戦争の終わらせ方20
シズキが新しい国の将軍に勧誘されている。これはどういう流れなのだろうか。
この後、シズキが受けて邪魔な私は消されるというシナリオなのだろうか。
しかし、準備してきた仕込みで見ているシルバからなんの危機感知の報告も無い。通信が遮断されているのかと思い念話で確認してみたが、特に妨害があるようには感じ無い。
私は追加装甲がある事をあいつには見せているのだ。だからこそ、私を消すなら追加装甲が来る前に仕掛けてくるだろう。
なので、私の仕込みは既に追加装甲を着ているという事なのだ。サイズを限界まで圧縮して、それでも余った部分は強めの認識阻害で隠している。
私だけしか居ないという餌で、今回の謀の全貌や首謀者、実行者を釣ろうとしているのだ。
「空の軍と将の威光だけで武国を躱すつもりなのかにゃ? だとしたら甘すぎるのにゃ」
「なんでも奪えばいいと思っている蛮族どもとまともに戦をするなど愚かな事だ。それに奴等を滅ぼす事は不可能なのだ。ならば前進しかしない獣は躱すのが最良だろう」
「深く入り込んだ獣だけをにゃーが狩るという事なのかにゃ?」
「そうだ。手応えのある獣が狩れる。本望だろう?」
「そうして威光も大きくなるという訳にゃね」
立体映像のあいつは答える事なく、手をひらひらとさせるだけだった。
なんというか、シズキとあいつの間にはまだ約定のようなものが無いように見える。今まさに部下に引き入れる為の駆け引きをしているかのようだ。
「なんか、込み入った話になりそうだから、私は席を外そうかな」
私の言葉を受けてシズキがニッと笑う。
「いやいや、ユズカも関係ある話にゃ。自分の目で見ていない奴に、よーく分かるように話てやらにゃいとにゃ」
「私が何か見落としているような物言いだな」
「そうにゃ。それからにゃーは将軍なんてやらないのにゃ。中身の無い軍も無意味にゃ。それに、罠に掛かった獣を肉するような仕事はにゃーの好みじゃないのにゃ」
「ほう、では代案があるとでも言うのか? 鮮血獣よ」
「威光を立てるなら、大きくて力がはっきりしていて、底の見えないモノがいいのにゃ。そんな都合のいい存在をお前もにゃーも知っているのにゃ」
立体映像のあいつは、指で面を二度程弾いた。
「それはすなわち天人という事か?」
「そうにゃ。天人の加護を受けた国ならば、武国も手出しは難しいのにゃ」
ん?天人? それは私という事なのか? 思わず該当人物が他に居るかと思い部屋を見まわしたが、あいつとシズキからの視線を感じただけだった。
「まさか私が何かするとかはないよね?」
「何を言うのにゃ。ユズカが新国の守護者になるのにゃ」
「いやいやいや、そんなの出来ないよ! 私急いでやる事あるし!」
「最初だけでいいのにゃ。最初に力だけ示して、後は姿を似せた何かをあいつが用意して、勝手にやるのにゃ」
「なるほどそう言う事か。確かによい考えだ。考えついてしまえば、これしか無いという感じだな」
何がなるほどなのか、まるで分からない。
「えっ、でも私何かしないといけない事には変わりないんだよね? 人前でしかも大勢の前で何かするとかは無理だよ」
「よく言う。私の館で私を握り潰そうとしたではないか。敵意を持って私に触れた者など、これまで居なかったというのに、あれ程大胆な事が出来るのだ、国作りの祭事など些事だろう」
なんだか私が国の守護者をやる流れで話が進んでいる。そんな事で武国との戦争が回避出来るとは思えない。
「私でいくのはお勧め出来ないというか、守護者は無理でしょ」
