第17話『海戦と上陸』
鉄鯨の船は、波を裂き、大海を駆け抜けていた。
甲板では、蒼真たちが海風を浴びながらただ果てのない水平線を眺めていた。
船の頑強さ故に、航海は順調に進み、ゆったりとした時間が続いている。
「海か……! 気持ちいいな!」
蒼真が潮風を浴びて胸を張ると、バルドランが豪快に笑った。
「おぉー! ちと塩っ辛ぇが、まぁ気に入った!」
一方、アルシェは早々に顔を青ざめさせて船べりに突っ伏していた。
「……揺れる……気持ち悪い……なんで私がこんなめに……」
「お、おい、大丈夫か!?」
蒼真がアルシェの顔を覗き込む。
「声を……かけるな……エルフの吐く姿を見たくなければな……」
そんな中、不意に海面に影が走った。
突如、船体を揺らす衝撃。
船が激しく揺れ、アルシェの顔面は蒼白だ。
エルフの尊厳が崩れるのも時間の問題かも知れない。
その激しい揺れの正体は、魔物の急激な接近によるものであった。
海より襲いかかってきた巨大生物の名は――深海魔獣!
触手一本が船のマストに匹敵する、深海に棲む伝説級の魔物だった。
「おっとォ! 酒の肴が自分から飛び出してきやがったか!」
バルドランの鉄槌が船体に迫った触手を叩き返す。
「せっかくの船出だというのに無粋じゃのう」
船の重要な箇所への攻撃はグラントの防御結界が全て防いでくれている。
蒼真は剣に炎を纏わせ、アルシェは揺れる甲板に立ちながら顔面蒼白で矢を放つ。
晶鋼巨人は無言で両腕を広げ、数本の触手をまとめて受け止め、引き裂いた。
しかし、引き裂かれた触手は瞬く間に再生を始める。
「これ倒せるのか!?」
蒼真の言葉にバルドランがすぐさま応える。
「とっておきを見せてやる!」
バルドランの豪快な叫び声が全体に安心感を与える。
バルドランが歯を食いしばり、船の端に設置されている巨大な非常用スイッチを上から下へと力強く引き下げた。
ーーその瞬間、船首から轟音が鳴り響いた。
舳先から勢い良く飛び出したのは巨大な鉄の槍だ。赤龍撃退時に活躍した撃龍槍のような鋭利な槍が船体の最前先に突き出ている。
「くらえ! 化物!」
言葉と同時にバルドランは炉の中へ鉱石やら魔石を焚べる。
すると船体が唸りを上げ、鋼の巨大船はまるで生き物のように突進した。
鉄鯨は波濤を突き抜け、海魔の胴体を貫いた。
轟音と共に水柱が上がり、巨大な触手が甲板から離れていく。
海の魔獣は悲鳴を上げ、深海へと沈んでいった。
「……助かった……」
アルシェは船酔いしながらの戦闘の疲れでへたり込むが、バルドランは既に引きちぎれた魔獣の足を一本丸々、甲板に引き上げていた。
「今夜は宴だ! クラーケンのゲソ焼きだぁ!」
「ふむ、深海に住む魔獣の味は興味があるのぅ」
「ーーやめて、お願いだから今だけは気持ち悪い話をしないで……」
一向の思いを乗せた船はこうして、魔法都市アルミナへ向かって進む。
⸻
深海の主との戦闘から数日後。
水平線の先に、白銀の尖塔がいくつもそびえる巨大都市が見えた。
「おぉ……」
蒼真が思わず息をのむ。
港から見上げれば、天空を突くような大魔導の塔。
空中を飛ぶ船や魔法生物。
街路には魔法陣が刻まれ、人もエルフも獣人も混ざり合い、魔法の光が絶えず流れている。
「ここが……魔法都市アルミナね。ようやく陸にあがれる……」
アルシェの瞳が、久々に輝いた。
蒼真はそんな彼女を横目で見ながら、自分の胸が妙に高鳴っていることに気づいた。
バルドランは腕を組み、ニヤリと笑う。
「さて、どっから飲むか決めねぇとな!」
「お主は酒の事ばかりじゃのう」
「あなただって、新しい実験器具や魔法薬を買いたくてうずうずしてる癖に」
アルシェはそう言って小さく笑う。
「嬢ちゃんこそ、よく笑うようになったのう。最初の頃はあんなにもツンツンしておったのになぁ?」
「ーーからかわないで……」
アルシェの耳が真っ赤に染まる。
「みんな、準備は良いかい? 久しぶりの陸だ。情報収集をしながらも、楽しむところは楽しもう!」
「何よ、すっかり船長ぶっちゃって。生意気よ」
言葉の強さとは裏腹にアルシェの声音に優しさを感じたのは、彼の勘違いなのだろうか。




