戦争の終わらせ方17
闘技は大きな都市には大体ある娯楽だそうだ。人同士の闘いを見て、そして勝敗を予想して賭ける。どこでもいつの時代にもこの手の娯楽はあるのだなとしみじみ感じる。
まあ、人気の娯楽ではあるから誰でも興行主になれる訳ではないそうだ。
興行主は闘技場という場を持たなくてはならないし、選手を集めて、しかも勝者には賞金を出さなくてはならない。細かい決め事は無数にあり、並の金持ちではスタートラインに立つ事すら出来ないのだ。
それでも興行主を目指す者はいくらでもおり、この闘技というものが如何に人気が高く儲かるかという事が分かる。
この金輪下の闘技場はかなり立派で、人もかなり集まっている。
「ここは国じゃないから、他所から闘技者の引き抜きに来る奴も少なくないのにゃ。人気の闘技者は無理だけど、無名の実力者なんかは軍や傭兵団も狙っていたりするのにゃ」
こうやって闘技の情報はシズキから聞いた。恐らく事情には非常に詳しく、私に分かり易いように説明している事から闘技のあり様を理解しているのだろう。
そんな闘技にシズキは向かないと言う。
「傭兵団が要員探しに来るような場所なのに、槍の傭兵の人達がここに呼ばれるのも変な感じだね」
「傭兵やったり、闘技者やったりと変わり身の激しい奴はいっぱいいるのにゃ。でも傭兵専業の奴が闘技者に呼ばれのは妙にゃ。傭兵が闘技やったら腕が鈍るのにゃ」
闘技は相手の命を奪う行為は負けとなる。つまり殺さずに勝つ戦闘技術が必要になる。確かに両立は難しそうだ。
「それでも槍の傭兵の人達は闘技場に居るのかな?」
「居るらしいのにゃ」
闘技者に繋がる建物に一際豪華な見た目の門がある。
「ここは?」
「興行主の屋敷にゃ」
門には当然、屈強そうな番人が2人居る。そんな相手にシズキは不用意に近づく。
「何用だ?」
「呼ばれたから来てやったのにゃ」
そう言ってシズキは首のフサフサの毛の中から指輪のような物を取り出して見せた。
「おお! これは拳星の。どうぞ中にお入り下さい。主に取り継ぎます」
「連れの2人も入っていいのかにゃ?」
「残念ですが、証の無い者は入れぬ決まりです」
それを聞いてシズキは爆笑した。
「にゃははははは! 証だってにゃー、はははは!」
「お連れの方は名のある武人なのですか?」
「にゃひひひひ、いいにゃ、あの2人の事は誰も知らんのにゃ!」
シズキは可笑しくて堪らん様子だが、私的には気まずい雰囲気だ。
「シズキ、私達は入れないみたいだから、話を聞いてきてよ」
「任せるのにゃ。この辺りの宿でもとって待つのにゃ。明日には戻るのにゃ」
シズキはそう行ってスタスタと門の奥へ行ってしまった。
――
シズキと別行動になったので、私もバイスと会う事にした。シルバはバイスと話したが、シズキの事は特に説明していないらしい。
闘技場からは徒歩で1時間は離れた宿でバイスと落ち合う事になっている。
宿は六畳間くらいの広さのテントが沢山並んでいるという感じだった。ヤクトと違って乾燥も無く埃っぽさは無いが、文化圏は同じ感じだった。
一つのテントに入ると、バイスとドリスが居た。
「おい! あいつは何だ? 早いところ殺しとかないと全員死ぬぞ!」
会うなりこれだ。相当シズキの事を警戒しているようだ。
「バイスはシズキの事を知っているの?」
「会った事はねえが奴の居た匂いは知ってる。そして奴の所業もな」
「過去に犯罪でもしてたって事?」
「奴は何の罪にも問われていねぇ。奴を恨んで事を起こす奴は全員死んでるって話だ。お前でも勝軍無しの戦くらい知ってるだろ?」
「いや、知らないけど」
「なんでそれぐらい知らねえんだよ! 奴は勝軍に参加して勝軍の指揮官全部を殺したのさ。勝った軍も無くなっちまったんで勝軍無しだ。俺様も似たような現場の匂いを嗅いだ事がある。全員殺された現場に残った奴の香りからは血臭や死臭が全くしなかった。危険地帯の怪物みたいな匂いだけが残ってやがった」
バイスはかなり怯えた様子だ。
「其奴、終端種なのではないかの?シルバよ」
ドリスが絨毯の上に寝転びながらそう返して来た。
「そうだ。シズキは終端種だ。間違い無い」
「なるほどのう。ならば人から大きく外れた所業は理解出来るのう。だが、町に入り人と話が出来るような存在なのであれば、過度に警戒する必要も無かろう」
「てめぇは黙ってろ! とにかく、あいつはまずい! 」
「私も結構長くいっしょに居るけど、無差別に人を傷付ける感じは全く無いと感じたよ。考え方は極端だったけど、間違ったり歪んだ感じも無かった」
「俺様が殺されたらどうするんだよって話だ!」
「何か殺されるような事した?」
「する訳無いだろ! だが、分かる。奴は俺様を殺しに来る」
「まあ、とりあえず、シズキとバイスは直接会わない方が良さそうだね」
「そうだ! 絶対に連れて来るなよ!」
「分かったよ。それよりもこの金輪がどうなっているのか話を聞かせてよ」
バイスは鉄仮面の口元だけ開いて、置いてあった竹見た目な植物の水筒から中身を飲んだ。
「ふん、俺様の気苦労も知らずに簡単に言いやがる。まあいい。この金輪では今とんでも無い事が起こってやがる。しかも複数だ。その中でも一番でかいのが国軍起しだ」
なんとなくは聞いていたが、あいつが国を起こすにあたり軍も持つのでその準備をしているという事らしい。
「武国とか言う物騒な国が隣りにあるのだから、それくらいの準備は普通なのでは?」
「軍の規模が普通じゃねえ。既に兵士数だけならば武国並みだ。しかも、この新国に下るとか言う小国もいくつか出てきていて、そこの軍もそっくりそのまま合流って話だ。これは完全に準備していたって事だろうが」
準備していたという事は、私が要望した建国はきっかけに使われたという事なのだろうか。そうなると武国対策も進んでそうではあるが、何故にそれを私に問うたのか、それが分からない。
「私の要望が利用されたのは分かったけど、私の望みが叶う事に変わりはないのだから問題ないのでは?」
「間抜けかよ! 国を建てるのに関係した奴が複数居たら、後の運営で邪魔になる。そうなれば邪魔者は消される。俺様の命も危ないって訳だ。あのシズキとか言う奴は俺らを消す為の刺客なんだよ!」
確かに準武国領に入って直ぐにシズキと出会っている。
しかし、そう考えると素性が分かる前に殺しにかかった方が効率的なはず。ならば、これまでシズキと共にやって来た事の中で、奴がやらせたかった事があったというのだろうか。
思い当たるのはやはり、オスロ達を武国軍から救い出した事だろうか。
奴は武国をどうにかする方法を考えていた。ならば、武国の情報は欲しいはず、そうならば武国の軍隊を直接捕まえる機会が欲しかったのではないだろうか。現にあの場に居た武国軍は姿を消している。今頃は奴の私兵が捕虜としているのかもしれない。
考え出すと止まらなくなる。そうして重い発想にぶち当たる。シズキは奴の手の者であるという事が私の心に重くのしかかる。




