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戦争の終わらせ方4

 武国にあるかもしれない法国の影、思わぬところで意外な情報が手に入った。

 法国は直接的に文明界への関与はしないスタンスだ。しかし、武国の軍隊に法国の技術が使わ続けているのであれば、それは法国の裏の顔という事になる。


 世界の頂点であるらしい参人の一角が裏の顔を持つのであれば、それは世界の行く末に大きく関与している可能性がある。

 まだ、世界を闇で覆う者として、直接的な証拠が出た訳ではないが、怪しさはかなりあると思う。


 情報を知るのは槍使いの傭兵団か。今後はその人達も注視する必要がある。


 ―――


 武国の情報を得たいという私達の意図と、シズキからの情報で水晶湖辺りまで川を遡上するのが良いという事になった。

 武国の奥まで入るのは危険なので、まずは色んな地域から人が行き来する船で情報を得るのがよいそうだ。

 更に、水晶湖の南は新たに建国がなされる場所であり、しかも対岸は武国に馴染んで時間の経過した地域なのだそうだ。危険を減らした上で情報を得るには一番良い場所だろう。


 そうして目的地は決まり、船客からの情報収集とやる事もあるのだが、一つ問題もある。

 法国の絡む可能性も考えるとシルバに色々と確認したり、相談したりしたいのだが、護衛としてシズキが居るので、そんな時間を作る事が難しい。

 念話でどうにかと提案してみたが、武国内でしかも人の多い場所での高位術の行使は、目をつけられる可能性があるという事で却下となった。


 船旅は何日もかかるので船室を取ってあるが、他の乗客も何人も居る船室しかないので、夜に話が出来る感じでもない。因みにシズキは寝食は自費でと言っているので、夜は船倉の中で鮨詰状態だそうだ。


 夜は薄い仕切りの奥で眠るしか出来ない。


 ◇◇◆


 奴は意外に早く動いた。慎重そうなのでもう少し時間を掛けるかと思っていたが、仕掛けてきた。


 船室の中は客の寝息や寝返りの音がする程度で静かではある。少しの音でも気になる静けさだ、扉が開けばある程度の者は気付くだろう。

 扉は音もなく開いた。音が無ければ仕切りの奥に居る者は何が入ってこようとも気付く訳も無い。


 狙いは我かユズか、いや奴の狙いは始めから決まっている。ユズを狙う。

 奴が事を起こす前に我は仕切りの布から出た。暗い部屋の中で奴の輪郭は影そのものだが、こちらの姿は見えているようだ。まあ、目の作りが違うのだから仕方が無い。

 奴は動く事も無くこちらを見ている。この場で戦闘する気はないようだ。


 ニノ指で天井を指して甲板に上がる事を促すと、奴は音も無く消えた。我も甲板に出る為に船室の扉を静かに押すと、キイという小さな音が鳴った。


 ―


 夜の甲板に乗客が出る事は禁じられている。暗い甲板から川に落ちられでもすると客の生命はかなりの確率で失われるし、船はその責任を問われる事もある。故に禁止事項なのだ。

 甲板は船員も少なく、一旦出てしまえば荷の影に入ればそうそう見つかる事は無い。

 簡単な認識阻害で夜の甲板の闇に紛れて直ぐに奴が姿を表した。


「にゃー、まさか気付かれるとはにゃー」


 赤毛の間人は僅かな灯りに照らされて、その赤を血のような濃さに変えていた。


「雇用関係にあれば殺しに来る事は無いのでなかったか?」


「別に殺しに行った訳じゃないにゃ。殺せるかどうか見に行ったのにゃ」


「それの何が違うと言うのだ?」


「違うにゃ。殺せるのか分からないと気になるにゃ。だから無防備な寝てるところを見に行ったのにゃ」


 まともな問答は通じないようだ。


「では聞く事を変えよう。我々は殺せそうだったか?」


「うーん。詳しく見てにゃいからはっきりとは分からにゃいが、きっと無理なのにゃ」


「ほう、何故だ?」


「不確定な要素が多すぎるにゃ。君は分からない強さをまだ隠しているのにゃ。そしてもう1人は訳が分からないにゃ。強くもあり、弱くもあるにゃ。そういう存在がにゃーには厄介にゃ。にゃーより強い方がまだましにゃ」


