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戦争の終わらせ方7

「体で返すのにゃー? でもにゃーも女なのにゃ」


「働いて返すという意味です!」


 性別不明だったがシズキは女性のようだ。私もシズキが思ったような返し方が出来るとは思っていない。ただ、他者の命の選別がされる事が気に入らないだけだ。


「そうは言っても、にゃー達は強いと股のとこがでっかくなるのにゃ。これは男も女もにゃ。にゃーは負けた事ないからでっかくなる一方にゃ」


 なんか、ハイエナの生態がそんなだった気がする。群のリーダーは雌がなり、生殖機能はそのままに、一部が雄化するのだそうだ。


「だから何ですか?」


「にゃーは女としたい事もあるにゃ。子種は出にゃいけど、突っ込まれるより、突っ込む方が好みなのにゃ。それにユズとなら殺されるの気にしながらやらなくて済むから魅力的にゃ」


 なんだか知らないが興味ありの様子だ。ビシムもそうだが、私はこっち世界では女性に人気なビジュアルをしているのだろうか。

 とは言え、体を売る気は無いので、この話の流れは早々に止めたい。


「我々は元より護衛は不要だ。下手に事を荒立てて要らぬ恨みを買うのであれば、これ以上は同行を求めない」


「そんな悲しい事言うにゃよ。にゃーも君らが強い事は分かっているのにゃ。ただ、人を甘く見ない方がいいにゃ。昨日の奴等は船員を殺すつもりで乗り込んで来たにゃ。にゃーが殺らなかったら確実に甲板の船員は全員死んでいたにゃ。誰かを生かし誰かを殺す、その判断はいつか来るのにゃ」


 そう言われて船員の顔がちらつく。何日も乗っている船だし、情報収集もしているので、なんとなくどんな人なのか分かっている人もいたりする。そう思うと、シズキの言う事を否定し辛くなるのだ。


「その時が来たら自分で判断します。勝手に決められたり、誰かに決めて欲しい訳ではないんです」


 シズキは大皿の料理を食べ終えて、残っていた鳥の骨らしきものをバリバリと砕いて食べた。皿には何一つ残っていない。


「その気があるなら十分にゃ。にゃーも助けろと言われて相手を殺さないのは難しいのにゃ。でも殺すと後が面倒な奴が居るのも事実にゃ。護衛として殺さずに済む事があったにゃら、そのときはご褒美をもらいに来るとするにゃ。そんな訳で、まだ同行させてほしいのにゃ」


 シズキの同行を拒否する、これは簡単だ。しかし、怪しい私達のコアな部分を知っているシズキが何かの拍子に敵側に回るのは怖い。

 ここは一度平定したとは言え、最近まで戦争をしていた場所なのだ。まだ武国に従わない人達も沢山いるのだろう。昨日のように何らかの戦闘に巻き込まれる可能性は多分にあるのだ。


「護衛はもう必要ないけど、案内役として同行して下さい。どうしても力で解決しないといけない事が出来たら、そのときは改めて依頼します」


「にゃーもそれでいいのにゃ。それじゃ陸路に入ってからの事は進めておくのにゃ。格安にしとくけど、足のお代はにゃーのも含めて頂くにゃ」


「いいだろう。諸々含めてこれで足りるか?」


 シルバはテーブルの上に金属音のする皮袋を置いた。

 シズキが袋の中を確かめると、青みが掛かった金属のコインが何枚か見えた。


「十分にゃ。では、にゃーに任せておくのにゃ」


 シズキはそう言うと皮袋を持って、どこかに言ってしまった。


「シズキの近くには出来る限り寄らぬ方がよいぞ。普通の人間の10倍は力がある。見た目の3倍は重い体だろうが、あの身軽さだ。獣車を引く巨獣が居ると考えるのだ」


「そうなんだ。終端種だから、それだけ他と違うって事?」


「そうだ。体の組成に金属や鉱物の要素が多分に含まれいる。あの山脈に居るという竜と近しい組成だろう。更に言うと、竜は巨体だがシズキは決して大きくは無い。恐らくは密度が違うのだ。強靭な金属の糸で編まれたような体内組成、それがシズキなのだろう」


