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欲の始まり夢の終わり14

 ◇◇◆


 人以外も殺してきた。危険地帯に入れば、その地に棲息する生物に襲われる。針、爪、牙、毒、火炎、水弾、突風と人には無い武器を使う生物は幾らでも居た。強靭な肉と堅牢な殻を持ち、術に近い力を扱う生物は、人よりも厄介である事が多い。

 今、対峙している生物は、人ではあるだろうが、危険地帯の猛獣に近い雰囲気を感じる。

 猛獣の多くは食うために相手を襲う。その行為の先に自身の止められぬ欲求が繋がっているのだ。故に猛獣の一撃は鋭い。

 目の前の生物は殺さぬとは言ったが、事実的な致命の一撃を打つだろう。それは、それだけははっきりと分かる。


「それじゃ。にゃーも変身するかにゃ」


 そう言って、ビシムから貰った奥の手をあっさり出そうとする自分に驚いた。この事は、まだユズカにも話していない。

 そうして、少し冷静になろうとするも、何故闘うのかという疑問にぶつかる。

 この闘いは自分にとって、全くの無益で無為な闘いなのだ。何も得られる事も無く、恐らくは何も失わない。

 だが、この闘いには唆られる物があるのだ。恐らくは挑む必要の無い強者に挑んでいる。ただ、何も出来ない事は無いだろう。何が出来るのか、何が待っているのか分からない。そんな予感が、心の奥のただ相手を引き裂いてやりたいという、暴の感情に火を付ける。


 変身と言っても、ユズカ程姿が変わる訳では無い。これはこれ以上闘う中で、後何があれば良いと思うかという、ビシムからの問いに答えた結果だ。

 自身の体毛を延長して自由に操作出来たら、そんな事を語った記憶がある。

 それに対してビシムは、全ての体毛に何かを付着させる処置を行った。単純に頭から白い液体に沈められただけだったが、体毛の拡張されたという感覚は直ぐに理解出来た。

 普段はユズカと同じように変化は無いが、これを使用しようとすれば、体の毛の濃い部分、特に頭から首周り、手から肘まで、足から膝まで、そして腹から股と尻尾まで、長く白い毛に覆われる。

 この白毛は鎧であり武器なのだ。


「何を使おうとも良い。タイタスを打ち倒す為に攻めて来るのだ」


 このタイタスという相手は侮れ無い。地上戦となれば、巨体を縮めて来た。ユズカのように空を自由に飛ぶならば、巨体も有利だが、地に足を付けて闘うのであればあの巨体は不利である。タイタスには立ち方一つ取って見ても、地上戦の経験も多分にある事が窺える。


