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戦争の終わらせ方11

 傭兵団の戦線離脱を確認したので、後はシズキに任せる事になっている。

 シズキは傭兵団に着いていくのは、約束した報酬とやらを受け取るからだ。私とシルバが着いていかないのは、傭兵団の拠点位置を部外者に知られたくないからだそうだ。

 既に場所を知っているシズキだけが行くのは、まあそれでいいと思う。

 正直、武国の情報が手に入るのならば報酬とやらはどうでもいいのだ。それを気にしているのはシズキだし、当人が取りに行っているならまだ問題無い。


 私とシルバはヤクトで待つ事になっているので、私とシルバはパッと飛んでヤクトの宿で休んだ。


 ―――


 翌日は朝食を食べてから、なんとなくヤクトの市で時間を潰していると、シズキがやって来た。


「灰翼団の団長を連れてきたのにゃ。報酬と武国の情報はそいつから貰うのにゃ」


 どうやら、昨日の傭兵団の団長を連れて来たようだ。戦闘続きの後ようやく逃げ切って、その後直ぐにヤクトまで来たのだとしたら、中々にしんどいスケジュールだと思う。


「今から?」


「そうにゃ。こういうのは早い方がいいのにゃ」


 まあ、折角急いで来てくれているのだから、会っておいた方がいいだろう。シルバを見たが異存は無いようだ。


 ―


 ヤクトは物流の拠点なので、定住する人と訪れる人が大体半々の町なのだそうだ。その為、貸家が多いのも特徴だ。

 今から傭兵団の団長と会う場所も貸家らしい。既に目の前まで来たが、結構大きな岩と土で出来た屋敷といった感じだ。

 シズキに先導されて木の門を抜けると、庭があり厩もあった。厩に入っているのがダチョウみたいな生き物なので、厩とは言わないでのだろう。

 本邸の入り口は簾がかかっており、室内は石床で土足で入るタイプのようだった。室内がひんやりしている事を考えると、この地域は夏に相当暑くなるのだろう。

 石床の廊下を越えると、広い部屋に出た。毛皮のローソファー的な物が2つあり、その一つに人が座っていた。

 恐らくはこの人が団長なのだろう。黒髪の中にエメラルドグリーンの髪が差し色のように入る目立つ長髪を後ろで束ている。髪質なのか束た髪は外に爆発するように広がっている。顎髭を生やしており、日焼けした肌と皺のよりかたから中年という歳の頃なのだろう。


「鮮血獣、俺の恩人はその人達かな?」


「そうにゃ。後、にゃーの事はシズキと呼ぶにゃ」


「そうかい、それじゃそうさせてもらうぜ。シズキ」


「はじめまして、私はユズカです」


「シルバだ」


「ユズカにシルバか、よろしくな。俺はオスロだ。礼節なんてもんを知らないので、こんな感じになるが、気を悪くしないでくれ。これでも感謝しているんだ。俺達を助けてくれた事は一生の恩だと思っている。まあ、立ち話もなんだ。座ってくれ」


 促され座った。私のサイドにシルバとシズキ、向かいオスロという構図になった。


「報酬は持って来たのかにゃ?」


「俺が、鮮…じゃなかったシズキとの約束を破ると思ってんのか。ほら、これが報酬だ。そっちで分けてくれ」


 オスロは皮の袋を木のローテーブルに置くとチャリという金属音がした。シズキが受け取るのかと思ったら、私の方を見ているので、仕方なく皮袋を受け取り中を確認した。

 中には金色のコインが10枚入っていた。何と無くこれまでの貨幣価値を把握した認識だと、これは金貨であり価値は一枚100万円相当だ。という事はこの報酬は1000万円という事になる。


