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『異世界造船』〜勇者なんてやらない。宇宙船作って彼女の待つ地球へ帰ります〜  作者: 新月 望


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第22話『陰謀の影』

 その夜、アルミナの街路はいつもより暗かった。魔力灯の明かりがときおり空咳のように明滅し、港の結界塔は低く唸る。

 宿の食堂で夕食をとる蒼真たちのもとへ、青い外套の役人が息を切らせて飛び込んだ。


「ヘルハウンド討伐――まことに感謝する。君たちの働きは、供給局にも届いている。その上で新たな依頼をしたいのだ」

 彼は封蝋付きの書状を差し出す。

「第七供給坑で魔力鉱脈の流量が急落し、原因不明の振動も観測された。結界維持に関わる重大事だ。もし君たちが原因の特定と鎮圧に成功したなら――街より謝礼・金貨三百枚。加えて、供給局倉庫の武具・魔導素材を優先購入できる許可証を発行する」


 バルドランがにやりと口角を上げる。「三百か。酒場三十軒をはしごしても余るな」

 グラントは白髭を撫でてうなずいた。「街の灯が揺らぐのは、地脈が痩せておる兆候じゃ。時を置けば置くほど被害は膨らむ」

 リュミエールは震える手で魔導書を抱えながらもその瞳に決意の意思を宿して小さく頷いた。

 アルシェは弓の弦を指で弾き、ちらと蒼真を見る。「行くんでしょ」

 蒼真は短く息を吸い、拳を握った。「もちろん。街を守るのが先だ。……その上で、報酬は次の旅の支度に使わせてもらう」


 役人は深々と頭を下げた。「頼む。君たちなら――託せる」


 ⸻


 供給局の監督官に導かれ、彼らは城壁外れの昇降塔へ。

 鉄と魔法で組んだ籠がきしみながら降り、冷たく湿った空気が肌に絡みつく。薄青の魔法灯が点々と続く坑道は、どこか心臓の奥を叩くような不規則な振動を響かせていた。


 坑道長の老職人が出迎える。煤で黒くなった外套、符丁の刻まれた安全帯。

「三日前からだ。導晶脈の“芯”が抜け落ちたみてぇに白化しちまってる。自然に崩れたもんじゃねぇ、誰かに吸い上げられた跡だ。それに、壁の向こうで這う音がする」

 バルドランは岩肌に膝をつき、鉄槌の柄でそっと叩く。音色に耳を澄ませ、鼻をひくつかせた。

「……唾液に似た腐蝕痕。噛み痕は鋭く、歯列が規則的。地中の大喰らいが居座ってるな」

 監督官が青ざめる。「やはり魔物か……」


 第七供給坑の主幹から枝孔へ。

 天井には古い防崩ルーンが刻まれているが、煤けて歪み、魔法灯は心許なく瞬く。

 壁を走る導晶脈は丸く抉り取られたように空洞になり、粉砂糖のような白い屑が足元に積もっていた。

 グラントが杖で虚空を軽く叩き、耳を澄ます。「地脈の鼓動が乱れておる。周期が一定せんのは、大きな空洞化か、巨体の往来のせいじゃ」


 分岐の支柱に、煤けた黒い紙片が貼り付いているのをアルシェが見つけた。

「……これ、魔術の誘導符よ。魔物を“おびき寄せる”稚拙な術式」

 蒼真が目を凝らす。「誰かが鉱脈へ誘導している……?」


 リュミエールは魔導書を胸に抱き、そっと震える指で古代文字をなぞりはじめる。

「……見えるはず。残された痕跡、ここに……」

 勇気を振り絞り、詠唱する。


魔導探査網アナライズ・サーチ!」


 淡い青光の網が宙に広がり、坑道全体へと走る。

 ひび割れた岩の隙間、導晶脈の奥底、貼り付けられた符丁に至るまで――光の糸が絡みつき、隠されたものを浮かび上がらせる。

 リュミエールの瞳には数値と文字列が溢れ、彼女は息を呑んだ。


「……導晶の魔力密度が局所的にゼロ。それと、この誘導符には……魔族式の筆致。人間のものじゃありません」


 沈黙が落ちる。蒼真が低く呟いた。「やはり……ヘルハウンドの時と同じだ」


 アルシェはリュミエールを横目で見た。

 唇を噛みしめ、弓を強く握り込む。

(私が気付けなかった痕跡を……一瞬で……)

 胸の奥に小さな棘のような悔しさが刺さる。だが同時に、確かな成果を示した彼女の力を前に、ほんのわずかに――認めざるを得ない思いも芽生えていた。


「……ふん。便利な魔法ね」

 それだけ吐き捨てるように言い、アルシェは先を歩く。

 だがその声色は、以前のように完全な拒絶ではなかった。


 それからさらに奥へと進みリュミエールが再び魔導書をなぞった。


魔導探査網アナライズ・サーチ!」

 淡い青の光網が地面に広がり、まるで地下深くまで透視するかのように魔方陣の模様が流れていく。

 彼女の瞳に、微細な魔力の流れが映し出され、やがて口を開いた。


「……ここ。街の外れの岩盤層……地下の深層に巨大な魔力の反応があります」


 指差すその先――乾いた地面。アルシェが耳を澄ますと、そこからは、人の耳には届かぬ振動音が確かに伝わってきた。


「……地下の深層を這う気配か」

 グラントが顎に手を当て、眉をひそめる。


「この範囲で鉱石が失われてるなら、間違いねぇな」

 バルドランが拳を鳴らす。


 アルシェは腕を組み、少しだけ悔しそうにリュミエールを睨みながらも称賛した。

「……案外使えるじゃない」


 その声音には棘があったが、否定ではなかった。リュミエールは一瞬うつむいたが、小さく頷く。


 ――こうして、蒼真たちはまだ見ぬ魔物の討伐の覚悟を固める。

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