 体を覆う粘液のような領域を見るに、接触する事は不味いのだろうが、触ってみなければ何も分からない。

 ユズカから聞いているとおり、相手はかなり早い時間感覚を持っている。素早く体を動かしても、簡単に動きを予想されるだろう。

 だが、相手もその時間感覚のままの速度で体が動く訳では無い。速さで言えばこちらに少し部があるが、認識力は圧倒的に負けている状態だ。


 最初の打撃が相手の守りに当たったのは、相手もこちらの力量を見ているからだろう。そうして触れた拳には、全くの手答えが無かった。

 あの粘液が衝撃を吸収している。更に拳を引き戻す事も出来ない。粘液が拳の毛を絡め取って凍りついたかのような硬さで取り込んでいる。


 ここは毛の性質を利用して、毛を抜いて相手の粘膜から脱出する。恐らく、全身捕らわれてしまえば終わりだろう。

 相手の粘液にはこちらの毛がかなり持っていかれた。


「ほう、タイタスの液術に気が付いていたな?」


「何かあるとは思っていたのにゃ。その液体、恐らく性質を自由に変えられるのにゃ? 水のように柔らかく、氷のように硬くなるのにゃ」


「よく見ているな。ならば、あらゆる攻撃が通らないという事も理解出来るな? ならばどうする?赤き尾よ!」


「やりようはあるのにゃ。その液は同時に水と氷にはなれないのにゃ」


 毛を分離したのは武器として使用するためだ。切り離した毛でも、簡単な術は使用可能なのだ。


 タイタスの液体に取り込まれた毛が発火して、液体を蒸発させる。それと同時に毛を動かして輪の形状となって手首に絡み付き切断を行う。

 タイタスの手首には毛の刃が食い込み深い傷を付けたが、発火して脆くなった毛は焼き切れてしまった。


「どうやら攻めも考えていたようだな。良いぞ!面白くなってきた!!」


 タイタスの手首の傷は深いが、血が全く出ていない。傷は粘土でも埋めるように肉が戻り、何事も無かったように紫の鱗が光っていた。


「液体を操るって事は、まさか体液も自由なのかにゃ?」


「そうだなぁ。そうして互いに触れ無くなったのであれば、遠距離で闘うしかないわなぁ!」


 タイタスが高速で手を振り上げるが、打撃にしては遠すぎる。振り抜いた手からは霧のような物が発生して高速で迫っている。

 本能的に回避に動いたが、範囲が広すぎて逃げきれ無い。回避の間に合わない右半身は、毛の発火能力で霧を防いだ。


 タイタスの出した霧に触れた物体は、凄まじく高い金属のような音を出しながら消滅し、砂浜は小さな穴だらけになってしまった。


「液を恐ろしく硬くして飛ばしたのにゃ。そんなのにゃーが受けたら死んでしまうのにゃ」


「何、急所は外してある。多少の傷ならば、タイタスが治してやるのだから問題は無い。それより、咄嗟に炎で防いだのは見事だな」


 やはり、手足の一本や二本は簡単に持っていくつもりのようだ。

 しかし、厄介な事に霧の対処は難しい。さっきの効果に加えて可燃性の液を混ぜられたら、丸焼きになってしまう。同時に複数の効果は出せないのは防御の時であって、攻撃となれば、別々の効果を発生させて混ぜればよいのだ。液体操作能力というのは、中々に厄介なものだ。


 長期戦では勝ち目が無いだろう。深い傷でも一瞬で治してしまうのだ。治す手段の無いこちらが不利な事は明白だ。

 短期戦で勝つには、かなりの傷を一瞬で与えて、かつ液体が使えない状況に追い込まなくてはならない。


「長くは持たないから、早めに決着させてもらうにゃ」


 そう言ってタイタスに突進する。タイタスは当然、まだ距離のあるうちに霧を放とうとする。距離が近ければ霧の回避は出来ないので、炎により防御しか無い。

 タイタスの霧は、当然のように破壊の霧では無く燃えやすい霧に変わっていた。こちらの炎が引火して周囲が真っ赤になる。


 たが、いい。この状況を望んでいた。散々と炎を印象付けておいたのだ。こちらが炎を使い炎で対処すると思い込んでいる頃だろう。

 この白毛は簡単な術を扱えるのだ。ならば今使う術は流体操作だ。炎は熱を持った空気が殆どの物だ。ならば、それを操作して相手にぶつければいい。丁度、火力の増す行為が相手からされたばかりだ。この熱気を相手にそのまま返す。


 あちらは防御に回るだろう。それも対炎防御だ。ならば、こちらは本命の打撃を打ち込むまでだ。


 これまで使う事の無かった拳技を使う。厚い鎧を着た相手でも中の肉を骨を髄を叩く技を使う。


 右手で炎の拳を叩き込み、左手で内部を叩く掌底を打つ。

 拳には確かな肉を打ち破壊する手答えがある。ただし、掌からは岩山を打ったような重く巨大な存在を感じる。


 見誤っていた。この液体を操作するという相手が、体液すら操作する存在が何を使って干渉しているのか、今、ようやく分かった。


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