「既に聖王国の王都で、巨岩の悪鬼を退けたのだろう? ならば、聖王国とそして世界樹教の守護者としても理解される。武国を悪とするなら、善なる守る存在も分かりやすい。これは長い統治が可能になるぞ」
確かにそんな事は過去にあったが、あのドリスを止めた一軒ってそんな話になっているのか。
「もう諦めるのにゃ。ユズカがやるしかないのにゃ。それにユズカはあいつとも組んで何かやってるのにゃ? そうであれば、望みも叶うんじゃにゃいか?」
まあ、確かに新国が武国に攻め滅ぼされなければ私の目的は達成される。
「いや、でも、私じゃ無い方がいいと思うけど」
「練国でした話だが、正直答えが得られるとは思っていなかった。私が味わった屈辱を武国にも味合わせてやろうと思いけしかけたのだ。だが、まさか答えは既にあったとはな。さあ、私に協力しろ。そうすれば明日にでも国を建ててやる」
物凄く気乗りしないが、これしか答えは無い。
「う、分かったよ。やる。でも、大勢の前で話す事は台本を書いてもらうからね!」
あいつは、仮面の下で確かに笑った。
「ふっ、そんな事を気にしていたのか。私が荘厳な祝詞を書いてやるから安心せよ」
――
もう夜も遅いので泊まっていけと引き留められたが、あの場に居るのが嫌すぎるのと、完全に無駄になったこの仕込みを早く解除したくて館を出てきた。
かなりイレギュラーな対応をしているので燃費が死ぬほど悪いのだ。シルバの術力が限界に到達すると、一気にその場で巨人化してしまう。
足早に歩く私をシズキが鼻歌まじりに付いて来る。
「そう言えばにゃーに用事があったんじゃにゃいか?」
「まあ、あったけど、もう片付いたからいいよ」
「どんな用事だったのにゃ?」
当初はシズキがあいつ側かどうか確認しに私が餌となったのだが、完全に勘違いで全く関係無かったし、途中からそれどころでは無くなった。
「ちょっと確認したい事があったけど、私の気のせいだったから、この話は終わりね」
「もしかして、にゃーがあいつの仲間かと思ったのにゃ?」
鋭く気付いてくるのがシズキの厄介なところだ。
「大体そんなところだよ」
そう言うとシズキは前に回り込み、私の歩みを止めた。
「にゃー、これまで何にも属さず、誰にも従って来なかったのにゃ」
「まあ、そうだろうね。シズキは何でも出来そうだから」
「違うのにゃ。にゃーの力はにゃーには扱いきれないのにゃ。だから自分を守る事にしか使ってこなかったのにゃ。だから、にゃーの力が扱える存在を待っていたのにゃ」
シズキがゆっくりと一歩踏み込んで来た。
「そうなの? 今日のあいつは最低な奴だからやめといた方がいいと思うけど」
「違うのにゃ」
「え、何が?」
「にゃーを扱えるのはユズカしか居ないと分かったのにゃ」
「いや、そんな事ないでしょ。私なんか自分の事でいっぱいいっぱいだよ。それに力も借りまくりで、全然返せてないしね」
「そう言うところなのにゃ。つい力を貸したくなるのにゃ。それがユズカの力なのにゃ」
「はあー?、私は新国の守護者もやんないとだし、これ以上ややこしい事言わないでよ」
今日はもう、色々と解除して早く寝たい。
「そんなに複雑じゃないのにゃ。にゃーも他の連中と同じでもう貸したのにゃ。そうしてそれは返す必要はないのにゃ。皆、恐らく望んで貸しているのにゃ。だからにゃーもそれに乗るのにゃ」
結構大事な事を軽い乗りで言われた気がする。この情報量の多い状況に甘んじて有耶無耶にしない方がいい。
「今、色々あって頭回ってないけど、大事そうだから確認するね」
「何にゃ?」
「これは私の望みでもあるし、預けるだの貸すだの言われたけど、結局はこれまで通り同じでいいって事?」
シズキの顔がパッと笑顔になる。
「そう言うことにゃ!!」




