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元英雄アラフォーおっさんが異世界へ帰ったら、可愛い双子の娘がいたので溺愛します!  作者: 葉簀絵 河馬


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第一九話 野外訓練

 今日双子のために作ったのはミルクレープのフルーツのせだ。凪が双子のために目の前に置いたケーキは、何層にも重ねられた薄いクレープ生地が滑らかなカスタードクリームと交互に積み上げられ、淡い黄金色を帯びた柔らかなレースが重なっているかのように仕上げてある。層の薄さと均一さが繊細なのは【料理】スキルの助けのお陰だ。スキルでのアレンジはできないが、トップに一片のミントの葉やフルーツで彩りを添えて、ほんのりと砂糖をまぶすくらいならば知識の範囲でできる。


 双子は目を輝かせて美味しそうに食べていて、二人でホールサイズを食べきってしまいそうだったので、リカルナの分だけは切り分けておくことにした。


「野外訓練の授業があるのか」

「はい、お父様。訓練と称してはいますが、皇都近郊で魔物を討伐する実戦です」

「パクッ……レベル上げだよね……パクッ」

「お父様は臨時講師として同行されるのでしょうか?」

「もぐっ……お父さんがいるから……もぐっ……遠くまで行くとか?」


 リカルナかマナーの家庭教師がいたら、物凄く怒られるに違いない光景に苦笑しながら、情報ウィンドウからそれぞれのレベルを表示した。


「授業で外へ行くなら、もう少し安全マージンが欲しいな」


 凪の呟きを聞いたミアとエリーゼは、ミルクレープを食べていた時とは違った笑顔になった。


「じゃあ狩りに行こうよ、お父さん!」

「お父様ならそう仰ってくれると信じていました」


 早速、リカルナへ野外訓練に向けてレベル上げをしておきたい旨を話すと、彼女は呆れた調子だった。


「凪、ちょっとあの子たちを甘やかし過ぎじゃないの?」

「分かってる。端から見たらやり過ぎに見えると思う」


 凪がファストトラベルを使って双子と内緒で外出していることなど、リカルナにはとっくにバレている。今回はより長時間になるため事前に話しているのだ。


「でも、少なくとも十年分の愛情を見せたい。そうしないと俺は、ミアとエリーゼの父親だって胸を張れないし、二人の将来のためとか、口が裂けても言えない」


 凪はリカルナと行く場所と帰宅時間について話ながら、楽しそうに準備をするミアとエリーゼを横目で見て、思わず頬を緩めた。ミアとエリーゼに拒否されない限りは目一杯の愛情を注ぐ。もし今後、二人の将来のために、二人の意志に反する言動をしなければならないとしても、それはもう少し先で良い。


 十歳までの十年、父親の愛情を失ったことに比べたら、いくらでも取り戻せるはずだ。だから凪は客観的にやり過ぎでも、他の者たちが迷惑を被ったとしても、まずはミアとエリーゼを第一に考えている。




 学院教師から野外訓練について詳しく聞いてみたところ、訓練とは名ばかりのキャンプみたいなものだった。武術や魔術の授業を受けている生徒の内、魔物と戦える状態と判断された四十名ほどを連れて、教師陣や日雇い冒険者に見守られながら皇都周辺の慣れた魔物と戦う。凪も付いて行くと主張したら、むしろ恐縮されてしまった。


 荷物を載せた大きな馬車一台を囲み、学生たちは全員が徒歩で目的地まで向かう。元の世界とは異なり、この世界の主な行軍方法が徒歩であるため、その訓練も兼ねているというのが建前だが、実際は人数分の騎乗生物を用意したり馬車の手配をするお金がないのである。またスキルや魔術で移動にバフが掛かっているため、徒歩とは言えそこそこの速度は出るのも、他の方法を採用しない理由だろう。元の世界で十歳前後を歩かせるのとは訳が違う。


 途中で魔物に出会えば、上級生を中心にした布陣で戦い、負傷なども可能な限り学生たちの手で対応する。教師陣はその様子を監督し、問題があればその都度声を掛けていた。もう何年も定期的に行っている授業のため、教師陣は手慣れたものだった。


 今日の目的地は皇都の西側に広がる見晴らしの良い草原地帯で、凪はこんな場所があったんだなと思い見回していると、頭の中に引っ掛かるものがある。その理由は草原の一部にストーンサークルが見えたからだった。どうもこの草原は、二度目の異世界転移の際に凪がやって来た場所らしい。


