第13話『新たな仲間』
その夜、ドワーフの里は燃えるような熱気に包まれた。
赤龍の死骸を前に、焚き火が焚かれ、酒樽が次々と空けられる。
「飲めェ! 勝利の酒じゃあ!」
「赤龍なんぞ恐れるに足らず! この里こそ最強よ!」
「撃龍槍に乾杯じゃァッ!」
どこから持ち出したのか、ドワーフたちは巨大な樽を丸ごと転がし、火にかけた鍋には肉と香草が山盛り。
蒼真はドワーフの杯を手渡され、喉を焼くような酒を一気に流し込んだ。
「うぐっ……! か、から……!」
思わずむせる蒼真を見て、アルシェがクスクスと笑う。
「ふふ、情けない顔。けど……悪くないわ」
その横で、バルドランは大声で歌い、グラントは珍しく杯を掲げて笑っていた。
「わしもまだまだ捨てたもんじゃないのう!」
笑い声と歌声が夜を彩り、里は祭りのような騒ぎに包まれた。
誰もが疲れを忘れ、勝利の美酒に酔いしれた。
ーー夜明け。
まだ酔いを残したまま、ドワーフの鍛冶師たちが赤龍の死体を調べていた。
「こいつの鱗……硬ぇな」
「ただの竜鱗じゃねえぞ。鍛冶に使える。いや……もっとだ」
蒼真も眠い目をこすりながら、その場に立ち会った。
陽光を浴びた赤龍の鱗は、黒鉄のように光を弾き、時折、赤い輝きを宿している。
「……これ、宇宙船に使えそうね」
アルシェが呟くと、グラントが顎髭を撫でてうなった。
「ふむ……確かに。強度は晶鋼巨人の核に匹敵するやもしれん。熱にも強く、軽くはないが、外殻材には最適じゃろうて」
バルドランが拳を叩きつけ、笑った。
「赤龍は村を焼きに来たが、逆に未来を築く材料を残していったってわけか!」
蒼真は焼けた匂いの漂う広場で、赤龍の亡骸を見上げた。
その胸には、撃龍槍が深々と突き刺さったまま。
昨夜の激闘が、夢ではなかったことを静かに告げていた。
⸻
赤龍討伐から数日後。
ドワーフの鍛冶場には、砕け散ったはずの晶鋼巨人の核が置かれていた。
傷だらけで、ひび割れた結晶の残骸。それを前に、ドワーフたちが槌を振るい、炎を焚き、必死に修復していた。
「やっぱりよ、あの巨人の力ぁ、惜しすぎるからな」
バルドランのその言葉にグラントも頷く。
「核そのものは完全には死んでおらん。わしらの技で“器”を整えれば……」
「わざわざダンジョンに回収しに戻ったからには、なんとかしたいよな。どのみち人力だけじゃあ、赤龍の亡骸は運べないし」
結晶の残骸を見つめながら蒼真が呟いた。
⸻
そうして数日。結晶は再び、淡く青い光を灯し始めた。
だが、核に命を吹き込むには待機中の膨大なマナが必要だった。
「アルシェ、おぬしにしかできん」
グラントの言葉に、アルシェは眉をひそめた。
「私が……? でも、こんなものに力を注いだら……」
しかし、里の皆が赤龍の鱗を運ぶ方法を探しあぐねていることを思えば、ためらってはいられなかった。
アルシェは深く息を吸い、細い指を結晶に触れさせる。
「――目覚めなさい。私の声を聞いて」
マナが注ぎ込まれた瞬間、核は眩い光を放ち、鍛冶場全体が震えた。
青白い閃光が弾け、重厚な石と晶鋼が組み上がり――再び、巨人の姿が現れる。
復活した巨人は、赤く光る眼をぎらりと輝かせ、鍛冶場の天井に届くほどの巨体を起こした。
その場の全員が息を呑む。
だが、巨人は暴れなかった。
アルシェに視線を向け、ゆっくりと、片膝をついたのだ。
「……主……」
低く、岩が擦れるような声。
ドワーフたちがどよめき、蒼真は思わず一歩前に出た。
「アルシェの声に、応えた……?」
「ええ……。どうやら、私のマナが核と同調したみたい」
アルシェは少し照れくさそうに笑った。
「つまり、この巨人は私の命令を聞く。大きな戦力アップね」
蒼真はその様子を見つめながら、複雑な心境だった。
赤龍戦で、自分の剣は砕けた。撃龍槍を放つ為の最後の時間を作ったのもアルシェだ。
そして今度は、巨人すら彼女に従う――。
(……俺、頼ってばっかりじゃないか)
そんな思いが胸をよぎる。
だが同時に、アルシェが振り返り、蒼真にだけ柔らかく笑いかけた。
「でも、この巨人はただ戦わせるだけじゃないわ。鱗を運ばせたり、里を守らせたり……支えるためにいるの。蒼真、あなたの剣と同じよ」
その言葉に、蒼真は少しだけ肩の力を抜いた。
巨人はただの武器じゃない。仲間だ。
彼は心の中で決意を新たにした。
(なら俺は、この巨人に負けないくらい強くならなきゃいけない。頼ってばかりでは対等の仲間とは言えないから)
こうして蒼真一向は、新たな仲間と新たな決意を胸に、その道程を大きく進めたのである。




