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無料では終われない19

 この巨大な手は私の防具の追加装甲だ。最初は状況に応じて変更する仕様だったのだが、アダマスと深く結びついた結果、巨大な人型から戻らなくなってしまった。

 製作者のビシムも安定しているので問題ないとの事だった。


 この巨大人型ロボのような存在は、私の要請でアダマスが転移させ、何処にでも来るようになっているが、今回私は要請していない。

 ただ、アダマスに危険な状況になったら使うように指示はしていた。


 空間の裂け目のような転移門から追加装甲がズルズルと這い出して来る。

 ここは室内なので、10m以上あるこの巨人が直立出来るスペースなどある訳が無い。


 巨人の全身が転移門から抜けきると、私は手に運ばれて巨人の股に運ばれた。股の開口部からチューブ状の器官が私を包み内部へと飲み込んでいく。

 追加装甲のコックピットに当たる部位は胸部内にあるのだが、私が乗り込む際は何故かこの経路になる。

 胸のところがガバッと開けばそれでいいのではと思うのだが、何故かアダマスはその案を採用してくれない。


 まあ、色々とあったが、私は追加装甲を纏って、先程まで交渉していた人物を巨大な手で壁に縫い止めている。

 コックピットの映像越しではあるが、交渉相手の顔は靄がかかっていて分からない。シルエットや色合いから男性で髪型はスキンヘッドである事が分かるくらいだ。


「これは、どういう事かな?」


 男は壁に縫い止められながらも冷静に質問をして来た。


「身の危険を感じて、咄嗟に自身を守ってしまいました。ご無礼をお許し下さい」


「まさかここまで組み敷かれて、謝罪されるとは思わなかったが、離してもらえるのだろうか?」


「いえ、それについてはまだ安全とは言えませんので、もう少々お付き合い下さい」


 爆音を聞いて駆けつけた使用人達に囲まれている状況だ。


「そうか。しかしこんな体験をするのも久しぶりだ。いいだろう、このまま話そうではないか」


「まだ、商談の機会はあると言う事ですね」


「この場が収まり、2人が無事であればな。しかし、それが君の磨いた盾という訳かな? 怪物の首はまだ落ちていないようだが、よいのかね? 商談などせずに全て奪うという手もあるだろうに」


「私に国は作れませんから、商談にする事は絶対です。それに私は色々な怪物を知っているんです。あなたのように用心深い人ならば、こんな目立つ場所に1番大切な物は置かないのでは無いでしょうか。一見、厳重に守っていると見せかけて、実はそれも囮というのは、よくある話でしょう?」


 まだ確証は無いのだが、シルバが以前に対面した際に術を解析した限りでは、転移門の入口のような気配があったそうだ。彼はいつでも逃げられるのでは無いかという推論は立てていた。


「ほう、面白い考えだ。この世の殆どは無知無能であり、知る事も考える事も備える事もしない者ばかりだ。そんな中で黒明柚香は違うのかもしれないな。どうだろうか、商談などの面倒は止めて私の側に立つというのは如何かな?」


 突然の勧誘だ。正直、正体不明の人物に従うつもりは無いが、ある程度認められたという事は朗報だ。


「私自身を売り込むつもりはありません。ただ、私の提示した条件を飲んで頂きたい、それだけです」


 私の手の中の男は顎を触っている。もしかしたら顎髭があるのかもしれない。


「未開の聖王国でその姿を晒し天人の名を広め、今度はこの地にて国を欲するか。どうやら世界を大きく変えるつもりなのだろうが、意図は…、私を持ってしても分からぬか。なかなか面白いではないか。いいだろう。その商談受けようではないか」


 男が何か指でサインを送ると、使用人達は部屋からゾロゾロと出て行ってしまった。

 そして、この姿って天人と呼ばれているのか。知らなかった。


「ありがとうございます。契約の書面を用意してますので、印を頂けますか」


「この状況では難しいので離してもらえるかな? この部屋どころか館には既に私と君しかいないのだ。出来れば椅子に座っていた頃の愛らしい姿に戻ってもらえると助かるのだがね」


 何かされそうで恐らくはあるが、流石にこのままで調印という訳にはいかない。私は男を掴み、彼が座っていたであろう机の残骸のある辺りに下ろした。


「姿はこのままとさせて頂きます」


「天人との契約という訳か。この荒れた場に相応しい演出ではあるな。どれ、書面を確認しよう。ここに出したまえ」


 辛うじて残った机の天板を男は指差していた。私の差し出した契約書に目を通すと自らの血で拇印を押した。


「契約の印を確認しました」


「言っておくが、私にとってその紙切れは何の拘束も発生させる事は出来ない。だが私は契約の内容を遵守しよう。そうさせるだけの事が今日の口約束にはあるし、何よりそうしなければ面白くない」


 まあ、そうだろう。この調印は形だけのものだ。要は彼が国を作るか否か、それが重要なのだ。


「国はいつ、何処に出来ますか?」


「既に私の部下が国作りに動いている。次の月には出来ているだろう。場所は水晶湖の南になるな。王はシルトの名を冠する者が務めるだろう」


 そんなに直ぐ出来るものなのたかと思うが、この男が言うならば、実現するのかもしれないと思ってしまう。


「では次の月を待ちます。国が出来ていなくても、私があなたに要求しに来る事はないでしょう」


「言ってくれるではないか。国は何があろうとも出来ている。それは私の求める物に必要だからだ」


「面白いからですか?」


「そうだ。それに私の興味は先を向いている。天人を名乗り国を欲する存在は、さぞ大きな事をなし得ようとしているのだろう。私はそれが成る寸前の絶頂に現れてそれを阻止するだろう。強大な謀が崩れる様は何事にも変えられない美しさがあるとは思わないかね? 希望や野望の潰える瞬間こそに価値がある。それに比べればこの世のなんと無価値な事か。私はその時に現れて、その時こそ今日出来なかった続きをしようではないか」


 相当に歪みきった狂人の類いの才人のようだ。これは脅しというより決意表明なのだろう。


「私が成したいのは、個人的な小さな満足です。そんな大それた事ではないですよ」


「言ったであろう? この世の大半は無価値なのだと。価値のある物は僅かだ。その小さき光に星に並ぶ価値があるのだよ」


「これ以上の話は必要ないようですね。私は帰ります」


「好きにするがよい。しかし、最後に一つ聞いておく事がある。国を作るのは可能だ。私が作るのだから必ず栄えるだろう。だがその国は数年の内に消滅するだろう。そうなるとするならば黒明柚香がどうするのだ?」


 国を作ったとしても滅ぶとはどう言う事なのだろうか。単純に考えれば侵略してくる国があり、その国に奪われて吸収されるのだろうか。


「何かが攻めて来るならば、攻められないようにするまでです。略奪なんて事が長く成立しないという事を思いしらせてあげますよ」


 私の言葉を聞いて男は膝を叩いて大笑いした。


「そうか! それは愉快な話を聞いた! 是非その手腕を見せてもらおう」

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