戦争の終わらせ方19
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妙な事になった。奴等にゃーの強さを知りたいのだと言う。色々と調べているのに、今更何をと思う。
一対一で手の届く範囲に相手が居るなら絶対に負けないと言うと、奴等は見せてみろと言う。
そうならばふっかけてやろうと思い、槍の傭兵とやらせろと言うと、あっさり願いは叶ってしまった。
やり方は闘技だという事で気乗りはしないが、最初に言った一対一で手の届くという、こちらの条件に合ってるはいるので、奴等の手のひらの上という感じがしている。
闘技の決め事を聞いたら、いよいよ退屈なので、縛りのある闘いはにゃーには有利すぎる、相手は納得しているのかとふっかけたが、意に介さないようだ。
既にこの闘技は行われる事が決定しているようだ。これは逃げると面倒な事になると思い、やる事はやるようにした。
それにどうせ槍使いとはやりたいと思っていたのだ。
直前になって衣装が見窄らしいと言ってきた。どうせ何を着ても破れるから意味が無いと言っても話を聞かない奴等に囲まれている。
仕方ないので腰布だけは変える事にして、なんとかこの場をやり切った。本当に面倒になって来たので、奴等と絡むのはこれを最後にしよう。
闘技の決め事は単純だった。相手を殺すな、仮に闘技で死ななくても3日以内に死ねば殺したとみなすそうだ。それ以外は自由で武器の使用も問題無い。相手を先頭不能にするか降参させれば勝ちだ。
後は戦闘時間が決まっており、時間内に勝負がつかない場合は審判者による採点の高い方が勝ちとなる。
直前になってまた衣装がどうのと騒ぎだしたがこのまま行く事にした。どうせこれから行われるのは見せ物なのだ。いい加減、興行主の意に沿うのも飽きてきた。
闘技場への扉の先には石板を敷き詰めた橋が伸びている。石板はかなりの硬度でその下は硬めた土のようだ。
平らな安定した場での戦闘で、闘技者の実力だけが勝敗に影響するという作りなのだろう。
橋を進んで行くと同じ作りの四角い舞台に到達した。槍使いは既に到着しており、こちらを待っていた。
「その風貌、やはり拳星殺しが今日の相手だったか、この目で見て確信したぞ」
「その名を使って利が生まれないようにしたんだがにゃー。まだ使っている奴が居るのは驚きにゃ」
過去の過ちを消してきたが、過去にあった事実は無くならない。そんな当たり前を突きつけられる思いがするのも久しぶりだ。
「闘いの先に利を求る者には無用の名よな。某には意味のある名故に覚えておるわ」
「今日で思い出すのも嫌にしてやるのにゃ」
「我が槍はそう甘くはないぞ。拳星の技も知っておる。其方の力も解るぞ! 重く速い拳であろうな!楽しみだ!!」
向かいの男が槍を構えると、槍が白い光のようにぼんやりと消えて見える。
昔聞いた槍星の技だ。槍星は槍の姿を掴ませ無い、完全なる突きを放つという。その一突きが全ての動き全ての利を兼ねるのだそうだ。
技における力量はこちらが負けている。武としてぶつかればこちらに勝ちは無い。四肢を破壊されて床に転がされるだろう。
それ程までに技は力と速さを凌駕する。研ぎ澄まされた技は剛と数を覆すのだ。
「にゃーの技より強いのにゃ。でもにゃーを武だけで倒そうというのは、それこそ甘いのにゃ」
丁度にゃーが話終えると、開始の鐘の高く響く音が鳴った。
予想通り、間合いが長く有利な相手はそれ程距離を詰めてこない。技の利があれば当然の動きだが、それ故に甘い。
