春の足音
真冬の日、小学校前に佇む桜たちに出会った。
その木を観察すると、小さなつぼみ。
蕾の膨らみは小枝とほぼ変わらず、一見すると蕾とはわからないが、そこには冬服の制服のように固い皮に守られた、幼いが生命力が確かにある。
桜はみずからの蕾が遠い春に向けて、生命の奥深くで静かに成長を続けていることをまだしらない。
北風に揺れる蕾。鳥の羽が触れるたび、幼い蕾は少しずつ成長を感じ始める。固い皮に守られながらも、その内には春への憂いと恐れが混在している。刺激を受ける度に、桜は自らの蕾が敏感な器官であることを自覚し戸惑う。
硬い蕾を好む獣がいる。幼い蕾の中には、未熟ながらも柔らかな花びらが隠れている。成熟した花のような甘い香りはまだしない。その純粋さを狙い、即座に食す獣もいれば、成長を待ち、自分の好みに育てて花を摘むものもいる。蕾はそんな野蛮な世界を知らないまま、静かに成長を続ける。
冬の厳寒が支配する山々に、松茸を凌ぐ雄大なキノコたちが誇らしげにそそり立っています。その姿は、父の威厳と力強さを体現しています。雪を突き抜き、空を仰ぐ力強いさ。
キノコたちは、無数の胞子を撒き散らす。 幼い蕾に届けとばかりに。
微風と共に、人知れず静かに幼き蕾たちに舞い降りる胞子たち。
きのこの先端から粘着質の雫が漏れ出て、傘部分をつたい、重々しく滴る。
そこから放たれる獣のような強烈な香り。生命のエッセンスを凝縮したホルモン剤のようだ。
その原始的な力は、桜の蕾を奥底から揺り動かし、春の訪れを告げる。