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戦争の終わらせ方8

 進む獣車があまり揺れないのは街道が整備されているからだ。世界の色んな場所にあるこの緑の敷石の街道は、緑石街道と言うのだそうだ。

 緑石公社という組織が街道を整備しているらしいのだが、国を跨いでこんな巨大な土木工事をしているなんて、かなり凄い事だ。

 規模が大き過ぎるので、法国のような超常存在が関係しているのではとシルバに聞いて見た事があるが、違うらしい。

 世界樹教みたいな世界展開している団体のバックについているのだから、法国がやってそうなものだが、どうやら参人は絡んでいないそうだ。


 乾燥した荒野に真っ直ぐ伸びる緑の道は最初印象的だったが慣れると退屈な景色だ。

 景色にも飽きてシズキと適当な話をしていると町のような場所が迫って来た。

 土壁の四角い建物とサーカスのテントのような物が乱立している。道は真っ直ぐだが、町はめっちゃくちゃに広がっている、そんな印象だ。

 土地が乾燥しているだから、水のありかが生命線だろう。あちらこちらに井戸が掘ってある。建物が無秩序にならんでいるのは、恐らく水の出る場所に起因しているようだ。


「ここが目的地のヤクトにゃ」


 シズキがそう言うと、獣車は露天市が立ち並ぶ場所の端で止まった。町というよりは行商人の荷物の中継地という印象だ。


「世界樹教会は無いようだな」


「そんなもんねーにゃ。ここから西の武国深部には一個もねーのにゃ」


 私達が船と陸路を選ばざるを得なかった理由は、教会の白樹ワープが使えないからだ。


「吸血鬼もここに居るの?」


「その顔はにゃーを信じてないのにゃ? ここではないけど近くに居るのにゃ。吸血鬼をどーんと見せて、その澄ました顔の皮をひっぺがしてやるのにゃ!」


 シズキはどういう訳か私達が吸血鬼の関係者だと思っている。シルバは知らぬ存ぜぬを決め込んでいるし、実際にその存在自体は知っているが、関係があるかと言うと違うのだ。だから、私もシルバに合わせている。


「じゃあ、吸血鬼は一旦置いておいて、この町で情報収集でいいんだよね?」


「ここより西に行くと目をつけられるのにゃ。獣車で行くにも手形が要るのにゃ。西から来た行商人に話を聞くのが手っ取り早いのにゃー」


「それではこの町に宿を取るぞ」


「そんなのもったいねーのにゃ。この時期は天幕借りるくらいで十分にゃ。にゃーが話をつけてやるから、金はそっちが出すにゃ?」


「いいだろう」


 それを聞くとシズキはサッと行ってしまった。この手の段取りは早くて正確なのはシズキの凄いところだ。有能な案内人だけでは無い事が、まだ少し恐ろしくはある。あの感じなのに、私の思う倫理観は何一つ通用しないのだ。


「武国の事を調べに来たけど、実は何から調べればいいか、自分でもまとまってないんだよね」


 正直、行かなければ何も分からないと言われて時点で、行ったらどうにかなるやろの精神だった。道中何か閃くかと思っていたが、ここまで来ても割とノープランのままなのだ。


「戦争で領土を拡大している国なのだから、今どこと戦争しているのか調べればよいのではないか? こちらの新興国に矛先が向く余地があるのか、それが重要であろう」


 割と法国外の事に興味が無い感じなので、シルバから意見が出る事は少ないのだか、やはりこの人は相当に頭良い。なんか法国外ては私がワチャワチャ動いて紆余曲折するが、実はシルバが一発で答え出せたのではないだろうか。なんかちょっと腹が立ってきた。


「そんな考えあるなら言ってくればよかったのに」


「別に前から確信があった訳ではない。ここまで来る事で思い至ったのだ。人は何故簡単に争いという選択に至るのか、それが疑問だったが一つ分かっのだ。人の生は短かく環境に大きく左右される。故に多くを求めるならば効率が必要となる。他者の育てた物を奪う事が正にそれなのだな」


「全ての人がそうではないよ」


 そうは言ってみたが否定仕切れない感覚もある。独力では獲得出来ない何かを獲得する為に奪う。それが大小を問わないなら常に行われている事を私は知っている。


「モリビト故に人の感覚が分からぬ事が多い。だが、我は人から学ぶ事はあると思っている。モリビトも含めてそうだが、全てに当てはまる事象などそうは存在しないのだ。ユズは奪う事を嫌うな。それもまた理解している」


 言い返そうと思ったが言い返せないのが悔しい。なんか子供を諭すみたいな感じで言われていらっとしたが、よく考えればシルバからしたら私は子供みたいな年齢なのだ。


「まあ、シルバ言っている事は間違ってないから、武国がどこを攻めているのか調べるけど、納得はいっていないからね!」


 ツンデレ構文みたいになってしまった自分の語彙の無さがまた悔しい。でも、まあそうだ。シルバはモリビトの中でも有名な天才で、私は才のある人の足を引っ張る無意味さをブラック企業の仕事の中で知っている。


「何にゃ?痴話喧嘩かにゃ」


 戻って来たシズキが面白がるように聞いてくる。


「違います!」


 ―――


 シズキが見つけてきた天幕は割と大きな物で割と快適だった。宿に泊まるより費用も1/10くらいになっているので任せて正解だった。

 シズキは夜半にどこかに行ってしまったきりで、朝になっても戻ってきていない。


 朝食はその辺の露天で食べる事にした。名物というか一般人が常食しているのは煮込み料理だった。

 煮込み料理が多いという事は、手に入る食材は硬い物が多いという事をこれまでの旅で学んだ。

 乾燥地帯で大規模農業、畜産もままならないので、輸送に耐え得る肉や野菜となると硬い物になる。加えて物流が激しいので香辛料も手に入り易い、そうなるとスパイシーな煮込み料理が発展するのは納得だ。

 そんな料理文化論を昨日のシルバへのリベンジのように語っていると、騒がしく迫ってくる存在に気がついた。


「吸血鬼を連れてきたのにゃ」


 そう言ってやってきたシズキの肩には子供が担がれていた。


「お、降ろせよ!」


 そう言われてシズキの肩から降りたのは紺色の髪を長く伸ばした顔色の悪い少年だった。

 手足が細く痩せており、髪も伸び放題で意図せず片目隠れになっているのだろう。


「誰?」


「だから吸血鬼だにゃ。名前はなんだったかにゃ?」


「ウラだよ。いい加減覚えろよ!」


「名前なんてなんでもいいのにゃ。それより、ほら吸血鬼は居るのにゃ」


 シルバはウラと呼ばれた少年を少し見てから立ち上がった。


「話は向こうの天幕で聞こう」


 ―


 天幕は結構広いので4人入っても余裕十分だ。しかも1人は子供なので、スペースは広々と使える。眠るとき用の仕切りを外せば8人入る会議室くらいの広さはある。


「ほら、現物を前にして観念したのかにゃ? やはり君らは吸血鬼の関係者なのにゃ」


 シズキが物凄く得意げに反り返っている。


「ウラよ。手を見せてみよ」


「じーさん誰なんだよ」


「大人しく言う事を聞くにゃ」


 シズキがそう言うとウラは黙って従った。シルバはウラの手のひらを観察した。


「ふむ、この者は鬼に連なる種ではあるな。しかし吸血鬼ではない。ウラは血鬼だ」


 反っていたシズキが頭を傾けて疑問の表情に変化した。


「血鬼って何にゃ? 吸血鬼とは違うのにゃ?」



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