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無料では終われない15

 変態の館に来てしまった。一緒に連れて来てしまったトゥーリンはなんとか逃す事が出来たが、私は逃げら無い。

 帰る事は出来るが、それでは何の解決にもならないし、何よりこの変態に負ける事になるのが許せないのだ。


 この変態は何らかの薬物を盛って人の生理現象を促進して目の前で鑑賞するタイプだ。どう人生捻じ曲がったらこうなるのか分からないが、この無害そうな見た目からは想像もつかない闇を抱えていそうだ。


「どうやろか?まだ夜会は続くと思ってええんかな?」


 まるでプレゼントを開ける子供のようにワクワクした表情からは、変態性をまるで感じらない事が、このオーホンとか言う変態のヤバいところだ。


「ええ、最後までお付き合いしますよ」


「ほな、続きを出すわー。楽しんで行ってな」


 オーホンがハンドベルのような物を鳴らすと大きな皿に盛られた料理が運び込まれた。大きな魚が焼かれそこに白い餡がかかっていて色鮮やかな香味野菜が添えられていた。手の込んだ料理そんな印象だ。


「大きな魚ですね」


「中々取れん魚なんよ。今日の夜会に間に合って良かったわー。さ、食べて」


 そう言うとオーホン自らが魚を取り分けて私に差し出してきた。この使用人に任せず自ら動く事で薬物を仕込んでいるのだろうか。恐らくだがこの魚料理にも何か仕込まれているに違い無い。


「頂きます」


 ビシムが防具に仕込んでくれた解毒機能を信じて料理を食べる。オーホンも同じように料理を食べている。今のところ怪しい動きは無い。私に対する敵対行動ならば必ず時間停止が発生するはずだ。


 ―


 特に体調の変化も無く、雑談が続いている。何もしてこないのか、それとも何もしなくても発動する仕組みになっているのか、とりあえず私に変わりないので判断のしようも無い。


「そう言えば、うちの夜会の事は誰かに聞いたん?」


 雑談の自然な流れで核心にぶっ込んで来た。


「いえ、特に誰かに聞くような事はしていません」


「そうなん? まあ、本当のところは分からんけど、かなり対策はしてるみたいやんか」


「偶然ですよ。こんな会だとは思いませんでした」


「この夜会は解放が目的なんよ。人は沢山の事を我慢しとる。それを解き放つ場を提供したいと、うちは思っとるんよ。生まれたままの欲求に従う、そんな姿は尊いと思わへん?」


「全ての者がそうでは無いでしょう」


「そうやなあ。せやけど、そんな事を言う娘が内からの衝動を抑えられなくなったらどうなるんか見たいやないの」


 オーホンはそう言うと机の上にあった香炉に火を入れた。


「興味本位で聞きますが、それは何ですか?」


「この煙は人の肉欲を増進して、判断を曖昧にするんよ。かなり強力やから、これを使ったらこの部屋は1月は使えんようになる」


「煙だと、あなたにも影響があるのでは?」


「ふふ、うちがお客さんだけに盛っとる思ってたん? そんな不公平はせんよ。うちにも同じだけ入れて、ずーっと我慢しとるんよ」


 なんと鑑賞形のドSかと思ったら、対戦形のドMだったようだ。


「こんな事をしても無駄ですよ。私には効きません」


 煙の効果は私には無いようだ。しかし、オーホンには効いているようで、顔は赤く呼吸も荒くなってきている。


「これも効かんのは大したもんやわ。こうなったら夜会の締めだけはやってもらおかな」


 オーホンが壁の装飾を操作すると、壁の隠し扉が開き何やら器具が置かれた棚が沢山出て来た。

 まあ、出てきた器具の形状から間違い無く卑猥な事をする目的で作られていると分かった。中には拷問器具に近い物もある。


「締めというのは何をするのか参考までに聞いていいですか?」


「本当はここに残ったもんの溜め込んだものを解放して、汚濁に塗れるのがいいんやけど。今回はうちのだけを解放して貰おうかな。涼しい顔しとるあんたをうちの汚濁で染めるんも中々興味を唆るわ」


 めちゃくちゃ嫌な要求が来てしまった。もはやこの変態には指一本触れたくないというのに、これをやらなければ夜会は終わらない。

 何とかオーホンの内なる欲求を消す事は出来ないだろう。この人も普段は技術開発の顔役をやっているのだ。欲望の火が消えれば冷静になるかもしれない。


「その締めとやらですが、方法は私にお任せでよいですか?」


「この部屋にあるもんやったら何を使ってどうしてもええで」


 私はアダマスに指示して掌より黒くて丸いシールのような術具を発生させた。術具を床に置くと人1人が直立で収まるくらいの黒い円柱に変化した。


「では、この中に入って下さい」


「何やのそれ? 術具みたいやけど、見た事無いわ」


「これはあなたの欲求に答える道具です。これに入って満足いかないなら、別の方法を指定して下さい」


「わざわざ術具まで用意してくるなんて、そんな娘は今までおらんかったわ。ええよ使ったろうやないの」


 そう言ってオーホンは円柱に触れたが、触れた手は円柱に飲み込まれたので、咄嗟に手を引き戻した。


「恐れなくてもいいですよ。この中に全身を収めて下さい」


「なんか知らんけど、なかなか興味深い術具やないの。後でじっくり調べさせてもらうわ」


 そう言い残すとオーホンは円柱形の闇に消えてしまった。


 円柱の中の状況は外からは全く知る事が出来ない。聞いていた通りの効果だ。


 この円柱はビシムが開発したモリビト向け自慰ツールだ。生殖にまるで興味を示さないモリビト向けにビシムが作り法国で無料配布している。

 私が元世界の知識として伝えた触手モノが発案の原点になっているらしい。

 私も使用した事が無いので、中がどうなっているのか分からないが、中に入った者の欲求を満たし、この術具自体への依存度は抑えるという効能らしい。

 法国からこれを持ってくるつもりは無かったが、ビシムが性欲に関する無関心や無視、抑圧の危険性を懇々と説いてくるので、仕方なく防具から生成可能という条件だけ受けたのだ。

 まさか、こんなところで役に立つとは思ってもみなかった。


 ――


 待つ事2時間くらいだろうか。円柱からオーホンが出て来た。円柱は直ぐに丸いシールサイズに戻り炭クズのように消えてしまった。一回使い切りなのも仕様通りだ。

 オーホンの姿はほぼ変わっていない。服に汚れもなく顔つきで言うと夜会開始前に戻った感じだ。


「どうした?」


「こ、これは、凄いもんやで……」


 オーホンは疲れた感じも無くスタスタ歩き、壁の装飾を操作して隠し扉を閉じた。

 ビシムに聞いた通り、使用者の現状復帰機能もしっかり機能しているようだ。中で何を撒き散らそうが全て吸収されて衣類にすら汚れも残さない優れ物なのだそうだ。


「夜会は終わりでいいですか?」


「これ以上は無いな。全部持っていかれたし、なんなら新しい扉が開いてしもたわ。うちはまだまだ甘いようやな」


 すっかり欲求の火は消えたようだ。


「では、技権の承認委員会はよろしくお願いしますね」


 私はそう言って館を出た。外でトゥーリンが待っていたので、夜会成功を伝えて帰路についた。


 ―――


 明けて翌日の技権審査委員会は開催され、トゥーリンの通信法は見事認められた。


 ただし、その報を聞いて私には一つ納得行かない事があった。技権の承認は満場一致だったのだ。私の昨晩の変態バトルは何だったのだろうか。


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