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無料では終われない13

 通信システムの権利を握る。これは私が知る世界においてはお金の匂いしかしない。


 こちらの世界ではモリビト、ヤマビトにおいては通信や情報共有の基盤というのは既にしっかりとある。

 ヤマビトに至ってはバイスが持っている精神網の種族統一版である大地の輪とか言うのがあるので、下手をすると私の世界より情報通信が発達しているのではと思う。

 モリビトも全知球という種族知識の統合データベースがある。

 参人の世界では通信は珍しい物では無い。しかし、広く文明界という括りにした場合、通信はまだ発達していない。

 念話術はあるが、それを扱える術者は少ないそうだし、恐らく長距離は無理だろう。そうなればトゥーリンの通信技術が確立すれば凄まじい産業革命になるかもしれない。


 となると、通信が発達して問題がありそうなのは、精神網を既に持っているバイスだろう。以後の交渉の運びにはバイスの動向を注意しなければならない。


「その通信というのは、どういう事が出来るの? 離れた人と会話出来るとか?」


「いえー、文字や鏡面投写した像を術具間で共有するものです。既に球体投写した映像の保存は技権が確立されており、術具の開発も進んでいます。別の場所の像を保存出来るならそれを遠隔地で共有出来れば、より技術情報の発展に繋がると考えたのが、この通信法の基礎になります。しかし、球体投写の情報は大きく、通信で共有するには長い時間がかかってしまいます。そこで情報量を最小限にしつつ、文字は像とは別のより体系化された情報にする事で、情報劣化防止と通信時間の短縮に繋げる事にしました。像は鏡面投写でもまだ時間がかかる問題がありますので、今は文字通信の検証を行い、既にこの集合棟内での通信試験は完了しています」


 トゥーリンは自分の得意分野や興味のある事に対しては長文になるタイプのようだ。

 しかし、研究内容を聞く限りではネットの始まりを十分に感じる。これはかなりの覇権技術になるのではないだろうか。


「文字通信だけなら実用化出来そうって事だね」


「そうー、です。まだ暗号化や受発信用の術具の開発は必要ですが、文字を共有するだけならば問題ありません」


 これは凄いぞ。もしかしたらかなり早い段階でお金になるかもしれない。


「バイス。ジスカさんの借金を私が肩代わりする事は出来る?」


「ああー? 何言ってやがる…。まあ、出来なくは無いが、そうなると金貨200枚払ってもらう事になるがいいのか〜?」


「なんと! わしの借りた金の100倍ではないか! 横暴にも程があるぞ!」


 ジスカさんの怒りはもっともだが、バイスが足元を見てくるのは分かっていた。


「私が肩代わりするのはジスカさんに元の生活に戻ってもらいたいからだよ。才能のある人は普通の生活をするだけで素晴らしい成果を出すんだから、普通が1番だよね? 普通にある物が突然失われると人は何もしたくなくなるよ。美味しい物の味がしなくなるだとか、眠れなくなるだけで人は崩壊してしまう。分かるでしょ?」


「お前、何言ってやがんだ? て…、まさかお前…」


 露骨に言ったのでバイスは直ぐに気が付いたようだ。

 そう、事故とはいえバイスの普通の当たり前を今はシルバが握っているのだ。この件をこんな風に使うなんてシルバには相談していなかったので賭けではあるが、法国外の法や常識にシルバは関心がなさそうなのでいけると踏んでいる。

 私も脅迫などしたくは無いが、恐らくこの通信技術の発展にバイスは反対するだろうから、早めに押さえておきたいのだ。


「普通に戻る為にも借りた分は返すよ。そうじゃないとお互いに妙な事になるでしょ?」


「その条件を俺様に飲めって言ってんのか?」


「無理にとは言わないけど、お互いに出費は少ない方がいいかと思って」


 バイスに打ち込まれた毒の中和剤はシルバから無料で提供されている。バイスが借金の肩代わりに100倍の手数料を課すのであれば、こちらも無償提供を止めるという脅しだ。


「少し待つのじゃ」


 意外な事にドリスが会話に入って来た。


「なんでしょう?」


「儂は冒険者の輪が文明界で広がる事を観測出来ればいいので干渉するつもりは無いのじゃが、自然的な輪の広がりを害する者を看過できんのじゃ」


 なるほど。ドリスはこれまで付いて来るだけだったが、そういう立ち位置だったのか。

 モリビトの技術を使った私がバイスの行動を阻害するのは、ドリスの言うルールには触れそうだ。


「おい! 俺様のやり方に入ってくるんじゃねぇ! この件は俺様が直々にけりをつける! 関係ねぇ奴は黙っていやがれ! よし、それじゃジスカの借金を肩代わりさせてやろうじゃねえか。ただし利息の分はもらう金貨は3だ。これは譲れねえ。期日も一月待ってやろうじゃねえか。これでいいんだろうがよ!」


 バイスは借用書をバンと地面に叩きつけた。


 ―


 借用書の名義を変更するとバイスは何処かへ行ってしまった。ドリスもバイスに付いて行ったようだ。


「それにしても良かったのか?わしなんかの借金を肩代わりして」


「別に無償でやった事ではありません。借金を返す代わりに協力してもらいたい事があるんです」


「金貨3枚に足るような事がわしらに出来るかのう?」


「場合によっては金貨3枚を超えるかもしれないですよ。まず確認ですが、技権だけがあってもお金にならないですよね」


 技権が特許のような物ならば恐らくそうだろうとう推測で話をしている。


「その通りじゃ。技権として認められても、それを使う者がおらんと金にはならん。多くの者に利用されれば使用料が取れるが、そうなる技権ばかりではないのじゃ」


「では技権の売り込み先は必要という事ですね? そうでしたら、その売り込み先、最初の一つを私に指定させてもらえないですか? そうして使用したい技権はトゥーリンさんの通信です」


 ジスカとトゥーリンは顔を見合わせた。


「そのー、かまわないのですが。わたしの通信はまだ技権を獲得出来ていませんし、技権に出来ると確定したわけでもありませんよ」


「技権にするには後どれだけの障壁があるんですか?」


「技権審議委員会にて承認される必要があるのじゃ。既にトゥーリンの通信は試験済みじゃから、委員会に提出するのみなのじゃが。多数決で決まるから審査委員に根回しする必要があるのじゃ」


 何処の世界でも議会による決議というのは裏でどうにかするもののようだ。


「その根回しはどうすればいいんですか?」


「審査委員会は8人の顔役の多数決じゃから、その内の1人はわしじゃ。5人の決がないといけんから、後4人取り込む必要がある。3人はわしの知り合いじゃからなんとかなるが、後1人なんとかせんといかんのじゃ」


「なんとか出来そうな人は居るんですか?」


「おるにはおるぞ。無類の女好きのモーテンは接待でなんとかなるはずじゃ」


 なんか、猛烈に嫌な予感がしてきた。


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