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無料では終われない14

 技権の獲得には審査委員会とやらで票を過半数獲得しなくてはならないらしい。

 その為にやらないといけないのが、投票権のある顔役とやらに根回しなのだそうだ。

 人が集まって何かの利権を決めるとなれば、どこの世界でもやる事は同じなのだと痛感した。


 票は8であり過半数までは後1票あればいい状況だ。そうして、この1票を得る為には接待が必要なのだが、相手方は大層な女好きだそうな。

 間違い無く体を要求されるだろう。女好きと言われているのだから間違い無い。

 問題なのはそんな趣向の人物に対して用意出来るカードが、私とトゥーリンしかいないという事だ。

 一部のマニアか特殊な性癖の人物には効果のある布陣かもしれないが、恐らくスタートラインにすら立っていないだろう。


 という訳で別の話し合いが出来ないか連絡を取ってもらったら、どういう訳か私とトゥーリンの2人で来いという事になった。

 相手はトゥーリンの見た目や素性は知っているかもだが、私の事は何も知らないはずだ。

 これは容姿や素性で選んでいない?かなりヤバい人物な気がしてきたが、とにかく話だけでもして見る事にした。


 ――


 この都市は広い範囲が壁で覆われている。工業区は壁の範囲ではないのだが、あのブロックを積んだような建造物群がそのまま壁の延長となっている。

 商業区がこの都市の中心であり、金輪の主の居る地下空間も商業区にある。

 私達が向かったのは商業区と工業区の中間にある場所だった。

 大きな、そう屋敷や豪邸と呼んでいいタイプの建造物が立ち並ぶ中に、白を基調にしたブロック状の建物があり、そこで獣車は止まったのだ。

 この建物の主は、かなりの富があるのだろうと簡単に想像がついた。


 来るまで獣車の中でトゥーリンに、相手と2人っきりでされたら1番嫌な事を聞いておいた。

 この国のここに住む人達の倫理観や貞操観念がよく分からないので、どこまでOKなのかラインが知りたかった。


「えー、一晩中鉄の棒で全身を叩かれ続けるのは嫌ですね」


 トゥーリンの回答がこれだ。正直ラインがより分からなくなったが、拷問は嫌だという回答にも聞こえたので、ここは結構修羅の国なのかもしれない。


 トゥーリンの認識がどうあれ、彼女を守るのは私の役目だ。この防具があるし、いざとなれば追加装甲召喚も出来るし、シルバとも念話で連絡が取れるようにした。なんとかなるだろう。


 白く四角い館の扉が開く。白は豪華や権威の象徴なのだろうか。そう言えばミルダさんのお店も白かった。何か意味があるのだろう。

 館の使用人は全員が女性だった。ここの主は予想通りの人物のようだ。ただ、金輪の主のところのようにあからさまにエロスを出していない。使用人の衣服もバンで見た通行人と変わらない感じで、常識的な感じがする。

 ゲストルームに案内されると、丸い眼鏡をかけた女性が座っていた。


「ようこそ当家へ。うちがオーホンよ。まあ座って」


 以外にもオーホンなる人物は女性だった。使用人と変わらない感じのゆったりした服に、頭の上でまとめた髪、そして人の良さそうな笑顔で糸目な感じの、凄く普通な感じの人だった。


「お招き頂きありがとうございます。私はユズカと申します」


「えー、私はトゥーリンです。第二研究所のジスカさんに師事頂いています」


「まあ、あなたがトゥーリン? 初めて会うたわ。うちもジスカとは色々とあるんよー」


 何か話やすそうな感じの雰囲気だ。


「事前にお伝えした通り、ご要望の物は用意出来ないので、何か別の事で歓待出来ないかご相談に来ました」


「そんな事ないわー。2人とも可愛いで。さ、もう準備出来とるから、奥で夜会を始めようやないの」


 その言葉を受けて使用人が奥の扉を開く。漂ってくる匂いから察するに料理が用意されているようだ。


「あのー、ユズカさん、私どうすれば」


 不安そうに見てくるトゥーリンに頷く合図だけして、私は言葉を続けた。


「では、お言葉に甘えて夜会に参加させて頂きます」


 今のところまだ大丈夫だろうと判断した。オーホンに続いて夜会とやらの会場に入る。二重扉の先は真っ白な部屋で、豪華そうな食事や飲み物が用意されていた。壁の意匠が凝っているのか意図があるのか分からないが、部屋は恐らく正六角形になっている。


 食事の置かれた机は小さく、使用人も側に付かない形式のようだ。

 主であるオーホン自らがもてなす形式のようで、ティーポットから人数分のお茶を用意していた。


「ほなら、夜会を始めよか。まずはこれで乾杯やで」


「頂きます」


 そう言って、いい温度になっているお茶を3人で飲んだ。


「そや、この夜会には一つ決め事があるんよ。もう始まってしまったけど、夜会の間はあの入って来た扉から奥で過ごす事になっとるんよ。簡単やろ」


 何か意味深で怪しいルールが付け加えられた。


「もし、その決め事を破ってしまったらどうなりますか?」


「そら、今回の話は無かった事になるわな。せやけど、今回は初めてやからどちらか1人でも残ったらええよ」


 ますます怪しい。何かさっきのお茶に仕込まれているのだろうか。しかし、私の防具は何もはんのしていないし、仮に敵性の何かでないとしても、薬物、毒物、細菌への解毒と耐性はあるように防具が守ってくれる。

 トゥーリンに何かあった場合はさっさとリタイアしてもらえばいい。


 ―


 研究所にまつわる世間話に花が咲いているところ、どうやら最初の変化が来た。


 トゥーリンがそわそわし始めたのだ。傍目からでも分かるくらい尿意に抗っている。


「トゥーリン、退室させてもらったら?」


「い、いえー、だ、大丈夫です。我慢出来ます」


「なんやの?我慢が体にようないよ。その辺でしてええよ」


 オーホンは笑顔を崩さずさらっと異様な事を言い放つ。まるで日常のような雰囲気だ。

 今の感じからするに、尊厳破壊系のドSという性癖が濃厚だ。


「いえ、それだとお屋敷を汚してしまいますので、トゥーリンは退出させます」


「そんな気にせんでええよ。うちの家は汚れがわかり易いように白にしてあるんよ。白の真価は汚れる事で発揮されると思わへん?」


 あー、これはかなりブッ飛んだ感じのドS変態のようだ。どうりで参加者の容姿を気にしない訳だ。色んなタイプの女性の尊厳を破壊して、それを楽しむ感じなのだから。特異なパターンであればある程よいのだろう。


「トゥーリン立てる? 直ぐに退出して。後は私がなんとかするから」


「あらー、もう1人帰ってしまうん? 漏らすくらい誰でもしてきた事なんやから。今更もう一回したくらい同じなんやない?」


 あれこれ言ってくるオーホンを無視して私はトゥーリンを部屋から送り出した。


「連れが失礼しました。お屋敷が汚れませんように、連れには外でするように言ってあります」


「あらー、うちはここでしてもらっても良かったのに。それに、どこでどんな風にするんか興味あったわ」


 このオーホンとかいうど変態には絶対に負けられなくなった。こちらに来てこれほど頭にきた事は無い。

 トゥーリンの急な尿意も、さっきのお茶に強力な利尿作用があったからだろう。私に聞いていないのは解毒されたからだ。

 問題は奴がどうやってこちらにだけ薬物を盛ってくるかを突き止めなければならない。解毒不能の何かを食らった場合に、私の負けになってしまう。

 今回ばかりは絶対に勝つ、勝って奴をぎゃふんと言わせないと気が済まないのだ。

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