「貴様より強い我よりも、正体の分からぬユズが厄介か」


「そうにゃ。強い相手なら弱くなるまで待てばいいにゃ。寝てる時か、飯食ってる時か、女抱いてる時か、とにかくにゃーより弱くなる瞬間はあるにゃ。でも訳分からん奴はいつにゃーより強くなるか分からん怖さがあるにゃ。弱いと思って殺しに行ったらにゃーより強くなっていたら終わりにゃ」


 この間人は相手が殺せるか否かでしか人を判断出来ないようだ。


「理屈は分かった。それでどうするつもりなのだ?」


「どうって、特に何も変わらないにゃ。これまで通り護衛をするにゃ」


「我々の命を狙う者をこのまま雇うと思うか?」


「だから、最初に言ったにゃ。殺さないにゃ。見ただけにゃ。聞いて無かったのかにゃ?」


 間人は少し苛ついた様子だ。どうやら今夜の事は本当に問題無いと認識している。


「分かった。我も無駄な争いがしたい訳では無い。しかし、言葉だけでは信じがたいのも事実では無いか? 信用させ騙し襲うのも相手を弱くする法だろうに」


「にゃー…、それなら契約術みたいなのを使えばいいにゃ」


 これまでもあった流れなのだろう。問答に慣れを感じる。


「それは良い法かもしれないが、その前に幾つか確認したい事がある」


「何にゃ? にゃーが知ってる事にゃら答えるにゃ」


「では、纏めて聞くぞ。他の人種さらに同種に対しても力はかなり強い方か? 同じ背格好の者と目方を比べた時、遥かに重くないか? 術を一歳扱う事が出来ないし、また他者の使用する術の効果も著しく薄くはないか?」


 我の問いを聞いて間人シズキの目付きが変わった。


「にゃーの事を調べてる奴なのかにゃ?」


 明らかな警戒と殺意が伝わって来る。


「勘違いするな。我も貴様と会って貴様を見て知ったのだ。相手を見る時、相手もまたこちらを見ているものだ。それに貴様を調べる者がそれを貴様に明かす事はあり得ないだろう」


 風読みの術で目の前の間人を調べて、8通りの攻撃が予想される。この8種全てに対応出来る行動は無い。恐ろしい精度と速さだ。


 来ると感じた瞬間に1番危険度の高い行動への対応を取ろうとした瞬間に、目の前の間人が手を付いて地面に伏した。


「うにゃーーーー。やっぱり港で仕掛けた時と同じになるにゃ」


「互いに情報を握り合っているのだから、対等では無いか? 無益な戦闘は止めよ」


「あっちの女も訳分からんけど、こっちのジジイも訳分からんのにゃ。これはにゃーの負けにゃ」


 なんとか戦闘は諦めてくれたようだ。それにしても興味深い個体だ。


「貴様の肉体が他と違うのは、恐らく突然変異によるものだろう。我の興味を引くところだ。これ以上、自身の情報を知られるのが嫌であれば、我々の前から去るがよい。そちらが見なければ、もう見られる事は無いぞ」


 ◆◇◇


 ――


 何となく浅かった眠りから覚めて朝となった。何処かの港に入港したようで、船内は人の動きが激しくなっている。

 朝食は港でとシルバと話して船外に出る事にした。

 このタイミングではシズキは居なかった。いつもは大体直ぐに何処からともなく現れるのに、今日は居ない。これはシルバと法国に関わる話をするチャンスなのでは?


「あの…」


 私が話をしようとした瞬間に、道の角から赤い頭が現れた。


「にゃー、ここの港の飯はこの先の酒場がいいにゃ。案内してやるにゃ」



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