 シルバがそう言って指差した遥か先に雪の積もった高い山脈が微かに見えていた。


 ―――


 船旅の終着点の港町に到着し、そこからは陸路を行くらしい。


 道の先には交易の中継点となる町があり、そこが私達の目指す場所だ。その町までは幸いにして街道が繋がっており、乗合の獣車もあるそうだ。

 獣車の手配はシズキが予定通りやってくれていたので、直ぐに出発となった。


 シズキは町に居ても、今のように獣車に揺られていても、普通に周りの人に溶け込んでいる。

 赤い毛並みは目立つが、それ以上に目立つ毛色の人も居るし、物静かな訳でもなくうるさい訳でもないのだ。普通の町人としか思ないのだが、凄まじい力を持っていて、利害の為に殺人も躊躇しない性質を持っている。

 これは実は一番恐ろしい事なのかもしれない。


「にゃーにゃー、君ら2人はどういう関係なのにゃ? 親子や親族では無いよにゃ?」


「なんですか、いきなり」


「単に気になっただけにゃ。旅の目的は言えなさそうな感じにゃけど、関係はどうなのかにゃーと思ってにゃ。やっぱりユズカはどこかのお姫様なのかにゃ?」


「違いますよ。どこを見たら姫なんですか」


「日に焼けてない肌に、綺麗な手、若くは無いのに子供を産んでいないにゃ。そんな生活が出来るのは、相当に余裕のある場所で生きてきた証拠にゃ」


 まあ、こちらでの基準で言うとそうなのかもしれないが、私は温い環境で生きて来た訳では無い。会社に対して畜に徹していた自負心はある。


「頭を使う仕事を長く強いられ来たんです。肉体は使いませんが、精神を病む同僚も居るような場所でした。肉体に傷は無いですが、精神は擦り減っているんです」


「にゃー、魔書庫の司書でもやってたのかにゃ。まあ、そんなんだと外には言えないにゃね。何となく分かったにゃ」


 違うし、魔書庫も知らんが、まあそういった頭脳労働があるねなら、そう勘違いされる方が実態に近くていい。

 獣車の幌の隙間から乾燥した大地が広がっているのが見える。まばらに生えた木に岩や赤茶けた土が剥き出しになった平原が何処までも続いている。そんな大地に似合わない緑の舗装された街道も真っ直ぐ伸びていた。


「あまり、人に言える過去ではないので」


「ふーん、そんでじーさんは一体何者なのにゃ? にゃーの読みでは吸血鬼の関係者にゃ。どうにゃ?当たっているかにゃ」


 吸血鬼、そう言えば法国のブランの店にも来ていたので、結構いい読みしているような気がする。ただ、私も法国と吸血鬼の関係性が何なのか知らない。


「吸血鬼など北部の戦場の惨状から生まれたまやかしだろう」


「吸血鬼と聞くと大体の奴はそんな反応にゃ。でもにゃーみたいに幾つもの戦場で生き残っているのは吸血鬼と戦った事があるのにゃ。今、水晶湖の来たで大きくなっている月光国は吸血鬼の国なのにゃ」


 まるで都市伝説を嬉しそうに語っている感じだが、これは吸血鬼の存在を知る者からすると、隠している真実を暴露されているように聞こえるのではないだろうか。

 私は軽くシルバの方を見たが、いつものポーカーフェイスだった。


「何処で聞いたのか知らないが、それは誤りだ。月光国にて生じる不思議な噂の大半は、あの国に疎まれた呪術士が大量に流れ着いたからであろう。呪術は人の心を操る。吸血鬼というまやかしを見せられているに過ぎないのだ」


「いいにゃ! そこまで言うならにゃーが吸血鬼を見せてやるのにゃ」


 そう言ってシズキは謎の自身に包まれながら息巻いていた。

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