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欲の始まり夢の終わり4

 欲国に滞在していても懐柔行為ばかり続いて鬱陶しいので、早めに南海に向かう事にした。

 国のトップに向けてその意向を伝えたところ、あっさりと受け入れられた。どうやら相手も出て行ってもらいたいと思ったいたようだ。


 事はあっさりと進み一週の内に旧流国派がクーデターを起こして、武国派の追い出しに成功した。その際、交易都市ヤクトと北部主要の港町であるドゥカとその周辺地域は欲国に献上され、その代わり流国は欲国からの庇護を得た。

 同時に湖西の小国も軒並み欲国との同盟を表明して、対武国への南北に繋がる防衛ラインを形成した。

 この動きを受けても、武国は進軍の意思を示さなかった。これは欲王の言った通りになったのだ。

 欲王は天人の加護があったからこそ武国に攻められなかったと国内外に広く吹聴して、それは現実であるかのように受け入れられた。

 武国が未来を知る事が出来るとして、天人である私が離れた瞬間に進軍して来るのではと質問してみたが、それも問題無いらしい。武国が今更攻めて来ても、そして来なくてもどちらでもいいらしい。

 詳しい事は教えてくれなかったが、欲国建国の一番難易度が高かったポイントは既に過ぎ去っているそうだ。その起点が成ったからこそ、後は多少手順が変動しようが、結果は変わらないそうだ。


 とにかく、私の目的というかあの予知の結果が変わったので、前進している。

 私の見方ではあるが、世界の情勢も良い方向に進んでいる気がする。

 次の予知である参人の住む町を南海に作るというミッションも達成したい。という訳で参人の一角であるヤマビトの話を聞こうとしている。

 ヤマビトの知り合いはドリス1人であり、ドリスに会うにはバイスに会う必要がある。そうなると共演NGであるシズキを連れていく訳にもいかないので、私とシルバで会う事にした。


 バイスは金輪下の冒険者組合に居る。冒険者組合は欲王のお墨付きがあるので、その拡大を阻害される事は無い。商売の多い欲国にとっては新参だが、バイスの手腕によって冒険者の数は増加していっているようだ。

 ドリスの目的は謎なのだが、バイスが持ってしまった精神網の拡大を望んでいる。ヤマビトは独自にして最大の精神網である大地の輪を持っているが、ドリスはヤマビト以外の精神網の発達に最大の興味があるらしい。故にドリスはバイスを庇護している。直接バイスに介入する事は無いが、バイスが避けられないような難局が来たならば、助けるつもりのようだ。


「あの化け物は居ないようだな」


 バイスの言う化け物とはシズキの事らしい。かなり恐れており、過去の戦争でのシズキの所業を間接的に体験しているのだそうだ。


「トゥーリンのところに居るように言ったからそうしてるでしょ。匂いもしてないなら黙って付いて来てもいないよ」


 バイスはこれまでで最大の物件に事務所を構えており、豪華な部屋に居るが、過去最大に縮こまった姿をしている。


「当たり前だ。あいつの匂いが少しでもしたら俺様は逃げるぜ。それだけあれは危険なんだよ」


「そうなの? でもシズキは私の方が強いとか言ってたよ」


「生き物の危険度は強さじゃねーんだよ。見境なく周りを殺す構造を持っているかどうかなんだ。奴は生きる毒みたいなもんだ。危険度は最悪なんだよ」


 バイスの言う事は立場による違いな気もする。多くの魚にとってイソギンチャクは危険だが、一部の熱帯魚からしたら共生相手なのだ。


「今日は居ないから大丈夫だよ。それに用事があるのはバイスじゃなくてドリスさんだし」


 ドリスは大体はバイスの近くに居り、謎のクッション状の物体の上に寝転がっている。今日もそうだ。


「儂に用事とはな。大抵の事は無駄じゃろうが、まあ言うてみるがいい」


「ヤマビトが他の参人と暮らすというのはあり得ますか?」


 ドリスの金色の目がシルバを見てからこちらに戻った。


「無いな。ヤマビトの暮らしは魔国で完結しておる。外に出る必要なぞ無い」


「でも、ドリスさんはここに居るじゃないですか」


「儂は変わり者なんでな。魔国では満足出来ない体になってしまったのじゃ。儂の他にはおらんよ」


「それでも国を離れる人も居る。ヤマビトは何があれば国を出て外に住みますか?」


「魔国で味わう以上の快楽があれば出るかもしれんの。特に肉欲を満たす快楽があればの話じゃがな」


 その話を聞いていたバイスがヘルメットの奥で笑う。


「あの国の快楽はおかしいぜ。そこら中の奴が盛ってやがって、娼館が成立しないんだ」


 もはやどんな国なのか想像もつかないが、出来る限り行きたくはない国だ。しかし、ビシムの得意分野な気がする。ヤマビトを国外に出す要因はモリビトの技術でなんとかなるかもしれない。


「そうだとして、ドリスさんはバイスが行けば付いて行くんでしょ?」


「そうじゃの。儂は冒険者の精神網の中心から動くつもりは無いの」


 最悪の手段として、ヤマビト1名だけを確保するという手段もある。ただし、この方法で予知達成となる保証は無い。


「俺様は儲からない事はしないぜ? 俺様を動かしたければ、金の匂いをさせる事だな。今のところ欲国より金の匂いがする国は無さそうだがな」


 バイスの説得はなんとかなりそうだ。ヤマビトの移住は方法を考えないとだが、やり方はある気がする。そうなると目下の目標はウミビトの探索になる。シルバに心当たりがあるそうだが、どうにも乗り気では無いのが気になる。


 ――


 バイスの所からの帰りなのでシルバと2人きりだ。

 トゥーリンの住む地域は高級住宅街であり、そういった地域に向かうと人工水路が増えてくる。金輪下の更に地下には地下水脈があり、そこから金輪の3本の足が水を吸い上げているらしい。水を自由に使える者と権力者はイコールなのだそうだ。


「シルバはウミビトに会った事がある?」


 何事があってもトーンを変えないシルバだが、この話題だと少しため息気味になる。


「会った事はある。ウミビトは強者を求める種だ。故に闘う事が対話となる事が多い」


「という事はシルバはウミビトと闘った事があるって事?」


「そうだ」


 特に勝ち負けを語らないという事は、闘った事自体があまり良くない結果になったのだろう。


「ウミビトと闘うのはお勧めじゃない?」


「ウミビトは強靭だ。我々にとっては致命でも、あちらにとっては遊びという事はよくある」


「そんなに強いんだ。でも私達も結構強目だよね? シルバは闘技の達人だし、シズキも強いでしょ。それに私も追加装甲あればなんとかなるし」


 そう言った私を見てシルバは足を止めた。


「何者もウミビトと闘う事は許可出来ない」


「え、何故? シルバは昔闘ったんでしょ?」


「ウミビトは闘った相手との生殖を求める事が多い。しかも奴等はどんな種とでも生殖可能な器官を持っているのだ。闘う事はすなわち生殖と同義だ。それでもユズは闘うと言うのか?」


 私が闘うかと言うと完全にNOだが、そうなるとシルバは過去にウミビトと生殖したという事なのだろうか。

 そうして暫く忘れていた事を思い出した。シルバは妻帯者であり、子供も居るという事実を。

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