「お父様には懐かしいでしょうか?」

「懐かしいって、話したっけ?」

「お父様から聞いたのではありませんが、語りや劇で定番ですから」


 凪はエリーゼが言っている意味が理解できず、首を傾げてエリーゼを見た。聡いエリーゼは凪が何を分かっていないのかをすぐに察してくれる。


「ここはお父様が降臨された大神殿のあった場所です」

「そうなのか? まさかカイの奴、女神教の大神殿を更地にしたのか!?」

「え? いいえ、お父様が神の世界へ帰る時、大神殿も一緒に消えたと聞いています。お父様が魔王討伐した後、神の世界で自らの住む場所として選んだ、とされていますが」

「俺は知らないなぁ。女神様なら知ってるだろうけど」

「ふふっ、この調子だと、まだまだ伝説と違いがありそうですね。今度、一緒に演劇などいかがでしょう?」


 そんな話をしている内に、学生たちの準備が整う。ここからは時間まで魔物討伐となり、学生はチーム単位で行動し、それぞれ引率者が付く。引率者でも対応できない事態が発生すれば、馬車の周囲で待機している教師陣が助けに入る形だ。


 ミアとエリーゼは同じチームで、引率者は当然凪である。そしてチームリーダーは下級生のミアで、これはチーム内でレベルが最も高く冒険者としての実績もあり、成績も優秀だからこそ選ばれたのであり、凪の意向では決してない。


 元の世界の基準で見れば立派なモンスターペアレント凪だが、授業の邪魔をしたり、ミアとエリーゼを優先しろと他人に強要することはない。臨時講師としての役割はしっかり果たすため、他の学生もちゃんと守るし、適切に監督するつもりだ。


「赤チームの皆、最初はホーンラビットから行くよ」


 赤チームのメンバーは五人。剣士二人、槍士一人、弓士一人、魔術師一人でバランスは良いが、四人が下級生であり、全員が女子だった。余談だがチーム名はミアのネーミングセンスではなく、学院側が付けたものである。


 魔物討伐はミアの実力が抜きん出ていることもあり、順調に進んでいく。魔術師枠で参加しているエリーゼなんて、治癒以外の魔術を使っていない。本人曰くサボりではなく温存と恩情。危ないことと言えば、弓士の腕前が若干悪いようで、前衛の三人に当たってしまわないかハラハラしたくらいだろうか。


 このまま何事もなく終わるのが理想だったが、現実は凪の理想を容易く裏切る。




 魔物狩りを行った後は野営の時間となる。役割分担でテントを張り、自分たちで狩った魔物を食糧にする。うまく用意できなかったチームは馬車に積んであった携帯食料を使うことになるが、こうなるとチーム全体の成績に響くので、凪がざっと見回したところ携帯食料を食べているチームはなかった。夜の見張りもチーム単位の持ち回りで、大人たちも別途監督役と見張りを立てる。


「お父さんはどのテントで寝るの?」

「俺はミアたちが安心して眠れるように、ずっと見張りをするつもりだ」


 凪はそろそろ徹夜が辛くなって来た年齢だったが、魔術や薬の力を借りれば二、三日くらい徹夜しても平気だろうと思って冗談めかして答えた。


 夜空はまるで無限に広がる黒い絹のように静かで、そこに無数の星々が宝石のように瞬いていた。澄んだ空気の中、夜の帳がすべてを包み込み、辺りはしんと静まり返っている。月の光は穏やかに地上を照らし、その淡い輝きが周囲を柔らかく照らし出していたが、その光をもかき消すほどに星々は鮮明に輝いていた。


 可愛い娘とキャンプで綺麗な夜空を見上げる。なかなかに良いシチュエーションだ。


「あれ、なんだろ。お父さん、あれ何?」


 ミアが凪の腕を引っ張りながら皇都の方角を指差していたので、凪もそちらへ視線を移す。飛行型の魔物でも飛んでいるのだろうと目を凝らそうとして、その必要がないことに気が付いた。


「なんだあれ」


 ただしその正体については凪にも分からない。周囲が夜で暗い上、遠くて分かり辛いが、皇都の上空に球体のような物体が浮いている。草原からでは点にしか見えないが、皇都から見れば大きさは相当なものだろう。物体は不気味な鳴動をしているらしく、闇に溶けたり現れたりと点滅を繰り返していた。


 次の瞬間、物体が弾け飛んだかと思うと、光の速さもかくやという速度で、皇都とその周辺地域の夜空に魔法陣を描いた。


 凪は無意識の内に話していたミアを抱き寄せ、魔術の炎でホーンラビットの肉を焼いていたエリーゼの元へ駆け寄る。


 空には直径十キロメートル以上にも及ぶ、超巨大魔法陣。


 魔力は感知できないので攻撃魔術ではない。しかしただ事であるはずもなく、凪は何があってもミアとエリーゼだけは救おうと身構えた。


 その時には草原地帯で野営をしていた学生、教師陣、冒険者たちも異変に気が付いて、皆が戸惑い空を注視している。そして異変は進んでいく。魔法陣の効果と思われる力が発動した。


