第15話『魔族の核』
赤龍の鱗を削り出し、晶鋼巨人の力を借りて巨大な外殻を組み上げていく。
鍛冶場は昼夜を問わず火が焚かれ、ドワーフたちが歌いながら鉄槌を振るっていた。
その光景は圧巻だった。焔に照らされる無数の影、響き渡る鉄の音。まるで大地そのものが歌っているかのようだ。
「……できたぞ!」
バルドランが額の汗を拭い、鎚を振り上げると、仲間のドワーフたちが歓声を上げた。
蒼真も思わず見上げる。そこには既に完成しつつある船体の姿があった。
まるで古代の城塞が空に浮かび上がったかのような迫力に一同が息を呑む。
だが――その場に漂う空気は、喜びだけではなかった。
組み上がった船体を見渡しながら、バルドランは腕を組み、難しい顔をしている。
「外殻も、内部も……ほぼ出来上がった。だが肝心の“心臓部”が足りねぇ」
「心臓部……?」蒼真が問い返す。
「ああ。推進器を動かすメインの動力源だ。俺たちの持つ魔石や炎では、この巨体を押し出す力には到底足りねぇ」
バルドランの声は低く、重い。
「アルシェのマナを注ぐ為の器はダンジョン内の鉱石で足りるんじゃなかったのか?」
蒼真はそう言って再び首を傾げた。
「龍鱗を外殻に使うことで宇宙を渡る圧倒的な強度を手に入れた代わりに、それを動かす莫大なエネルギーが更に必要になったってことだ」
バルドランの言葉に周囲のドワーフたちも顔を見合わせ、沈黙した。
そこで老賢者のグラントが杖をつきながら歩み出る。
「……予感はしておった。必要なのは、ただの魔石や希少鉱石でもない。この規模の物体を動かすとなれば、選択肢は一つ。ずばり、魔族の核じゃ」
空気が凍り付いた。
アルシェがわずかに息を呑み、蒼真に視線を向ける。
「魔族……まさか、本当にそこまで……」
グラントは静かに頷く。
「魔族とは魔物が進化の果てに辿り着いた存在じゃ。人のような意志を持ちながら、魔物の強靭さを失わぬ者ども。奴らの“核”には計り知れぬ魔力が眠っておる。それなくして、この船は空を渡れん」
蒼真はごくりと唾を飲む。
「……でも、それって……核を奪うってことは、つまり――」
「殺すということじゃな」
グラントの声音は淡々としていたが、その言葉はあまりに重かった。
場が沈み込む中、バルドランが拳を打ち付けるように叫ぶ。
「だがよ! やらなきゃ宇宙船は完成しねぇんだ! そもそも、魔族が一体どれだけの生き物を殺してきたと思う? やつらは様々な国から討伐指定もされている。構う事はねぇ。俺達ドワーフも、嬢ちゃん達エルフも、奴らには少なからず恨みがある」
蒼真は拳を握りしめた。
アルシェもまた、鋭い眼差しで前を見据える。
「……魔物とは違う。彼らは意志を持ち、理由を持って戦う。きっと、ただの敵じゃないはず。それでも……」
「行くしかない」
蒼真が言葉を継ぐ。
その声音には迷いが混じりながらも、不思議と強い決意があった。
「結局あなた、勇者の仕事をするわけね」
アルシェが不適な笑みを浮かべて言った。
「あぁ、宇宙船作りの為に、世界を救おう」
蒼真の言葉にアルシェは静かに微笑み、グラントは深く頷き、バルドランは豪快に笑った。
「まったく、うちの船長の言うことはデカいぜ!」
バルドランのその言葉に、その場にいたドワーフ全員が笑ったが、そこに嘲笑のニュアンスは含まれておらず、皆が一様に優しい笑顔を浮かべていた。
「この先もついて来てくれるのか?」
蒼真が一向へと問いかける。
「乗り掛かった船だから、途中で降りるのは気分が悪いだけよ」
アルシェの言葉にバルドランがいち早く反応した。
「ほぅ、エルフもたまには粋な事を言うじゃねーか!」
「まぁね」
言葉の素っ気なさとは裏腹にアルシェの横顔はどこか得意げであった。




