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戦争の終わらせ方6

 ◇◇◆


 寝6、喋2、起4、怪1


 船倉居る奴等の様子を頭の中で確認しながら、半分寝ている。

 川の水が流れる音、上の船室の音も聞きながら、自分を中身に認識している範囲に危険が無い事が分かると気分が良い。


 戦場の夜は敵にも味方にも注意しないといけないので、あれは大変だったが楽しくはあった。思い出して自然と口角が上がる。


 時折、船に当たる物が奏でる小さな音を聞きながら、当たった物を想像していると、異音が聞こえてきた。

 船倉の中の者は誰も音に気付いていない事を考えると、小さな音なのだろう。たが、当たった物の重さは結構ある。そう考えると音が小さいのはいよいよ異常だ。


 小舟が近くにある、しかも複数だ。こんな夜にこっそり大型船に近付くなんて、どうせ良からぬ輩なのだろう。

 大型船の側の者は誰も気付いていないようなので、闇取り引きという訳でも無さそうだ。


 そうなると…


 体は自然に動き、誰にも気付かれる事も無く、甲板へと静かに出ていた。

 船倉から甲板に出る扉は鍵がかかっており、朝まで開く事は無いので、荷入れ用の重く巨大な天井扉を通る道筋は見付けておいた。人の手で開ける扉では無いが、自分の力で開けられる事は確認済みだ。前にユズカの様子を見に行ったときも通った。


 甲板は静かで見張りの船員も異常には気付いていないようだ。そうなると侵入しようとしている者は相当に船での動きに慣れている。この辺りの亡国の元水兵だろうか。


 自分を狙って来た可能性は薄い。傭兵としても個人でも水兵と敵対した事はないのだ。そうなるとあの2人を狙っているのか、いや、それにしては備えが貧相だ。

 考えられるのはこの船自体を狙った賊行為だろう。亡国再興の為には人も物もそして金も必要だ。ただ、その行為が武国の手の平の上であり、自身の首を絞めるだけだと気付いていないのは哀れだ。


 そこまで考えて思考は閉じた。今侵入して来ている者は乗客である自分にとっては敵なのだ。これは今の雇い主である、あの2人にとっても同じだろう。


 ならば、殺して問題はない。何もなかったかのように静かに痕跡なく殺ろう。そんな心地で体は静かに走りだしていた。


 最初に侵入したであろう外套を被った者の頭を捻って顔だけ背中向きにしたとき、死体の処分の方法を思いついた。水に真っ直ぐ頭から抵抗なく入ると音も少なく深く水に潜れるから、死体も川に上手く投げれば静かに魚の餌に出来る。

 侵入者が乗って来た小舟が左右に一艘ずつあり、待機の者が居る事も確認出来たので、死体は船尾に投げた。思った以上に綺麗に水に沈み満足した。それぞれの小舟の奴は最後だなと思いながら、次の侵入者に近付き背後から喉と一緒に首の骨を砕いた。

 侵入した者は4人だ。小舟で待っている者も含めて6人、退屈しのぎにはいい人数だ。

 首を砕いた侵入者が生き絶えたのを確認して、少し遠くなった船尾に向けて高く投げた。月の無いよるだから空を何かが高速で横切っても気にならないだろう。死体は音もなく船尾の先の暗い川に消えていった。

 甲板の残り2人は一緒に居る。さっき殺した2人は見張りと甲板の制圧が目的で、残り2人は船内が目的のようだ。

 中に入られると騒ぎになるので、勢いよく飛んで距離を詰めて、2人集まっている二つの頭を上から踏み抜いた。手加減したので大きな音はしなかったが、2人とも首の骨が折れて頭が体にめり込んでいた。

 2人の死体を左の小舟の近くに投げて注意を引いてから小舟の方を蹴り下ろしで仕留める。そのまま小舟の船底をぶち抜いて沈め、元の船に跳んで戻る。


 最後の小舟に静かに跳び移り、最後の1人の背後に立つ。


「船への襲撃は失敗にゃ」


 そう言うと反撃の動作をしたので背後から止めを刺した。

 さっきの小舟を沈めたとき、雑に踏み抜いて足が濡れた事を思い出したので、こっちは自壊するように全体に衝撃を与えてから沈めた。


 船に戻り船倉に入って、さっきの戦闘を思い出す。戦いに慣れた者達のようだったが、こちらに気付く事も出来ない程度だったので、正直期待外れだった。しかし、危険のあった状態から安全が戻った事については満足感がある。


 今夜はよく眠れそうだ。


 ◆◇◇


 遡上船が夜の間も進む理由は、早い物流に利があるからだそうだ。もちろん、夜間航行しても危険が少ない流域というのもあるが、下流からの荷を朝に降ろして、また上流への荷物を積んで出発するというサイクルは単純儲かるらしい。

 今日は島というか、巨大な中洲にある港に停泊している。

 石積みの大きな建物もあったりして、ザ港町というよりは、若干観光地や保養地の雰囲気を感じる。


「飯が高けーのにゃ」


 そう言って文句ながらも大量のピラフみたいな料理をシズキが頬張っている。


「昨晩、船に侵入者があったな。何か知っているか?」


 昨日、シルバが夜に急に来て、侵入者がいると言って来て、騒ぎになるかと思っていたら何も起きず、2人でハテナを浮かべながら今日を迎えたのだ。


「ああー、気付いていたのにゃ? にゃーが全部始末しておいたのにゃ」


「それでか。船の侵入者が突然消えたので、何があったのかと思ったが、そういう事か」


「侵入者は何者だったんですか?」


「知らねーのにゃ。多分この辺の元兵士の賊にゃ。訓練はされた動きだったのにゃ。船を乗っ取るつもりだったみたいにゃ」


「そこまでしたのに何故船に何の痕跡も無いのだ」


「誰かに伝えても面倒になるだけだから、無かった事にしたのにゃ。今頃は全員魚の餌になってるにゃ」


 それを聞いてゾッとした。よく知らない相手を躊躇無く殺し、平然としている。自衛の為なら分かる。まあ、今回も賊なんだとしたら自衛だが、それにしても相手の命を奪う選択が安易過ぎる。


「その人達、賊では無いという可能性はあったんですか?」


 そう聞くとシズキは目を丸くしてこちらを見た。


「ユズカはもしかしてどこかの国の姫か貴族なのかにゃ」


「いえ、違いますけど」


「偶に会うのにゃけど、死が周りに少ない、見えないとこで育った人はそう言うにゃ。自分が生きる為の周りの死は普通の事にゃ。だけど慣れて無い人は死を過度に恐れるのにゃ。他人の死を自分に重ねるのにゃ。でもそんなの意味ないにゃ。みんな自分の命が1番大事にゃ。だから相手が死んで自分が生き残るならいい事なのにゃ」


 極端な考えだと思ったが、ふと自分の考えも極端なのではと思えて、そこから何も言えなくなった。


「そう言えばシズキは我々の護衛だったな。護衛料を払う必要がある。幾らだ?」


「それを期待してにゃーは高い飯を食っていたのにゃ」


 護衛とは言え、殺人に対してお金を支払う事に、猛烈に忌避感がある。


「護衛料払います。払いますけど、次から人殺し無しで解決してくれたら、倍払います。どうですか?」


 何か無いからと思い突発的に変な事を言ってしまった。


「にゃーは金欲しさにやってる訳じゃにゃいんだけど、それにしても、中々面白い事を言うのにゃ。倍なんて払えるのかにゃ」


「払います! 私が。体で払ってもいいですよ」


 思いつきで言ってはいけない事を言った気がするが、もう止まれなかった。




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