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欲の始まり夢の終わり7

 シズキに助けを乞うて南海を目指す事にした。シズキの望みは分からないが、信じる事にしたのだ。


 南海を目指すには、海に浮かぶ諸島の国に行く必要がある。南海を含むこの辺りの海上網を支配する夕国という国がある。

 島国で広い領土がある訳では無いが、術具の回路形成に使用する特殊な塩の結晶が産出するので、交易は盛んに行われているらしい。

 海上交易というと海賊行為は当然付き物で、海上の利を活かした略奪行為が横行していたが、有力海賊の幾つかが連合を成して国家を名乗っているが夕国らしい。

 大陸から夕国へ海路で行こうとすると、初心者は複雑な手続きと法外な費用を取られた挙句、嵐に巻き込まれたり、連合に迎合しない海賊に襲われたりと散々な目に遭うらしいが、私は飛んで行くので問題無い。


 金輪下で追加装甲を着用すると厄介な事になる。あの姿になった私は、この国の守護者なので、それはそうであろう。

 なので、欲王は私に変身して目立たず飛び立てる場所を用意してくれた。公務で呼ばれる際はそこを利用していたのだ。


「ええとー、急に夕国に行く事になったという認識で合っていますか?」


 トゥーリンには事情を話た。例の変身場所も居候しているトゥーリン宅の地下から行くのだから、話さない訳にいかない。


「そう、シルバが予定より大分早く南海に到着しそうだから、私も追う事にしたんだ」


「にゃーが付いて行くから安心するのにゃ」


 どうも私は世間知らずキャラになっているらしく、周囲的には単独行動に不安を感じるらしい。まあ、この世界歴は確かに浅いので誤りでは無いが、何か侮られているようで納得はしていない。


「はー、それでお戻りはいつ頃になるのでしょうか?」


「シルバは一つ月の巡る頃って言ってたから、恐らくそれくらいかかると思う。通信は出来ると思うから、連絡はそっちでするね」


「ええー、分かりました。寂しくなりますが大事な用事であるなら仕方ありません。お待ちしております」


 私は急ぎ地下へと向かった。


 この場所は地下にも大きな施設がある。生命線である水の汲み上げを行っているので、一般人が立ち入る事は出来ない。

 私が変身に利用しているのも、地下水路の一つである。要人の脱出用に掘られた水路なので、出口は人の来ない谷底へと繋がっている。

 公務の際はそこから飛び立ち、空から舞い降りたような風で現地へと参上していたのだ。


 脱出経路なので、迷い道も兼ねている為、16本の通路に繋がる円形の大きな部屋がある。私はここでいつも変身している。

 いつものように追加装甲を召喚して、その内部に飲まれた頃に、シズキもやって来た。


「にゃーはまた背中の穴に入ればいいのかにゃ?」


「そうだね」


 背中のハッチの一つを開くと、シズキが高く飛び上がって内部へと入り込んだ。


「今回はちょっとゆっくり飛ぶのは有りにゃ?」


 シルバは今シルバビルに居るのは間違い無い。という事はブランワープ寸前という事だ。もはやあまり時間は無い。


「全速力で行きます」


「そうにゃ…、まあ急ぎなら仕方ねーのにゃ」


 シズキは高速移動は苦手らしい。私もハッチに乗って飛んだ事は無いので体感は分からないが、私の乗っている場所もハッチも飛行時の感覚はそう大差無いと思うのだ。


「では、出発するよ」


 水路内で高速飛行すると衝撃波で崩落しかね無いので、一般道の車くらいの速度で進む。

 水路と両端の隧道という構造が暗い中延々と続き、少し飽きてきた頃に外へと飛び出す。認識阻害を展開したまま、雲のある高さまで上昇する。

 シズキの言う夕国の一番大きな島までの方向はアダマスにインプット済みだ。雲の上の空を移動するので、何の障害も無い。

 一気に最高速度に到達し、目的地を目指した。


 ――


 シルバの転移がまだの状態で、夕国の首都がある大きな島に到達する事が出来た。島は未開の場所も多く山もあるので、一旦は人里を避けて場所に降りた。


 シズキは酔ったらしく向こうで吐いている。


 見晴らしのいい場所に降りたので、微かに夕国の首都の城壁が見える。独特な赤黒い色のレンガを積んで作られた城壁は、練国や欲国で見た物からすると見劣りする。

 海運は盛んなようで、帆船が多く行き交う姿が見える。

 町に入っておきたいところだが、入る事自体にリスクがあるらしい。まず、私もシズキも見た目をどう頑張ったとしても、外部の人間である事は隠せないそうだ。そうなると身分証などが無い為に、夕国政府から追われる事になる。ただ、不法に小船で上陸し、住み着く者も少なく無いので、夕国もそれ程強力に取り締まってはいないそうだ。

 なので、シルバの行き先が分かるまでは、変に目立たない方がいいそうだ。


「気持ちわりーのにゃ…」


 シズキがふらふらしながら戻って来た。


「そういうときは、仰向けに寝て大人しくしといた方がいいよ」


「これは一体何なのにゃ…」


 乗り物酔いという概念はあまり無いのだろうか。シズキが獣車で酔っているのを見た事は無いし、酒に酔っている事も無かった。


「乗り物酔いかな。こっちでも船に乗って気持ち悪くなる人居る乗ってな。今まで見なかったけど、まあ、それと同じ状態だよ。普段の平行感覚や視点を自分が制御出来ない状態で変えられ続けると、体が異常を感知してそうなるみたいだよ」


「ユズカは速く飛びすぎなのにゃ…」


 まあ、極音速で飛ぶ機会はそう無いだろう。


「シルバが動くまではどうする?」


「この島はあったけーから、食べれる物がその辺にあるのにゃ。一旦は食料を確保して待つのにゃ」


 そう言われて周囲を見ると、割と近くにミカン的な果実の成っている木が何本かあった。


「あの果実は食べられそう?」


「あれは食べれるやつなのにゃ」


「近いし、私が取ってくるよ」


 そう言ってシズキが見える範囲にある木の果実を取った。匂いからして柑橘系の果実だ。ハンドボールくらいのサイズだが、皮が結構分厚くて果肉は見た目程は多く無い。味は強烈な酸味があるが、後味が甘いので、意外とそのまま食べられる。


「シズキも食べる? 乗り物酔いのときは水分も取った方がいいよ」


「何も食べたくにゃーだけど、そうも言ってられないのにゃ。もらうのにゃ」


 シズキは普通のミカンでも割るように、その果実を素手で剥いて、果肉を食べ始めた。最初は酸味でむせていたが、段々と食べるスピードが加速して、結局は残りの3個全部食べてしまった。


「そんなに食べて大丈夫?」


「これは今のにゃーに丁度いいのにゃ。もっと取ってくるのにゃ!」


 そう言ってシズキは木の方へ行くと、両手いっぱいに果実を抱えて戻って来た。


 ――


「はぁー、助かったのにゃ」


 シズキは20個は果実を食べだろうか。お陰で体調は戻ったみたいだ。


「逆にそんなに食べると、普通は良くないけどね」


「にゃーは食べられときに食べておくのにゃ」


 柑橘の匂いをさせながらシズキが手をペロペロと舐めていると、シルバの位置情報が急に変化した。


「シルバが動いた!」


「何処なのにゃ?」


「待って、今調べる」


 アダマスにシルバの位置情報を確認すると、この島より西にある別の島に居る事が分かった。


「ふーん、その島にいるのにゃ? そいつは結構厄介にゃ。シルバの居る島は、夕国に逆らっている海賊の居城なのにゃ」






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