戦争の終わらせ方16
「にゃーもそいつを追ったりはしないのにゃ。ただし、にゃーの事を追ったらどうなっても知らないのにゃ」
シズキはそう言うとその場を離れるように歩き出した。私は念話でシルバに伝えてからシズキを追った。
「あっちの事はシルバに任せたから、私はシズキと待つよ」
「にゃーの事は気にしなくていいのにゃ」
「出来るだけ側に居るみたいな約束して、いきなり別行動するのは違うでしょ。あっちがあんなに警戒するのも予想外だったし、連絡手段の用意もまだだしね」
シズキは足を止めて振り返った。
「ふーん、そうまで言うなら、にゃーに付いて来るのにゃ」
シズキはそう言うと私の横に立ち行く先を指差した。
―
シズキに案内されて来たのは、他の建物より大きい施設で大きな煙突が立っていた。
施設に入るのに入場料が必要なのだがシズキが払ってくれた。まあ、金額は安いし、これまでも食事の際には奢ったりシェアされたりしていたので、これもその範囲で問題ないだろう。
建物の中の感じですぐに分かったが、これは銭湯、まあここでは公衆浴場と言うのが正しいだろう。
しかし、この場所の風呂屋の定義が分からない。真昼間から町のど真ん中で営業しているから、その手の風呂屋では無いと思うが、風呂屋はそもそもそういう場という文化圏である可能性もある。
入ってみれば、結局は体を洗い温まる普通の風呂屋だった。きっちり男女も分かれているし、庶民にも浸透していて皆、身軽な格好で訪れていた。
「浴場にも慣れた感じなのにゃ。もしかしてユズカは南の生まれなのにゃ?」
「いや、そうでは無いけど、浴場のある所で生まれ育ったよ」
タイルで作られた丸い形の大きな浴槽に浸かっているとシズキが寄って来た。
「知らなかったら、にゃーが教えてやろうと思ったのに、面白くないのにゃ」
シズキは口まで湯に沈んでぶくぶくと泡をたてて不満を表している。
「ここは私の知っているところとは多少違うけど、目的は同じだから大体分かるよ。それにしても浴場は南の国の文化なんだ。この辺りには無かったって事?」
「そうらしいにゃ。金の輪の上には世界の全てが揃っているらしくて、そこから溢れた物が下でも広まったりするのにゃ」
金の輪、見た目通りかなり怪しい場所だ。世界の全てを揃えるなんてのは中々に傲慢な事だ。
なんとなくだが、法国の模倣のようにも感じる。巨大で高所な場所に居住し、世の文化を集める行為は、モリビトのやっている事に似ている。
ただし、法国はその存在を表に出さずにその活動をしているが、ここはまさに大々的にやっいるので、その辺りに模倣を感じる。
「金の輪の上に住んでいるのは何者?」
「にゃーも知らないのにゃ。住んでいたと言う奴は幾らでもいたけど、本物は居ないと思うのにゃ。にゃーはユズカなら金輪人と言っても納得するのにゃ」
シズキの読みはいい線いっている。法国にがっつり関わっている私から異世界感を読み取っているのだ。
「金の輪だって今日初めて見たよ。私はあれだよ、天人って奴?」
私の追加装甲姿は天人と呼ばれているらしいし、お伽話の登場人物辺りが丁度良いだろう。
「そんな話を嘘の匂いも無く話す辺りが、ユズカの謎なところなのにゃ」
嘘つきが匂いで分かる嗅覚もどうかと思うが、この辺りはバイスで慣れたので、嘘を言うよりも言っていい事だけ言って、言うと問題のある事項は話に出さないというスキルは身についた。
――
お風呂の後にはカフェ的なお店で時間を潰しているとシルバから念話で連絡があった。どうやらバイスとの情報交換が終わったらしい。バイスは結局シズキと会うのはNGのようだ。
念話の応答後直ぐにシルバが現れた。
「シルバ、どうだった?」
「ふむ。冒険者組合は既にこの金輪下にあるそうだ」
「冒険者って何にゃ?」
冒険者業はまだ始まったばかりで世の中に浸透していないのだった。
―
シズキに概要を説明すると、興味を示した。しかし、バイスから危険人物扱いされているから、冒険者登録は難しいかもしれない。
「冒険者の管理者は、さっきシズキを警戒した人だから登録は難しいかもね」
「ふーん、そんな事無いような気もするにゃ。相手からしたら自分の事は知られずににゃーの情報が手に入るのにゃ。受け入れそうな気もするにゃ。今度行ってみるのにゃ」
確かにそう言う考え方もある。
「まあ、止めはしないよ。そう言えば武国軍と戦って無事だった傭兵の人達には会えそう?」
まだシルバと詳しく話をした訳ではないが、実は念話でこの金輪下で起きている事を少し聞いているのだ。この場所には武力を持つ組織が集められつつあると言う事だそうだ。
詳細は聞いていないが、バイスの冒険者業が呼ばれたのもその流れがあるかららしい。武国軍と戦った傭兵もそれでここに来ているのだろう。
「今のは少ーし匂ったのにゃ。ユズカにしては珍しいのにゃ。という事はシルバのじーさんが言わせているのかにゃ。そう言うのは良くないにゃ」
そう言われてハッとした。
「そうだ。我が言わせたようなものだ。たが、互いに言えぬ事は幾らでもあるだろう。わざわざそれを暴き合う必要もあるまい」
私が弁明する前にシルバが言った。
「まあ、そうにゃ。にゃーもここに呼ばれている事は言ってないのにゃ。これはお互い様という事なのにゃ」
そう言ってシズキは席を立った。
「シズキ…」
「隠し事は誰にでもあるのにゃ。それに案内するつもりなのは元からなのにゃ。それにさっさと1人でここに行かなかったのは、にゃーの興味はユズカにあるという事なのにゃ」
少し気まずい空気のまま店を出て少し歩くと、町の雰囲気が変わった。なんというかお祭り感というか、何かの盛り上がりを感じる。
少し開けたところに出た時点でその正体が何なのか分かった。
旗や壁に掛けてある布絵や、見える先にある巨大な建物から察するに、ここでは何らかのショーアップされた競技が開催されるのだろう。そして人の熱気や各場所にある広告的な絵図から、人対人の闘いがメインテーマである事は明白だった。
「ここはもしかして闘技場?」
「そうなのにゃ。ここは人と人が闘技で競う場所なのにゃ。強い方が勝ち、それに観て賭けて楽しむ場所なのにゃ」
この場の事は分かった。強者をここに集めている理由も明白だ。
だから、あいつはここに国を作ろうとしている訳だ。自衛する力が無ければ国を国と認める者は居ないだろう。だから、国としての武力を構築するにはいい隠れ蓑になる訳だ。闘技の場を軍備に使うというのは中々の策かもしれない。
「シズキはここで闘った事はある?」
「にゃーは無いのにゃ。にゃーの力はここには向かないのにゃ」
意外ではあった。シズキは強者と戦う事が好きそうなので、当然こういった場は経験しているものだと思っていた。
「例の傭兵もここに参加しているって事?」
「恐らくはそうにゃ。ただ、そうなるとにゃーは興味を削がれるのにゃ」
シズキは実戦派なのだろう。ショーアップされルールに縛られた闘いには興味はないという事だ。
「シズキがもし出場したら勝てそう?」
「難しいのにゃ。闘技は相手を殺すと負けなのにゃ」




