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欲の始まり夢の終わり11

 この島の中心には結構高い山がある。島は森というかジャングルみたいな植生なので、樹木の葉が繁っていて人が歩く場所は暗く深いが、それでも山の頂きの方向を見失う事は無い程の存在感がある。

 島民が使う森の中の道とシルバが居た位置は外れている。シルバの痕跡を追うならば、明らかに人が行かない岩の絶壁を登るしかない。


「シルバの後を追うなら、あの絶壁を登るしかないか」


「にゃーは問題無いけど、ユズカはどうするのにゃ?」


 目立つ事はしたく無いが、今は急ぐ他無い。追加装甲ではよく飛んでいるので、防具だけでも飛行は出来る。


「飛行術で行くよ」


 アダマスのサポートで飛行術を起動すると体が軽くなり、ゆっくりと地面から離れた。普段は追加装甲に覆われて飛行しているので、他人事のように飛んでいるが、生身での飛行は結構怖い。自分の足元に落下し得る空間がどんどん拡がるという行為は、単純に不安を増幅させる。

 飛行が木の高さを超えると、ガイドがほしくて絶壁に手を付きながら高度を上げた。

 絶壁の高い部分には無数の切れ込みがあり、複雑な立体迷路になっている。ここを単純にクライミングしたならば、迷子なるのは必至だろう。

 シズキはぴょんぴょんとジャンプしながら事もなく付いて来る。足場が無いように見える位置でも、謎の吸着力で山羊のように張り付いている。


 岩の切れ込みは洞窟のように山の内部に繋がっている。ここに到達するには山頂からでも直接行く事は出来ない。

 洞窟の先は地下へと繋がっており、暗闇の中を降りる事になった。防具の一部を発光させて視界を確保するが、穴の底は見えない程に深い。シズキは私の光源を受けて目を光らせながら、闇の竪穴を付いて来る。

 ようやく穴の底に着くと何やら人工的な横穴を発見した。

 横穴は綺麗なトンネル型で地面平で天井は半円カーブが奥まで続いている。


「明らかに誰か人が掘った穴なのにゃ」


「ここまで来る経路は何の整備もされてないのに、ここだけ綺麗なのも妙だね」


 島民がここまで来てこの先に用があるなら、経路が整備されていてもおかしくは無い。しかし、途中までは明らかに自然の竪穴であり、人が行き来する構造では無かった。


「この先に行くのにゃ? 奥は海の匂いと妙な匂いがするのにゃ。それとシルバもここを通ったのにゃ」


「行くしかないでしょ。行ってはいけないのであれば、扉が閉まっているだろうけど、ここは開いているのだから行けるはず」


 自分に言い聞かせてるように言ってから横穴に入った。

 進んでみるとシズキが海の匂いがするというのが良くわかった。この穴は真っ直ぐ横に伸びているので海底辺りに繋がりそうだ。

 そこそこの距離を進み位置的には海に出るだろうというところで横穴の先に光が見えた。海と繋がっているという事なら海水が入っているはずだが、ここから先も乾いている。

 光の正体は透明な膜で作られた海底トンネルだった。

 透明な膜は明らかに異質で、有機物とも鉱物とも言えない質感で、硬質なクラゲという感じだった。

 こんな目立つ物があれば、海底に居た私達が見落とす筈は無いのに、一切発見出来なかったのも妙だ。


「この先には、にゃーの知らない生き物が居た匂いがするのにゃ」


 その言葉を聞き、このオーバーテクノロジーの一端を感じると、ウミビトという単語が頭を過ぎった。

 シルバはウミビトに会った事があると言っていた。そうなのであれば、ウミビトの施設を使ってウミビトに会いに行ったという可能性が高い。


「その生物とシルバは知り合いで、シルバがどうやって何処に行ったのかは、この先で分かりそうだね」


 透明な海底トンネルは何かの施設に繋がっている。その施設もまた透明な膜で出来ていた。施設に繋がる経路ですら扉一つ無い。特に入られても困らないという事なのだろうか。


 施設の中は天井が高かった。10mはあるだろうか。施設の構造は球体で、下半分が珊瑚のような物質で出来ており、上半分はトンネルと同じ透明物質だった。これ程巨大な物が海底にあれば気付くはずだが、私は外から発見出来なかった。

 島民もこの施設に気付いていない節がある。島民は目がいいから気付くだろうし、海底にこんな物があるなら、海上や島側から何かしらの処置をする筈だ。たが、島からこの施設へのアプローチは何も無い。まるであのトンネルを通らないと到達出来ない、認識出来ないかのようだ。


 施設内の珊瑚のような構造物がただの基礎なのか、装置なのか分からなかったが、一つだけ分かる物があった。

 施設中央には精巧な海図があった。しかも立体で海底まで表現してある。どれくらいの範囲を網羅しているのかは分からないが、この施設を中心に構成されている事は分かった。

 海図は確かに目を引いたが、私が知りたかったのは、シルバが使用した移動手段だ。ここに何らかの移動手段があるのは間違い無い。しかし、構造物の操作方法の糸口すら掴め無い。


「ユズカ、この海図動いているのにゃ」


「動いている?どういう事?」


 シズキの指差す方向には、この島がある。確かに島をよく見ると何か小さな物が動いていた。


「これは多分、海に出ているこの島の舟にゃ。この海図は海そのものを映しているのにゃ」


 リアルタイムか記録かは分からないが、これは海の一定範囲を映した立体映像という事なのだろうか。


「そんな事が出来るなんて、とんでもない技術なんじゃ」


「欲国の王でも目玉一つ分で見た像くらいしか映して無かったのにゃ。これは欲国が簡単にひっくり返るくらいの技なのにゃ」


 やはりここはウミビトの施設で間違いないのだろう。


「凄い技術なのは分かったけど、今はシルバの行き先の手掛かりを探そう」


「それなら多分これにゃ」


 シズキは海図の別の場所を指差した。ただの海しか無い位置に良く見ると円形の何かがある。


「ここは、シルバを見失った場所?」


「そうにゃ。あの場所にはやっぱり何かあるのにゃ。ただし、入るには何か特別な手段が必要なようなのにゃ。シルバはここに居て、あのちょっと下がったところで匂いが途切れているのにゃ」


 シズキはこの施設の端にある段差の下を指した。確かに無駄に降りる構造になっているのに、降りた先には透明な壁しか無い。


「あそこからシルバは移動した。そしてこの円のある位置まで行った」


「多分そうにゃ」


 ――


 散々施設内を探し回ったが、何一つ手掛かり無く、何の機能も起動出来なかった。仕方ないので、一旦は島の村に戻って来た。

 山に入る許可を出してくれた島長にお礼を言いに行ったら、家に上げられてしまった。

 ここ、結婚を勧められるので早く立ち去りたくはあるが、手掛かりが無い以上は、島民からも情報を得たくはある。


「探し人は見つかったかい?」


「いえ、見つかりませんでした」


 歓迎されているのか食事まで出してもらっている。バナナの葉みたいなのに乗った焼き魚が美味しそうな匂いをさせている。


「そうかい。あんたらでも竜人様には会えなかったか」


 島長は竜人様という聞き慣れない単語を出して、こちらを誘っているようだ。


「私達が探しているのは長身の老人です。竜人様では無いですが、その方は何者なのですか?」


 私は島長の話に乗った。今は少しでも情報が欲しい。

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