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戦争の終わらせ方18

「それでバイスはどうするつもり?」


 仮に建国までに私達が殺害されるとして、バイスはこの状況をどうするつもりなのか気になる。仮にもここに来るまでは殺されると思っていなかったのだから、今は生存について何か考えているはずだ。


「あんな怪物や練国で見た手練れを揃えている奴が襲ってくるんだ。ここまで来たらお前等の近くに居るのが一番安全なんだよ。化け物には化け物をぶつけるのが一番だ。最後の手段もあるが、それは使いたくはねぇ。早くあのでか物を出して俺様を守りやがれ」


 何という他力本願で失礼極まりないお願い事だろうか。

 バイスの話を聞いたドリスがこちらに視線を向ける。


「わしならばいつでも助けてやるぞ? ただし、多少の言う事は聞いてもらうがの」


「黙りやがれ。俺様は指図は受けない」


 どうやら、バイスはいざとなればドリスに助けを求めるようだ。あの2人もよく分からない関係性だ。

 そして一番妙なのは、私達に殺意が向いているという事だ。

 仮に事実だとして、それを私達が知ってしまっているというのはお粗末な話だ。知られる前に事を起こした方が成功率も上がるという物だろう。

 気付いた時には既に遅しという事であれば、今現在バイスの鼻やシルバの探知に何も反応が無いというのもおかしい。


「私達が本当に狙われているのか、確認する方法は無いかな? 今私達がこんな話が出来ているという事は、相手はまだ何も行動していないというこのだから、これはあまりにも遅くないかな? そうなると殺意自体が勘違いの可能性もある気がする」


「俺様が先手を取っているだけだろうが! 大体、お前等を殺すには並の兵力じゃ無理だ。相手もこの区画ごと燃やすか潰すくらいはしてくるだろうよ」


「そこ。そこが一番疑問だよね。どうやって私達を始末するのか考え無いといけない。そうなると不意を突いた方がいいし、誰が止めを刺すのかという話になるよ。シズキがどれだけ強くても、私が天人の姿になれば逃げ切れる」


「そうなったらそうしろよ。ただし俺様も連れて逃げろ」


 バイスは人差し指を私に向けてそう言い放った。


「想定だけで話を続けても意味はあるまい。相手に殺意があるのかどうか確認したらどうだ? 殺したければ襲って来るだろうし、そうなれば逃げればよいだろう。殺意がなければ何も起きはしない」


 シルバが場を見兼ねて正論を投じた。


「間抜けかよ! 聞いてはいそうです、殺したいと思いますなんて言うか!」


 シルバの正論にバイスの言いたい事も分かるが、それでもシルバのやり方で分かる事もあると思った。シズキが相手側に着いているのか否か、少なくともそれを確認する事は出来る。

 誰が敵で誰が味方なのか、それは今重要な情報だ。


「私に一つ考えがあるんだけど、いいかな?」


 ――


 夕暮れの金輪下を1人歩いている。別に大きい体格でも無い私が特に明確な武装も無く居れば、明らかに弱そうに見えるだろう。

 私が向かう先はシズキと別れたあの建物だ。今、私達の殺しの算段をしているのであれば、場所はあそこだろう。そこに直接単身で向かう。相手からすれば鴨葱状態だろう。


 たが、実は仕込みがしてあり、シルバもバイスも私の状態を見れているのだ。


 1人歩き、例の豪華な建物に向かっているが異常は無い。やがて遠くに門番が見える位置まで来たが、何も無い。あちらも私を認識しているようだが、動きは無い。


「すいません。こちらにシズキという人が来ていると思うのですが、ここに呼んで頂けないでしょうか?」


「急な要件であるか? 今日は客人も多忙であるが故に、明日改めて来られるのがよいのだが」


 明確に今日は帰れの意向を感じる。私がターゲットなのであれば、この機にどうにかしようとするだろうが、何かして来る雰囲気は無い。


 私が思案しながら、次の言葉を選んでいると門番の反応が少し変わった。


「主があなたに会われるとの事だ。案内しよう」


 門番はどこからかサインをもらっているようだ。館の方から訪問者は監視されているのだろう。

 しかし、私の要件を聞いてから態度が変わったので、私自体が警戒対象では無いのだろうか。今はまだよく分からない。


 門番に案内されて屋敷の中に入ると、大きな人工いけのある庭園が広がっていた。文化的な事は分からないが、手がかかっておりかなりの資産のある者の館である事は分かる。

 池に架かった橋を渡る形式で母屋へと入る。門といい建物の豪華さといい、練国の地下空間で見たあいつの館と同じ形式だった。


 貴賓室や何かに案内されるのでは無くいきなり地下に向かう事になった。ただ、地下と言っても豪華さは変わらず、謎光源の連続で昼間の外のように明るい。

 何個かの部屋と廊下を経て広い空間に出た。広いと言っても私自身は個室に居る。ちょうどスタジアムのボックス席に居るかのようだ。

 部屋には5人程の使用人に囲まれた主らしき人物が居た。濃い口髭の中年男性で、カラフルな布を頭に巻いている。ターバンのようだが、長髪のように後ろに長く伸ばしている。


「ようこそ我が闘技場へ。さあ、そこへお座りなさい。もう間も無く始まりますよ」


 そう言われて使用人の引いた椅子に座った。


「知人に会いに来ただけなのですが、私がこの場に居てよいのでしょうか?」


「よいのです。我が王の命ですから」


 そう館の主人が言うと、部屋の中央にある謎の玉が光と煙のような物を発生させて人の姿を写しだした。


「金輪はどうだ?ユズカ」


 顔は紙か布の面のような物で隠れているが、この声は間違いなく練国のあいつだった。映像とは言えボスが直接出て来た感じだ。


「どうと言われましても、ここは金輪下なので見上げるばかりです」


「あれを見て大して驚いていないところを見ると、天人であると言うのは事実なのかな?」


「そんな噂を信じているのですか? 私は人ですよ」


「話に興を見出さないところは変わらないな。まあ、今日は試験も兼ねた観るに興を見出す場だ。ユズカも観ていくといい」


 奴がそういい終わると、闘技場の明かりが切り替わり、戦闘が行われるであろう舞台に光が集まった。


 舞台に繋がる石の橋があり、橋は壁にある門と繋がっている。あの門から闘技者が入場して来るのだろう。

 やがて門が重い音をたてながら開き、中から闘技者が出て来た。

 一方からは槍を持った坊主頭の武人風男性が入って来た。あれが私達が探していた槍の傭兵団の人なのだろうか。

 もう一方からは誰も入場してこない。というか何か揉めている雰囲気を感じる。管理スタッフらしき人が門付近で右往左往しているのだ。


 槍の人は既に舞台に到達しており待っている。もう一方の門はようやく落ち着いたのか、誰かが出て来た。


 その人物は赤い髪に三角の大きな耳に赤い尾の生えた姿、シズキだった。

 いつもと違ったのは腰布が豪華で長い物に変わっていた。


 これから行われるのはシズキ対槍の傭兵による闘技のようだ。

 闘技は性に合わないと言っていたシズキが出場しているのはどういう事なのだろうか。


 一つ分かるのは、シズキは私がこの場に居る事に気が付いていないようだった。




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