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欲の始まり夢の終わり9

 この島の中央の山には空洞がある。構造からあまりにも不自然なので、恐らくは人工物だと思う。

 シズキはこの島と住人の性質は知っていても、島に入った事はないそうなので、あの空洞が何なのかは分からない。

 追加装甲の能力も透視が出来る訳ではないから、中がどうなっているのかは不明だ。

 ただ島の山に空洞があり、その付近にシルバが居るという事だ。


 シルバが動き出すまでは待たなくてはならないので、一旦は追加装甲を解除した。この島の住人の探知能力は高いそうなので、あまり目立った動きをすると発見される可能性がある。


「シルバはどうやって島の真ん中に居られるのにゃ? この島はいきなり入って来た余所者には容赦しないのにゃ」


 そこについてははっきりしないが、ブランのワープ網が関係しているような気がする。

 ブランワープの行き先は、世界樹教会などではなく、現地にある建物である事が多い。という事は、現地人の何者かが場所を保護しており、急にブランが現れる事も了承しているのだろう。

 そうなると、ブランはこの島の住民とも何らかの契約をしていそうだ。

 ブランは外でも法国でも料理人だ。大した対価も要求せずに、珍しい料理を振る舞って人の心を掴む。脅威も敵意も感じず、繋がっていれば利があるだけの存在と認識されるから、どんな場所でも受け入れられるのだろう。

 ブランの目的とする料理の探求を叶える上で、この印象を万人に与える能力があるというのは、良く考えられた方法だと思う。


「はっきりとは分からないけど、シルバにはこの島を訪れても良い許しみたいなのがあるのかも」


「顔の広いじーさんにゃ。それと、にゃー達が島の中央に近づくと、必ず発見されてしまうのにゃ」


 どのみちシルバが動くまでは、こちらも行動するつもりは無い。


「シルバが動くまでは待つよ」


「この森で夜を過ごすのにゃ? それなら場所が居るだろうから、にゃーが探してやるのにゃ」


 そう言ってシズキは森に入って行った。


 ―


 来た事も無い島に夜1人という状況に不安を感じ始める間も無くシズキは戻って来た。


「いい場所があったのにゃ。付いて来るにゃ」


 そう言って手招きするシズキの後を追い森に入ると、直ぐに地面に穴がボコボコ開いた場所に出た。


「このちょっとした洞窟みたいなのに隠れるって事?」


「そうにゃ。ただし場所によっては毒気が溜まっていて、ひと息で死ぬ場所もあるから注意するにゃ」


 そう言えば、洞窟には空気の流れが悪い場所には、炭酸ガスが溜まっていて、呼吸するだけで意識喪失して倒れてそのまま死亡するという事件が起きると聞いた事がある。


「なんでそんな場所を選んだんだよ」


「この島の奴もここは危険だと知っているのにゃ。だから見張りもいないのにゃ。それににゃーの鼻なら毒気の場所が分かるのにゃ。この島で身を隠すならここが一番にゃ」


 まあ、確かにシズキの言う事は分かる。自然の不可視の罠がある場所をわざわざ探索には来ない。島民もまだ私達が島に入っているという事実すら知らないのだから、ここがより発見されずらいというのは合理ではある。


「見つからないならここってのは分かったから、安全な穴に案内してよ」


 シズキの案内で、竪穴を少し降りた場所にある、木の根が作った空洞に入った。

 途中に竪穴の下を見たが、ガスにやられたであろう動物の骨がいくつか見えた。植物だけがガスの影響を受けず生育し、動物の痕跡は全く無い。ここは野生動物も近寄らない場所になっているのだ。


「ここなら一晩くらいはどうにでもなるのにゃ。寝やすいように落ち葉でも拾ってくるのにゃ。ユズカは毒気で死にたくなかったら、ここを動かない事にゃ」


 シズキはそう言って上の森に行ってしまった。

 実は私の防具はクッション性能にも優れている。硬い場所に座ったり寝たりしても、体重が掛かっている場所の生地が厚くなって体が痛くならない仕様になっているのだ。これまで硬いベッドしかない宿でも快適に眠れていたのは、このクッション能力によるものだ。

 そんな事を考えて座り位置を探していたら、シズキが戻って来た。両手一杯に圧縮した落ち葉を地面に置いて、私の方に一山渡して来た。

 落ち葉のクッションは意外と座り心地が良かった。


「落ち葉って以外と柔らかいね」


「落ち葉の上で寝るの初めてにゃ? 後、この暗さで前は見えているのにゃ?」


 これも防具の能力だが、暗視機能もあるのだ。暗くなっても物体を認識する能力が落ちない。


「見えているよ。シズキの尻尾は今上を向いてる」


「まあ、見えてる動きをしているから、そうかにゃと思ったのにゃ。因みににゃーも夜目は効くのにゃ」


 シズキの瞳は猫のように瞳孔がまん丸に開いていた。


「シルバの位置も変わっていないから、もう今日は動かないんじゃないかな。やる事も無いから私は寝るよ」


「にゃーがまた寝込みを襲うかもしれないのに、寝る気なのかにゃ?」


「そんな機会は欲国でいっぱいあったでしょ。でもシズキは襲って来なかった。今日もそうなると信じて寝るよ」


 シルバ胡座をかいた姿勢は変えずに、尻尾の巻き位置を右から左に変えた。


「ちょっと前ににゃーが漏れそうだって言った時を覚えているかにゃ?」


「え、それは覚えているけど」


「にゃーがあの時出て来たぶよぶよした奴に股の肉槍を擦り付けて気持ち良くなってたのは知っているのかにゃ?」


 いきなり何のカミングアウトなのか。


「え、嘘、そんな事してたの?」


「今のユズカの反応で、本当ににゃーが何をしていたのか見てなかったのが分かったのにゃ」


 なんだ、試していただけなのか。


「排泄行為なんて見られたくないでしょ。だから見て無いし聞いてもいないよ」


「にゃーは見られてもいいし、見ていると思ったのにゃ」


「見ないよ。私もシズキの寝込みは襲わないから、気にせず寝ていいよ」


 私はシズキに背を向けて寝転がった。シズキの方からは微かな落ち葉の音がしていたが、やがて無音になった。


 ―――


 瞼を閉じていても感じる光に目を覚ました。眠ったときより明らかに明るいので、日が昇ろうとしている時間なのだろう。

 シズキは昨日見た姿勢のままで何かを食べていた。


「ユズカも食うのにゃ?」


 昨日は無かったバナナの房みたいなのが岩の上に置かれていた。


「食べる」


 完全にバナナの果実だが、皮が意外と厚く種が結構大きい。甘味は薄いが水気があるので、意外と朝にはいい食べ物な気がした。


「島の見張りは来て無いのにゃ。まだにゃー達の存在は気付かれて無いと思うのにゃ」


 ここに隠れて正解だったという事だろう。


 シルバの位置は殆ど動いていない。移動に時間を使っていないという事は、何かを待っているのだろうか。


 そんな事を考えているとシルバの位置情報がいきなり高速で移動を始めた。しかも移動方向は南の海に向かっている。

 位置座標が明らかに海の上という事になっているが、ここから確認する方法は無い。


「シルバが海を南に移動してる!」


「どうするのにゃ? 昨日みたいに海の底から追うかにゃ?」


 シルバの移動速度は尋常では無い。新幹線にでも乗ったのかという速さだ。


「追うよ! 直ぐに用意するから」


 私は追加装甲を纏い、シズキを背中に収納すると崖から海に飛び込んだ。



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