「これで全部なのかにゃ?」


「おいおい、俺ら傭兵が持ってる金にしても多い方だろうが。これ以上出したら、俺達が死んじまう。俺らの優先は命、金、力の順なんだ。知ってるだろ?」


 何にせよ私個人としては貰い過ぎな気がしているが、シズキは何か駆け引きをしようとしているようなので、一旦は当然みたいな顔をしておこう。


「後でこっそり取り返そうとしても無駄にゃ。にゃーは2人の護衛をやってるからにゃ」


 オスロは横目で私とシルバを見た。


「そいつはまた酔狂な事をするもんだな。体に火を付けて身を守っているようなもんだぜ」


「別に私達は自分の身は自分で守りますので、お気遣い無く。シズキにはどちらかと言うとこの辺りの案内をお願いしてます」


 シズキはどう言う訳かオスロに向かってドヤ顔をしている。


「どうにゃ? 凄いのにゃ? こんなの見た事ないにゃ?」


 何かなんとなく馬鹿にされているような、珍獣扱いされている雰囲気だけは感じる。


「まあ、そう言い切れるのはすげーよ。現に俺達を助けてくれたのはあんたらなんだろ。予知の阻害と遊撃隊の相手してくれたのは助かったぜ。相当にやるって事は分かるぜ」


「オスロはまだ端っこしか分かってないのにゃ。まあ、でも武国軍もそれ程でも無かったのにゃ。にゃーはオスロ達の逃げ足の尻尾やったけど、誰も追撃して来なかったのにゃ」


「俺が勝ち戦でもシズキの尻尾は追わねーよ。それを未来が分かる奴らが追う訳がねーわな。まあ、シズキも含めて、3人が来なきゃ俺達は助かってねえ。本当に助かった」


 そう言うとオスロは深く頭を下げた。


「オスロの臭い芝居はもういいのにゃ。それより武国の事を話すのにゃ」


 オスロは苦笑いの顔で礼から戻ってきた。


「話す前に一つ確認だが、俺達の命を取らないと約束してくれねーか」


「その口約束になんか意味があるのにゃ?」


 シズキは機嫌が良さそうな雰囲気のままそう返した。


「実際に効果があるとは思ってねーよ。単にまじないみたいなもんだよ。シズキが殺すときはいきなりだ。そんで嘘は言わずねえ。なら殺さないと聞いておけば効果があるかと思ってよ」


 一瞬、空気がピリッとした気がした。


「殺さないのにゃ。君らがこの2人に要らない事をしない限りにゃ」


「我々はこの地に住む者ではないが、会話の出来ぬ者ではない。そして、武国に連なる者でも無いし、武国のあり方を是とも思っていない」


 そうか、私達すらも武国の諜報で、口封じに逢うのではという懸念がオスロにはあるのか。


「それを信じさせてもらうぜ。武国が二重で攻めて来てるんじゃないかと勘繰ったが、さすがに俺達を生かして逃したのは回りくど過ぎるわな」


「オスロが時間通りに帰らなかったら団は逃げる手筈になっているのにゃ? にゃーも拠点に居たのに、よく気取られずに段取りしたのにゃ。えらいのにゃ」


「そうだよ。傭兵団やってりゃ敵を作ってばかりだからな。逃げるのが上手くなけりゃ、この稼業は続かねえよ」


 オスロは少し安心した様子だ。警戒心が強い人というのはよく分かったが、それよりも分かった事はシズキを本気で恐れているという事だ。親しそうな雰囲気の中にも、決して緩めない緊張感があるのだ。


「私達は練国から来ました。故あって武国の事を調べています。あなた達が武国から狙われるのであれば、逃れる事を手伝ってもいいと考えています。ですので、武国の情報を出来る限りください」


「そこまで言われなくても話すつもりだが、まあ、こんな御令嬢に言われたら余計な事まで言っちまうかもな」


 私がなんとなく身分があると勘違いされるのは仕方ないのだろう。


「にゃーの脅しより効果がありそうにゃ。さあ、話すのにゃ。にゃーも興味あるのにゃ。オスロはなんで武国と戦争する事になったのにゃ?」


「別に武国とやりたくてやったんじゃねーよ。だが、奴等はいきなり現れたんだ」


 そう言ってオスロはテーブルに地図のような紙を広げた。

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