欲の始まり夢の終わり3
ウミビトを探しに行くという目的が出来たが、まだこの地を離れる事が出来ない。
というのも、欲国の建国を盤石にするために内外、特に武国に対して大きな牽制をしておく必要があるのだそうだ。
欲国の王はそのままあいつがやるので、奴が欲王なのだが、とりあえず手近な領土は取っておくつもりらしい。
私が建国の話をする以前から、旧流国の復権派に資金援助をしたり、湖西の小国の要職に人を送り込んだりしていたそうだ。
当然、表立って欲国がそれらの地域を取りに行くのでは無く、今回建国を機に分離独立や同盟を進めて、連合国として立ち回るつもりなのだそうだ。
そうなると武国は当然黙っていないのだが、欲国に恭順を示す国には天人の加護があると知らしめて、武国を恐れる事は無いという雰囲気作りをしたいらしい。
天人は各同盟国や分離する国の宣言式に参加して、武国がそこを攻めて来た場合は、守護するという活動が求められる。
ただ、奴、欲王の話では武国は攻めてこない想定のようだ。未来を視る事の出来る者が天人相手に正面から攻めるような馬鹿はしないのだという。私の力も大分買いかぶられたものだと思う。
現在、地の利が確保されているのも大きなようだ。武国は危険な西の荒野を越えるか、長時間の行軍をしないとこちらを攻められない。こうならない為に旧流国を取ったのだが、支配が上手く進んでいない事もあって、逆にリスクになっているのだ。これも欲王が建国前から仕掛けていた国だろうし、そうしていなければあっさりこの周辺まで武国が攻めて来ていた事であろう。
そんな訳で今の私は外出を制限されている。月の形が一周するくらいは滞在しないと駄目らしい。滞在場所はトゥーリンに用意された大きな屋敷に間借りする感じなので、使用人付きであり至れり尽せりではあるのだ。
欲王の贅で飼い慣らそうという意図が見え見えな生活なので、正直居心地は良くは無い。日常的に使用人から色目を使われる。いついかなるタイミングでも致して下さい感が強いので、3日目くらいから使用人の接近は断った。
私、シルバ、トゥーリン、そしてシズキでこの屋敷に滞在しているが、皆、使用人のアタックはどうしたのだろうか。
私は定期的に呼ばれるので、皆とまとまって会う時間があまりない。これも欲王が個別に籠絡する策なのではないかと疑っている。
用事を済ませて屋敷に戻っても、昼過ぎの変な時間に誰が居る訳でもない。出先で食事も出たのでお腹も減ってない。
この屋敷には浴場が完備されている。火災予防の観点から浴場は限られた者しか持つ事が出来ない。浴場持ちは金持ち権力持ちのステータスのようなものだ。この屋敷の持ち主が欲王であるならば、当然のように浴場を持つ事が出来る。
風呂に入れる事は私にとっては助かる。屋敷に居ても食事するか寝るか風呂入るくらいしかないのだ。暇なときは風呂に限る。
浴場には一人で入る事にしている。当初は使用人が色んな世話を焼きに来たが、それはもう別のお風呂だ。リラックスが目的なので、一人で自由に入らせてもらっている。
屋敷の浴場は広い。センスもよくて天井から自然光が入るようになっていて明るいし、タイルの柄も落ち着いていて質も良く滑らかだ。
風呂に入るときは防具を解除している。と言っても首飾りになっているアダマスに収納されているので、即時展開可能だ。
昼間の風呂で湯に溶けていると、脱衣所の辺りで物音がした。ここの使用人は物音を立てず裏方をする事が出来る。そうなると何か予期せぬ事が起きているという事だ。少し緊張して胸元のアダマスを確認するように触って、様子を伺った。
「にゃーも入るのにゃ」
そう言って浴場に入って来たのはシズキだった。
「あのー、わたしも入りますね」
何故かトゥーリンも入って来た。
「何、何?」
「ユズカの姿が見えたから後をつけて来たのにゃ。そしたら浴場に入って行ったからにゃーも一緒に入る事にしたのにゃ。トゥーリンも居たから誘ったら来たのにゃ」
「はいー、そうなんです。前に教えて頂いた(しゃわー)の改良版が出来たので見て頂こうかと思いまして」
トゥーリンは拳くらいの箱からシャワーが伸びたような装置を持っていた。
「それは後でもいいでしょ」
「まあ、そう言うなのにゃ。ユズカがこの国の奴に丸め込まれてないか、心配で来たのにゃ」
「私は別に大丈夫だよ。早くこの国の用事を済ませて、やらなきゃならない事に戻りたいだけ」
「そのやらなきゃならない事は、この国が出す快楽よりも強いのかにゃ? ここではどんな欲でも叶いそうなのにゃ」
シズキはそう言うと私の正直の浴槽の縁に股を開いて座った。私は思わず視線を逸らした。
「誰かに叶えてもらう欲なんて気持ち悪いだけでしょ。別に気持ち良さだけが目的で生きてないし、欲国が私の望みを叶えるのは無理だから」
「ユズカの望みは何なのにゃ?」
「それは言えないけど、私が自分で叶えないと駄目な事だから」
「それは誰かに誘導されているんじゃないかにゃ? やらないと駄目だと思い込まされている、そんな望みじゃないのかにゃ?」
「それは違うよ。私は私の思う真っ当に生きたいだけ。今のままじゃそれが難しいから、それを変えるのが望み」
私の話を聞いてシズキは自分の太ももをピシャリと打つ。
「大体分かったのにゃ。ユズカがユズカらしく生きるにはでっかい邪魔者が居るのにゃ。そしてそいつはユズカの死に繋がっているのにゃ。それならにゃーがその邪魔者を殺してやるのにゃ」
「そんなに簡単じゃないよ」
「簡単じゃない事は分かっているのにゃ。そいつは多分にゃーの事も簡単に殺すのにゃ? そんなのが相手なんて、楽しみなのにゃ」
シズキは肝心な事は何も知らないはずだ。しかし、感が鋭いので私の態度から大枠は掴んでしまっているように感じる。
「誰かを倒せばいいとか、そんな話じゃないから。それにそんなに大した話じゃないし、後、私の前にすわるなら脚閉じてよね」
ここは話が逸れるような事を言っておこう。
「へー、シズキさんって男の人みたいなのがあるんですね」
「にゃーは男ではねーのにゃ。ちゃんとこれの裏に穴もあるのにゃ」
シズキはそう言うと股にあるモノを掴んでペロンとめくった。
「わー、本当だ。こんな構造になっているんですね。興味深いです。これってどういう機能があるんですか?」
トゥーリンよ。何という質問をするのか。シズキもなんか調子に乗った顔をしている。
「ユズカも興味あるのにゃ? 見ていくかにゃ? でも前に大きくなったところを見られたから、もういいのにゃ?」
「あのー、大きくなるってどういう事なんでしょうか? 大きくなるのが機能なんですか?」
「ええーい! 神聖な風呂で下世話な話をするんじゃねぇー! そう言うのは私の居ないところでやれ! 分かったら風呂から出ろー!!」
あまりの品の無い話に思わず激怒してしまった。
「あ、あのー、(ふろ)って何ですか? 何かユズカさんの信仰と関係があるんでしょうか?」
「うるせー!」
私は勢いで2人を浴場から叩き出した。