「召喚術か! 魔物が召喚されてくる! 全員、戦闘態勢! 脅威度不明! 固まれ!」


 魔法陣に召喚されて夜空から降って来た魔物は、見る者に瞬時に恐怖を与える異様な存在感を放っていた。全身は漆黒の鱗で覆われ、その鱗は硬質な金属のように光を反射しながらも、滑らかな動きを妨げることなく、まるで闇そのものが形を持ったかのように不気味である。細長くしなやかな体は、鋭利な刃物のような鋭さを感じさせた。


 顔には大きく裂けた口があり、その中には無数の鋭い牙が並んでいる。牙は獲物を引き裂くために作られた凶器のようで、光に当たると鈍く輝いていた。その瞳は人間のそれとは異なり、深紅に輝き、感情を感じさせることなく冷徹な光を放っている。皮膚からは不規則に緑色の毒液が滴り落ち、地面に触れるとジュウジュウと音を立てて焼け跡を残していた。


「図鑑にも掲載されていません。お父様、ご存知でしょうか?」

「俺も初めて見る魔物だ。まるでエイリアンだな」


 凪は元の世界で見た有名なSF映画に出て来る怪物を連想する。その映画と違うのは数で、超巨大魔法陣は際限なくエイリアン魔物を召喚しているのだ。初回の発動で数百、今も秒間に一匹くらいペースでプトレマイオス星皇国のどこかにエイリアン魔物を投下していた。


「【分析】……UNKNOWN?」


 一先ずエイリアン魔物のレベルだけでも確認しようと考えて、【分析】スキルを使用する。しかし結果は分析不能。スキルを防がれたのではなく、最初から分析できない存在だという意味だった。


「ま、魔術が効かない!」

「なんだよ、コイツ硬い!」


 いくつかの学生チームや冒険者がエイリアン魔物へ先制攻撃を仕掛けたところ、まったくダメージを与えられた様子がない。学生は仕方がないかも知れないが、大人の冒険者まで有効と思われる対処がほとんどできていなかった。学生や冒険者が悪いのではない。単純に剣術や魔術の効果が非常に薄いのだ。


 人間を襲おうとするエイリアン魔物に追い詰められる学生。凪は放っておく訳にもいかず、【縮地】から斬撃を放つ。その手応えに顔を顰めたものの、凪の聖剣はエイリアン魔物を一刀両断した。助けられた学生は悲鳴を上げている。


「ナギ様! こいつら私たちの攻撃が効きません!」

「どうすれば!?」


 草原地帯にいた学生、教師、冒険者が揃って凪へ注目する。モンスターペアレント凪を快く思っていなかった教師や逸話しか知らずに凪の実力に懐疑的だった学生も、この時ばかりは凪へ縋るような目を向けていた。


「一掃する。全員、伏せろ!」


 凪は周囲に無数の光の剣を産み出した。それらは凪の意志に従って発射。光の剣は軌跡を描きながら疾走する。そして草原地帯にいたエイリアン魔物を、わずか数秒の内に全滅させた。


 さらに数本の光の剣が空の超巨大魔法陣へ向かって上昇する。光の剣と超巨大魔法陣がぶつかり合い、その一部を削り取った。魔法陣の大きさからすれば雀の涙だが、この周囲にエイリアン魔物が召喚されるのを防いでくれるかも知れない。


 【剣の英雄】。ミアが幼くして取得し、エリーゼが願ったスキル。それはざっくりと言ってしまえば、無数の光の剣を産み出して操るスキルである。それだけであれば【弓術】スキルを上げた弓兵を並べたり、魔術師たちのつるべ打ちと大差がないと言えた。しかしその付加価値と応用範囲が戦術レベルであったため、少々有名になり、救世の英雄ナギの代名詞とまで言われてしまったスキルでもある。残念ながら、ここではその真価を発揮できない。


「あの化け物を一掃! これが……」

「救世の英雄ナギ!」

「凄い! 私の【剣の英雄】と、全然違うっ!」


 凪の傍なら安全だと思って駆け寄ってくる者、今後を相談しようとする者、生き残りの魔物はいないか警戒する者。


「お父様、私の見解ですが、敵性体はスキルの効果を無効化する力を持っていると推測されます」

「エリーゼは観察力も優れてるんだな。俺も同じ考えだ」


 凪はこの時点で、エイリアン魔物の正体をほとんど看破していた。しかしそれを説明したところで解決に繋がる訳ではない。今はエイリアン魔物に対抗する戦術への理解があれば充分だ。


「お母さんや伯父さんは、大丈夫かな?」

「大丈夫だ。リカルナもカイも、俺と一緒に戦った仲間だ。それに、今から俺が様子を見に行って、ついでにこの魔法陣の元凶を破壊してくる。ミアとエリーゼは、ツェルウェン伯爵の所で待っててくれるか?」


 双子は同時に頷いた。


「お父さん」「お父様」

「お母さんをお願い」「お母様をお願いします」


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