第19話『新米司書』
魔法都市アルミナの中心部にそびえる『大魔導図書館』
荘厳な大理石の柱が立ち並び、天井までそびえる本棚には、古代文明の遺産や魔王戦役の記録、失われた術式までもが眠っている。
蒼真はその一角、重厚な革装丁の書物を手に取っていた。表紙には銀糸で刻まれた文字――《星渡りの舟》。かつて空と海を越え、遥か天空を旅したとされる伝説の船について記された本だった。
「……やっぱり、似てるな。俺たちが目指してる宇宙船に」
蒼真はページを繰りながら、小さく呟いた。 そこには、星の力を糧とする巨大な船の絵が描かれている。記述は途切れ途切れで、技術的な部分は欠落しているが――彼らの目標と奇妙に重なる断片だった。
「――っ!? その本、あなた……それを読んでるんですか!」
甲高い声が響き、蒼真が振り返ると、分厚い眼鏡をかけた小柄な少女が立っていた。栗色の髪をリボンでまとめ、司書の制服に身を包んだ少女はこちらを食い入るように見つめている。
彼女の手には抱えきれないほどの本が積まれており、次の瞬間――
ガシャァン!
本を抱えたまま足をもつれさせ、派手に転んだのである。
「だ、大丈夫か!?」
「だっ、大丈夫ですぅぅ……うぅ、またやっちゃいました……」
必死に本を拾い集める彼女を手伝ううちに、蒼真は気づいた。落ちた本の背表紙には《魔族の進化論》《支配術式の構造》《竜種と元素魔力》など、どれも一筋縄ではいかない難解な題目が並んでいた。
「君……すごい本ばっかり持ってるな」
「は、はいっ! わたし、知りたいんです! 世界のこと、魔族のこと、ぜんぶっ!」
顔を真っ赤にしながら語るその瞳は、臆病そうに揺れているのに、知識欲だけは燃える炎のように鋭かった。
「わたし、リュミエールっていいます。司書見習いですけど、知識を集めるのだけは得意なんです!」
「蒼真だ。……ちょっと、特殊な船を作ろうとしていて、情報を探しているんだ」
「船……? ま、まさか、それって……!」
リュミエールは一歩近寄り、瞳を輝かせた。
「《星渡りの舟》と同じようなものを……? 本当に? 本当にそんな計画をしてるんですかっ!?」
蒼真は言葉を選びながら頷く。軽々しく話せることではないが、彼女の必死さに思わず圧せられてしまった。
「危険な旅になる。……けど、それでも行くしかないんだ」
「……危険……」
一瞬だけ彼女の瞳に影が落ちる。けれど次には、その光はさらに強く燃え上がった。
「知りたい……知りたいです! その船のこと!」
興奮のあまり声が大きくなり、周囲の来館者に「静かに!」と注意されて、リュミエールは慌てて口を押さえた。
「……ご、ごめんなさい……」
縮こまる彼女に、蒼真は苦笑するしかなかった。
――この少女、なんだか妙に放っておけない。
知識欲に突き動かされる危うさと、臆病さと、でも確かに内に秘める力を持っている。
そのとき、リュミエールは胸の前でぎゅっと拳を握った。
「わたし……もっと調べておきます! 必ず、役に立つ知識を探しますから!」
その決意を残し、彼女は再び山のような本を抱えて小走りで奥の閲覧席へ消えていった。
蒼真はしばらくその背中を見送り――手にした《星渡りの舟》のページへと視線を戻した。
「……変わった子だな。けど――もしかしたら、本当に力になってくれるかもしれない」




