシの秘蔵が残っとるわい!」

 杖の先から放たれたのは、青い閃光。

 それは爆ぜて無数の鎖となり、魔族の四肢を縫い止めた。


「小賢しいッ……!」

 鎖を引きちぎろうとする魔族。

 しかし、その間にも仲間たちの声が重なっていく。


「蒼真、ここで決めて!」

「あなたになら出来ます!」

「ワシらの想いを託す!」

「後は任せたぞ、坊主!」


 その瞬間、蒼真の心に流れ込むものがあった。それは形ある物質ではない。

 失った仲間の想い、共に戦う仲間の叫び、託された未来。

 それらすべてがフィリアに注ぎ込まれ、剣が眩い光を放った。


 ――白銀の刀身が天を裂き、夜を払う。

 まるで神話に記された聖剣のように、光の刃は空を走り、仲間たちの心を映した。


「想いを繋ぎ、闇を照らせ、光輝共鳴剣アーク・レゾナンス!!!」

 蒼真の咆哮と共に、フィリアが煌めきを迸らせる。


 斬撃は刃ではなく奔流。その一振りは街の光景を一瞬で白く塗りつぶし、全てを染め上げた。


 光の奔流が魔族を貫き、魔核へと突き刺さる。

 灼けるような光が爆ぜ、黒い外套が裂け、仮面の奥の赤い瞳が苦悶に揺れた。


「……人間如きに……」


 核に深い裂け目が走り、闇が漏れ出す。


「くっ、魔核に損傷が……。退くしかあるまいか」

 魔族は怒気を孕んだ声でそう言って、背に漆黒の翼を生やし、空へと逃げる。


「逃すか!」


 蒼真がもう一度フィリアを振おうと構えるが、全身がふらつき、その場に倒れ伏した。


 戦場に残されたのは、煌めきを失ってなお温かな光を帯びる《共鳴剣フィリア》と――

 倒れ伏す仲間たちの姿。


 その夜、蒼真たちは初めて「人と同じ姿を持つ魔族」に挑み、勝ち切れぬまでも退けたのだった。勝利と呼ぶには、あまりに大きな代償を伴いながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