欲の始まり夢の終わり17
私に負けが無いと言ってはいるが、実はそうでは無いのだ。実はタイタスを高高度に連れて来ただけで、あちらには大したダメージは無いのだ。しかも、こちらはかなり消耗している。
負ける可能性はかなりあるのだが、タイタスが降参する事を期待しての動きだ。
重力の影響が薄くなったこの場所で、タイタスの動きはかなり制限されている。理解しているか分からないが、位置的に上に居る私への攻撃は、下方向への反発を発生させ、高高度からの落下に繋がるのだ。
まあそれでも、タイタスに飛行能力があれば、この状態から脱出する一手にもなり得るので、私の賭けとしては、タイタスがこの状況の対処を知らない事に大きく影響を受ける。
「タイタスが負けを認めると思っているのか?」
そう言ってくるだろうという事は予想していた。実はタイタスの勝算条件は複数ある。
私から追加装甲を剥ぎ取ればいいだけだし、そうでなくても、シズキのように戦闘継続出来ないような怪我をおわせるという方法もある。
だからこそ、私は対策として追加装甲を二つに分けている。地上に残して来た方と、今タイタスと宇宙近くに居る方の、どちらに具が入っているか知る必要があるのだ。
私は負け筋を消しているのだから、自ずと答えは出るだろう。そこを理解してもらい、降参してもらいたいものだ。
「そうは言っても、私の負けは遠くにあると思いませんか?」
私の言葉と同時に時が止まる。と言ってもタイタスはこの時間加速状態でも私と同じ認知を持っている。ようは私に危機が訪れているだけなのだ。
シズキが倒された攻撃が何だったのか、これは昨晩に検証を重ねた。
タイタスから発射された高エネルギーの体液ビームなのだろうという事なのだろうが、シズキとしては色々と不可解に感じていた。
一つは、手の平で防御したにも関わらず、正確に肩の血管を貫かれのだそうだ。
シズキが負けを認めたのは、手当て必須の出血状態にあったからなのだが、その判断に至らせる為に行われた攻撃が、正確無比過ぎるのだ。しかも、肩を貫通した後、地面を大きく抉り海を吹き飛ばしているのに、そんな衝撃や破壊がシズキの体には伝わっていないのも妙だった。
タイタスビームの完全な原理は分からないが、恐らく狙った相手に狙った破壊を起こせる必中攻撃なのだろうという理解となった。そしてその攻撃はタイタスの心臓から直接発射される。言わば血液の超高圧、超精度の放射なのだろうという理解となった。
効果が分かれば対策は出来る。確実に私が嫌がる場所に向かってビームは放たれるのだ。
私の時間が加速しても、タイタスビームは光となって見えるのみだ。良く考えれば強者を求めるタイタスは、当然ウミビト同士で対戦しているのだから、加速認識下でも回避不能の攻撃を持っているのは当然だろう。
それに、タイタスやはり私の本体がどちらに居るのか見抜いていた。もしかしたら、ビームにはターゲッティング能力もあり、戦闘開始時になんらかのマークをされていたのかもしれない。
タイタスのビームは、同じ空の果てにいる私に向かって来る。
私もタイタスと同じく空に上がる。それは私だけが用意出来る最初で最後、唯一のカードだ。
自らを囮にカウンターを撃つ。タイタスはやはり、知らなかった。空の果てには(これ)が大量にある事を。
私に向かって来るビームに対して、周辺の冷気が集まるようにコントロールしていた。地上から爆発の熱と空気の一部も持ち込んで、空の果てがこれ程寒いという事を偽装出来たのも効いている。
この大量の冷気の中、タイタスは私を貫く為に正確に調整したビームを発射したのだ。液体への性質変化は基本一種のみで、ブレンドで複数効果を得ているが、果たしてタイタスはこれに不凍を選んだか。
答えは否だ。
タイタスの放った光は色を失い。心臓まで開いたビームの経路は凍り付く。タイタスは心臓を不凍で守らなくてはならないし、ここには凍結を解凍する熱は存在していないのだ。
既に空気も熱も無い空間で、私はタイタスに触れて振動により伝えた。
「負けを認める?」
答えは是だった。
――
地上に戻る為にも追加装甲を二体に分割していて正解だった。真っ直ぐ上がっても、一度重力を失うまで至ったら、真っ直ぐ降りても位置はずれてしまう。分体の追加装甲が戻り位置をガイド出来るので、位置補正しながら降下を行った。
タイタスの解凍は容易に行われた。少し涼しい季節ではあるが、常夏の島なのだから戻るだけの熱は十分だった。
「見えなくなるまで飛んで行ったから、どうなったかと思ったのにゃ」
最終局面の詳しい説明はシズキにもしていなかった。ただ、冷気の大量にある場所にタイタスを連れていくとだけ説明していた。
「同じ場所でも、高い山には雪や氷が残る。それを突き詰めた結果だよ」
タイタスは巨体のまま胡座をかいてこちらを見ている。
「タイタスが敗れるとはな」
「私がやったのは、戦闘では無いし、一度限りで二度と通用しない手段です。納得いきませんか?」
「いや、負けは負けだ。空の果てに死の世界があるなど、想像もしなかった。見事な戦術であった」
タイタスは膝をパシパシと打ちながら称賛してくれた。
「一勝一敗で勝ち越した訳ではありませんが、一つ勝ったという事で、私達に協力をしてもらえないでしょうか?」
「何人来ようが、タイタスは負けるつもりなど無かった。一つ負けて、まだ命があるのだ。貴重な経験が出来た。約束通りタイタスに出来る事であればなんでもしよう」
思いがけないところでウミビトと出会ったが、かなりよい方向に転んだように思う。
「では、一つ都市開発に協力して頂きたいのです。その都市は参人の全てが住まうようにしたい。可能でしょうか?」
「ウミビトはどうにかなるだろうが、他はどうするのだ?」
「モリビトは言うまでもなく。ヤマビトにも宛てはあります」
「そうか。では場所はウミビトが提供するとしよう。例の弓の島にある駅より繋がる先が、今は無人の都市だ。名を竜宮と言う」
「竜宮都市ですね。分かりました。そちらの調整はお願いします」
これはかなりいい調子だ。だが、しかし、問題もある。シルバに任せてた件なのに、勝手に裏でこんな事になってしまった。全く持って説明の方法が思いつかない。
「ところで、勝負の結果とは別で提案があるのだが」
タイタスは巨体ながらソワソワしている様に見えた。
「なんでしょう?」
胡座で座っているタイタスの股が急に縦に割れて中身が露わになった。金色の粘液に濡れた白色で少し透明の触手に満ちた開口部が人一人呑み込みそうなサイズで開いたのだ。
「タイタスに種を残して行く気は無いか? かなり優秀な因子持っている事は間違いないだろう。是非にこのタイタスに授けてくれはしないだろうか?」
タイタスの言葉と同時に触手部分が盛り上がって外に飛び出してくる。さながら、密集したイソギンチャクか、寿司ネタの黄金イカが巨大になった感じだ。
「無理です」
その絵面を見て速攻でお断りを申し出た。




