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戦争の終わらせ方15

 獣車に乗ったままあっさりと国外に出た。関所や国境警備は無いのだろう。そう言えば入るときもノーチェックだったな。

 一応、さっきの兵隊による検査がチェックだったのだろう。武国は出るときの方が厳しいというのは本当かもしれない。


 今、居る場所は何の国にも属さないのだそうだ。交易の中継地点として、中立地帯を形成しているらしい。

 国としての法が効かない場所なので、商売人からしたら色々と悪い事がやりやすいのだろう。ただ、無法故になんでも出来るという訳では無く、無数の暗黙のルールが存在しているのだそうだ。

 そしてこの地は私が要求した資本主義国家の建国予定地でもある。無法の地に法のある国を作って問題無いのだろうと思ったが、練国の地下で出会ったあいつの事だから抜かりは無いのだろう。

 そもそも、この地が国無しの無法中立地帯である事自体が奴の差し金な気がする。持ち主が見せ方を変えるだけなのだとすれば、そこには反発など生まれようも無い。


 国が無い場所だと言っても人の需要はある場所だ。街道は整備されており、町らしき場所も見えて来た。

 交易の中継地点になっていると聞いて、ヤクトと同じなのではと思ったが、全然違った。

 通行を阻害する者はいないが、道でない場所はめちゃくちゃという感じだ。

 普通に家を建てて住んでる感じもあれば、荷物置き場なのかゴミ捨て場なのかとい場所もある。露天は色んなところで展開しているし、柵も無いのに1箇所にまとまった動物の群まである。


「目的地はまだ遠い?」


「後2日も行けば着くにゃ」


「ここはどこの国では無いとして、今あるお金使えるのかな」


「何故か使えるのにゃ。無法なのに金は正貨しか使えないのにゃ」


 どの国でもある程度価値があって使えるのが正貨というのは、法国で知識を得ていた。何処で造幣されているのかは不明らしいが、これまで通って来た国ではどこも使えた印象だ。


「それなら食料調達は大丈夫そうだね」


「場所さえ知っていれば飯屋も普通に使えるのにゃ。変な匂いのしない屋台が無難なのにゃ」


 シズキは当然この無法地帯も経験者なのだ。知っている慣れているという雰囲気を感じるから、本当に色んなところに行った事があるのだろう。

 妙なのは、シズキを知っている人にあまり会わないという事だ。これだけ色んなところに行っているのであれば、店や組織など馴染みの人が居るようなものだが、そう感じる事は無い。シズキを知っていたのはオスロの傭兵団だけだった。


「屋台かー、あの柔らかい生地に肉と野菜の餡が入ったやつおいしいよね」


「包饅にゃ。多分この辺りにもあるのにゃ」


 こうして話をしてみる分には気さくで話しやすい。町で買い物や交渉しているときもそうだ。シズキは誰に対しても人当たりが良いのだ。


 ―――


 宿場に着いてから夜になり、以外な人物から連絡があった。なんとバイスから精神網にメッセージがあったのだ。

 連絡内容によるとバイスもこの無法地帯に入っているらしい。経緯からすると練国のあいつからの要請だそうだ。どうやら新しい国にも冒険者組合を作ってほしいので、という事らしい。

 なんとなくだが、あいつにこの地に関係者が集められているような気がしてきた。

 私の目的は資本主義国家の樹立とその存続な訳だから、奴が私を何に利用しようが、要件が達成されれば何でもいいと思っている。

 バイスはこの地の中心にある金の輪という場所に居るらしい。私達の目的地もそこのようだし、久しぶりに会って情報交換するのもありだろう。

 予知によれば冒険者業も無いと駄目なようだし、発展していってくれる分には問題無いと思う。


 ――――


 更に1日の移動を経て目的地付近に来たと実感した。山のように巨大な建造物が見えるのだ。

 巨大な岩山を綺麗に整形したのか、大量の石資材を集めて作ったのか分からないが、巨大な輪っかが3本の巨大な柱に支えられたオブジェと呼んでいい物がある。

 私の知る世界でも、これ程大規模な建造物は無いかもしれない。


「何あれ?」


「金の輪にゃ。いつ見てもでっかいにゃ」


 まあ、デカさで言うと法国のある世界樹の方がデカいが、あれは樹木の集合体という事でなんとなく理解できるが、この輪っかは何の意図なのかさっぱり分からないので、このサイズ感を脳が受け入れない。


「あの中ってどうなっているの?」


「にゃーも入った事がないから知らにゃいが、輪っかの中とか上には巨大な街があるらしいにゃ」


 あんな巨大な都市まで作って、権威まで主張しておきながら、よくこれまで国を名乗って来なかったものだと思う。


「目的地ってまさかあの中?」


「違うのにゃ。柱や輪っかの下を見るのにゃ。無法者は下に住んでいるのにゃ」


 デカい物に視線が奪われていたが、確かに輪っかの下や柱の周りに町がある。しかもかなりの規模だ。


 ――


 輪っかに近づくと都市の構造が分かる。輪っかから遠くは農地や牧場という施設が多く、輪っかに近付くにつれて商店や何かの施設が多くなる。

 バイスとの待ち合わせは、北柱街の酒場という事になっている。輪っかの柱は北、南東、南西と綺麗に三角形の頂点の位置関係にある。

 恐らくだが、あの輪っかを徒歩で一周するだけで半日はかかりそうだ。そんな規模の土地に結構びっしりと町が出来ているのだから、ここは今までに類を見ない大都市なのだ。

 輪っかの上に住んでいる人は何者なのだろうか。あそこまで物資や資材を運び上げる労力は尋常では無いはず。何をもってあの高さに住んでいるのか謎である。


 獣車から北柱街で降りて、ここからは徒歩になる。獣車は街道しか走らないから、北柱街の中心までは少し歩く。

 街道以外の道はむちゃくちゃなのはここでも変わらないので、バイス指定の店までのガイドは精神網のバーチャルマップを頼りにしている。

 視界を切り替える必要があるので、マップを意識するときは目を閉じるといいのだが、シズキには説明出来ない機能なので、この辺りの操作が上手いシルバに任せている。


 シルバのガイドで入り組んだ道を進んでいると急にバイスから精神網で連絡が来た。しかも音声と姿の映像付きだ。

 急な事なので、ちょっと所用という事にして私だけ路地に入った。シズキの相手はシルバにしてもらう。


「何?いきなり」


 目を閉じた先に居るバイスは、何か焦っている感じだ。私の問いに何の配慮もする余裕が無いようだ。


「お前ら何を連れてきやがった!」


「何ってあの獣人の娘の事?」


「形の事はどうでもいい! それは人の形をした何か別の物だ! 今すぐに殺せ! それが出来ないならこっちに連れて来るんじゃねえ!」


 そう言ってバイスの通信は途切れた。バイスはシズキを知らないようだったが、何かを感じ取ったようだ。既にバイスの嗅覚が効く範囲に私達が入ったからなのだろう。

 しかし、シズキにはどう説明したものだろうか。


「用事は済んだのかにゃ?」


「いやー、それが」


「もしかして待ち人とは会えなくなったのにゃ?」


 私の顔に出ていたのだろうか。シズキに察せられてしまった。


「まあ、そんな感じなんだけど」


「そいつ、にゃーの認識外からにゃーの事に気付いてそうしたにゃ? だとしたらなかなかやる奴なのにゃ。毎日命がかかってると思ってる奴は、にゃーにいきなり会ったりしないもんなのにゃ。そいつは正しいのにゃ」


 シズキはそう言ってくるりと背を向けた。



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