こちらの攻撃が届かないと思っている相手には届けてやるのが一番良い。床の石板を砕いて、その下の土までも礫弾として撃ち出す。
闘技場は砂煙で何も見えなくなる。見物をしている奴等にはいい気味だ。
槍だけで大量の礫と砂の弾は防ぎようが無いだろう。不可視の槍もこの砂煙の中では光的になり下がる。
床はかなりの範囲で破壊するように力を込めた。相手とにゃーの間には大きな窪みが出来ている。なので、そこを一気に攻める。
相手は前に居た敵が下から来るのだから咄嗟に対応出来ない。上下左右が入れ替わるような方向から侵入して、槍ごと持ち手の指を蹴り砕く。
後は気配を消して距離を取りながら嫌がらせをすればいい。
砂煙はすぐに収まったので、槍使いの憔悴した顔が直ぐに拝む事が出来た。
利き手指の骨はほとんどは折れており、総金属造りの槍も微妙に折れ曲がっていた。
余裕のあった表情は焦りに満ちており、汗に砂が付着して擦り傷の血で全身が汚れていた。
「ひ、卑怯だぞ!」
「そうにゃ。でも闘技の決め事には反していないにゃ。現にお前は死んでいないのにゃ。これが闘技で助かったのにゃ」
「負けを認めろと言うのか!」
「そうにゃ。お前は武の一騎討ちでは強いのにゃ。戦場でも開戦の声が上がるところでは無敵にゃ。でもお前は眠っていても強いのかにゃ? そうでないならにゃーには勝てないのにゃ。にゃーはこうやって拳星も殺したのにゃ」
「ぐっ、何という悪辣な」
まだ戦意があるので、だめ押しに指弾を飛ばして顎に一撃を入れると、槍使いはそのまま地面に倒れた。
「相手は倒れたのにゃ。にゃーの勝ちにゃ。早く死んで無いか確認するのにゃ」
そう言うと壁の隠し扉からこの闘技場の審判者らしき奴等がぞろぞろと出て来た。
そうして槍使いの生存は確認されて、にゃーの側の鐘が鳴り勝利が決まった。
しかし、かなり運営の意図に逆らったので、逃げる事も考えながら動かなくてはならない。
逃げる道筋を考えていると聞いた声に呼ばれた。
◆◇◇
何も見えないままシズキが勝利してしまった。この闘技場の主は、想定していない結果なのかオロオロしている。
「あのーすいませんが、闘技者のシズキ、あの勝った方と話をしたいんですがいいですか?」
「いいだろう。私もアレには興味がある」
そう言うとボックス席の横のドアが開けられた。シズキの居る位置まで遠いが、かなり耳がいいからここから呼んでも聞こえるだろう。
「おーい、シズキー」
そこまで言っただけで、あっと言う間にシズキはドアの中に入って来た。
「何にゃ、ユズカも観てたのかにゃ」
「観てたも何も、殆ど煙しか見えなかったけどね」
「まあ、なんでもいいのにゃ。にゃーの用事は済んだから一緒に行くのにゃ。槍の奴も予想通り詰まらなかったのにゃ」
「あんな戦いかたいいの? 反則なんじゃない」
「にゃーの勝ちなのにゃ。あれをやって欲しくなかったら、決め事に舞台の破壊は禁止とした方がよいのにゃ」
「随分と言ってくれるな緋毒よ」
立体映像の奴がこちらに話しかけて来た。
「何者にゃ。また一番酷い名前を言ってくれる奴なのにゃ。にゃーの名前はシズキなのにゃ。覚えておくのにゃ」
「シズキか。まあなんでもいいが、どうだ?私に仕える気は無いか? 今は新しい国を起こすのだが、その国の将軍の椅子に座らせる事が出来るぞ」
「緋毒の名前を知っているのに、にゃーを将軍にするなんて、中々面白い事を考える奴なのにゃ。それでにゃーに何を求めているのにゃ?」
「簡単な事だ。私は中身の無い名の知れた軍隊が欲しいのだよ。その将に緋毒、いやシズキがなるのは合理だとは思わないかね?」




